第29話 おっぱい様は、謝れない
「……」
「……」
「……お、おはようございますー」
「……」
早朝、7時半。
豊房公園の入り口が、修羅場と化していた。
……。
……ぎゃああああああ、誰か助けてー、気まずすぎるうううッ!!!!!!
(なんだこの、川上と宮歌さんと、僕の超奇天烈、謎空間!? どうすんですか、これ!? 川上の『なんでコイツここにいんの?』感半端ないんですけど! 宮歌さんは宮歌さんで一見平然としてるけど、あれは内心キャパを超えて何も考えてないモードだぞ?! そうして生まれるこの無言の時間、まさに地獄ッ!! 一刻も早くこの場からオサラバしたいんですけどおおお!!)
二人の間に挟まれた僕は、だらだらと流れる汗がいつの間にか脂汗になり、
「あはは、とりあえず歩きましょー、このまま止まってたらみんな遅刻遅刻―ッ」
よくわからないキャラ設定でとにかく口を動かしまくっている。
「なぁ、うつの、一つ聞いてもいいか?」
「ハイ、なんでしょう!?」
「……お前、宮歌の何なの?」
……こっちが聞きたいわ!
僕は思わず心の中で隣のイケメンへ悪態をつく。いや、でも思うよね! 普通思うよねそうやって!
……さて、どう説明したものか。
そう思った矢先、
「……ほ、保護者ッ、…………です」
宮歌さんが僕を盾にしながら言う。ああそうですね、まさしく保護、おかげで川上はさっきから一切宮歌さんの影しか見てないですけどね!
「はぁ」
川上はといえば、ため息だけついて無言で歩きはじめるし、
「……はい……」
宮歌さんは相変わらず、もじもじと僕を盾にするようにして川上を避け続けている。
「いやー、それにしてもいい天気だー、公園も適度に人気がなくて、何か話をするにはもってこいの環境ですなぁー! ねッ、二人とも?」
「……ああ」
「……そうですね……」
「……」
「……」
……ああああああ、もう、どうしろとッ!!
なかなか会話の弾まない二人に、僕はやきもきする。
……コイツら、僕がここまでしてるのに、まだ一つとしてまともな会話すらしてないんですけど!?
『……オイッ』
ほとんど唇だけ動かして、僕は先ほどから思考停止して慣性のままついてくる自動人形こと、宮歌さんに合図を送る。
『……さっさと、ハナシを、切・り・出・せ・!』
彼女は途端にぶんぶんと小さく首を振り、
『無理無理無理無理無理無理無理無理ッ!』
『いやなんでッ!? 昨日の勢いはどうしたッ!?』
『……予想以上に、3人って気まずくて! かえって2人の方が難易度低かったような気さえしますしッ! 完全に誤算でしたッ!!』
『よしじゃあ、離脱しようッ! 僕としては今すぐにでも、よろこんでッ……』
『それも無理ですッ!! この状況で現野くんに抜けられたら、それこそもう本当に終わりです!!』
『なら、一体、どうするつもりなんだよ!?』
『……こうなったらもう、強引にでも話題を、って』
そうこうしているうちに、僕等の目には我らが学び舎、豊房高校が映っていた。
……着いちゃったよ!!
考えてみればその辺の公園なんて、特に会話もせずに黙々と歩き続ければすぐ踏破できてしまうものなのだ。
僕と宮歌さんが顔を青くしていると、
「じゃ、俺はこれで」
早々に川上が離脱しようとしているじゃないですかッ!?
……どうする!?
何か手はないのか、と僕が焦っていると、
「……あ、あのッ!!」
ついに宮歌まゆりが口を開いた。
川上が振り返り、続く言葉に注目が集まる。
「……川、上君……その、……あの、」
たどたどしいテンポながら、しっかりとした発音で宮歌さんが言い、傍らで傍観する僕にも思わず力が入る。
……そうだ、いけ、言うんだ宮歌さんッ!!
「……よ、よかったら一緒に、お昼ご飯、食べません!?」
……逃げたー!!
結局、その問いに川上は承諾してくれたものの。
「いやぁー、……」
「……」
「……」
昼休み、相変わらず会話のない二人の間で、僕は再び人間ラジオと化してひたすらおしゃべりを続け。
「そういえばー、……」
「……」
「……」
放課後、相変わらず会話のない二人の間で……以下略。
その翌日、再び豊房公園から……以下略。
……そんなことが、代わり映え無く永遠と繰り返されて、三日が経った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます