第28話 おっぱい様と彼女の誠意


「……まぁ、そういうことで、明日の朝7時半、豊房公園の入り口で待ち合わせだそうです」


「なに律義にアポまでとってきてるんですか、バカなんじゃないですか?! 現野くんも責任とってついてきてくださいね!?」

「絶対イヤですよそんなの!! ……てか、え、行くの!? 律儀に行くの!? すっぽかせばいい話なのに……」

「……そ、そんなことできるわけないです!!」


 珍しく大声を出した宮歌まゆりに、僕は少し驚いてしまった。


「だって……私は人を好きになったこととか、まだないですし、告白というものが、どれほどの勇気が必要なのかよくわからないですけど。……けど、こんな私でも、それがとてつもなく酷いことであることくらいは、わかります」

「……じゃあ、言わせてもらいますが、言づてで告白の返事を撤回しようとするのはいいんですか? 僕的にはそれだって同じくらい酷いことだと……」

「そんなことわかってますッ!!」


 宮歌さんは、見ているこっちが気の毒になるほど困った顔をして、


「……わかってますけど、……ダメなんです。正直に言うと、私、男の人、怖いですし……一見ちゃんと会話してるようでも、内心恥ずかしさと不安で頭がぐちゃぐちゃになってしまって。……そんな私が、一対一で男性と、しかも一度応じてしまった告白への返事を撤回するなんて、想像するだけでも……震えが止まらなくて」


 強く握った彼女の指先が震えている。

 それは「ちくドリちくドリ」と目を輝かせる今までの彼女とは似つかない、ただ心から恋沙汰に苦悩する一人の少女の姿だった。


「……もちろん、だからといって、やってることの最低さに変わりはありません。本当は昨日、後悔してたんです、なんであんなこと頼んじゃったんだろうって。……なのでこうなってしまったこと実は、本当にちょっとだけ、よかったとも思うんです。……だから」


「……ああもう、わかった、わかりましたよ! 行けばいいんでしょ、行けば!」


 良心の呵責やらなんやらに耐え切れなくなった僕が、あっけなく折れる。

「……ほんと、ですか?」

「……たしかに元凶はお前だけど、少なくとも僕が事態の悪化に一役買ったことは間違いないし」

「……ッ、一号さんッ!」


 ズイ、と。

 豊満なおっぱい様……もとい宮歌さんが身を乗り出してくる。

 さらりとした長い金髪や、輝く碧の瞳。チラリと覗く胸元の透き通るような白い肌が至近距離にせまって、僕は思わずドキリとしてしまうが。


 喜びやら安心やら感動やら、色んな感情が見え透いた彼女の笑顔を見て、


 ……っ。


「……そ、そのかわりちゃんと自分で言えよッ!? あくまでも僕は一緒にいるだけだから!」

「……ハイ、わかってます! 現野くんがいれば百人力です! 百人フッても大丈夫です!」

「いや、それはさすがに某物置メーカーに謝りなさいよッ!?」


 

 そうして発足した、僕と宮歌さんの『告白の返事を撤回する会』。


 この会が後ほど、『おっぱい教』へと姿を変えていくことは、この時はまだ誰も知るよしもない。


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