第33話 おっぱい教徒です、おっぱい様

「……」

「……」


 辺りが急に静まり返った。


「……は?」

「何度も言わせるなよ。変態じゃなく、おっぱいを神のごとく愛し敬い崇拝する、おっぱい教徒だと言っている!」


「あ、はは。……川ちゃん、こいつ頭大丈夫か?」

「は、さぁ、俺にもよく……」


 そこで川上が何か思い当たったように、


「……ああ、そうかわかったぜ、薄々感づいてはいたけどよ、うつの。……お前、宮歌のこと好きなんだろ」


 ニヤリと笑みを浮かべ、反撃開始とばかりに指摘してくる。


「……俺の告白を宮歌が受け入れたことが、お前は悔しくて悔しくて仕方かったんだよな? だから終始、宮歌に金魚のフンみたいにくっついて回ってたんだろ? ……情けねぇな、お前。……自分の失恋を認められずに、どうせあれだろ? 今回だって宮歌に保護者断られたから、俺のこと嵌めるためにストーカーして盗み聞きしてたんだろ?」


 そう言って勝ち誇った笑みで、


「……マジ気持ち悪いな、うつの。……おっぱい教徒だかなんだか知らねえけど、やってることはただの変……」



「――ハァ?」



 言いかけた言葉を、僕はわざとらしく遮る。


「……アナタ、ナニ、言ってるんデスカ?」


「何って、図星だろ!? お前は宮歌のことを……」



「――ええ、ただのおっぱい、と思っていますが、何か問題でも?」



「……え?」


 虚をつかれたような顔をする川上へ、


「聞こえませんでした? 僕は宮歌まゆりのことを、単におっぱいとしか見ていない、そう言ったんですッ!」

 

 堂々と、まるで自分の誇るべき勲章を掲げる兵士のように、はっきりと僕は宣言する。

 その意味するところを理解した群衆が、大きくざわめき始めた。


 そして、おっぱい教徒の反撃の火蓋が切って落とされる。


「彼女のおっぱいは最高ですよ! サイズもさることながらあの張り、カタチ、全てにおいてパーフェクトですッ、間違いなく一生涯で一度お目にかかれるかどうかの一級品ッ! そんなおっぱい様を遠くから眺めて、僕はいつも思っています。『おっぱい様、ありがとう』とッ!」


 絶句する川上と、周囲の有象無象。


「……だから、宮歌まゆりが好き? ……とんでもない! たしかに彼女のおっぱい様は素晴らしいですが、宮歌まゆりに限らず全ての女子は僕にとって、『おっぱい様』以外の何物でもないッ! なんでも短絡的に恋愛に紐づけた挙句、勝手に『勘違いしないでよねッ!』というやつですッ!」


「……」

「……」

「どうです? 少しはわかってもらえました?」


 僕の問いに、唖然としていた川上が士気を取り戻し、


「は、……なんだお前、結局お前の方が最低じゃねーか。……『女子は全員おっぱい』? んなマジキチなこと平然と言える野郎に、説教される覚えは微塵も……」


「たしかに僕は最低だ。認めるよ。ましてや人の恋沙汰や性事情なんて、興味もないしとやかく言う気もない……でも」


 そこで、僕は自分の中の煮えたぎるような怒りを、



「――中途半端に誠実ぶって、両方侮辱するようなヤツは、もっと最低なんだよッ!!」


 止められない激情の奔流を、口にする。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る