第27話 伝言ゲームとおっぱい様


「……で、話って何?」


 放課後。

 僕は川上と校舎裏で向かい合う。


「というか、悪い、ホントに、誰?」

「その件はもういいから! 別に覚えてもらおうとも思ってないから!」

「でもさすがにさぁ、こうしてせっかく宮歌に呼び出されたと思ってきてみたのに、実際いたのはお前なわけで、意味が分からないし、ちゃんと説明してほしいんだが」


 呆れた様子で頭を掻く川上。

 コイツの主張はもっともだし、失礼なのはこっちなことは間違いない。


 ……ああ、なんでこんなこと引き受けちゃったんだよ僕、全てはあなたが悪いんですよ、おっぱい様ッ!


「僕はその、……2Cの現野。……宮歌さんから、伝言を預かってきてて」

「伝言? なんでわざわざお前が? ラインで送ればいいのに」

「いや、ラインでは話しにくいことだからですよ! 僕がたまたまあの場に居合わせたので、その……」

「へぇ」

 疑わし気な川上の視線に、僕は冷や汗をかく。

 ボッチゆえに人としゃべるのはただでさえ神経を使うのに、今はもうフル稼働だ。余計な波は立たせたくないので失言だけは避けないと。


「……なあ、うつの」

「うつつのです。『つ』を一つ抜かすだけで途端に精神疾患真っ盛り、みたいな名前になるので、ちゃんと言ってください」

「はぁ。……じゃあ、現野」

「はい、何でしょう」


「……で、宮歌はなんて?」


 ……さぁ、ついに来たぞ、この瞬間が!


 川上の問いに、僕はおっぱい様のため、と自分を納得させる。

 何にせよ僕は自分の私利私欲のために、罪のない川上へ『実はお前、フラれてるぞ』『そして乳首ドリル好きの変態だと思われてた』なんて残酷な事実を伝えようとしているのだ。

 変な緊張で胸の鼓動が思わず早まる。

 一応間違わないように、僕は心の中で伝える言葉を反芻する。


(無かったことにしてください無かったことにしてください。無かったことに、……よし)


 ついに言葉を発しようと、僕はすうと息を吸い、


「なかっ」

「――まさか無かったことにしろ、とか言わねぇよな……?」

「ぎくッ」


 ……口からはみ出た言葉をあわてて飲み込んだ。


「……言っとくが、俺、そういうの直接言われないと信じない性質だから。……もしそういう類のことをお前が言ってきた場合、俺の認識はたった一つ」


 整った顔を怒りで歪め、


「……お前の、クソ汚ねぇ横やり」


 鋭い視線で川上が僕を睨み付ける。


「もしそうなら俺はお前を許さないからな」


 ……。


「で?」

「宮歌はなんだって? ……うつの」


 腕を組み、若干不機嫌そうな表情の川上が、僕へと答えを急かしてくる。


 ……僕は。




ππππππ




「――ちょっ、どどどーゆうことですか現野くんッ!」

「し、仕方ないだろ、無理だったってあの状況で全部ぶっちゃけるのは!」

「それにしてもですッ!! その状況から一体どうして、私があの人とデートしたがってることになんかなったのですかッ!?」


 日の暮れた帰り道、宮歌さんの絶望的な叫びが辺りに響く。 

 結局あの場で僕が「……察しがいいじゃねぇか川上。でも残念ながら俺は言うぜ、無かったことにしてくれや(キリッ)」などと言えるはずもなく、


「あははー☆ そ、そんなわけないじゃないですか、もちろん、『なか、よくなりたい』って! 伝えに来たんですよー! まったく川上サンったら早とちりだなぁー☆ あの人あれですごいシャイなところあるから、代わりにデートの約束してくるように頼まれたんですよ☆」


 完全に手のひら返して、保身に走った次第である。


 ……はい。まったくもってお恥ずかしい限りでございます、さーせんしたッ!!



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