第32話 保護者(笑)と、おっぱい様
――げ、川上!
僕のすぐ目の前を、友人らしきチャラい男子生徒と歩いている。
川上とは気まずい空間を共有した思い出しかない上に、その友人らしき人物も見るからに陽キャっぽくて苦手だし。
幸い僕に気付いた様子はないので、歩くペースを速めて撒いてしまおうか、などと思っていると、
「……え何なに、保護者って? マジ笑えるんだけどー。毎回必ず同伴とか、そいつ、ゼッタイ宮歌のこと好きだわー」
……あれー!? もしかして話題、ぼく!?
「……さぁな。まぁでもおかげさまで、こちとらこの三日まともに宮歌に触れることすらできなかったし、かといって、宮歌自身が保護者って同伴してくるヤツを、邪険にもできねぇし。……もし全部アイツの計算だとしたら、とんだ食わせ物だと思うぜ、実際」
「……いやーいるんだよねーああいうキモイ取り巻きがー。『お近づきになりたかったら、僕を倒してからにするブヒ☆』とか言い出しそうじゃねえ?……マジウケんだけどッ」
(……いやいやいや、なんですかその歪んだ現野夢人像!? そんな策略系でも親衛隊的な暑苦しさも全然ないんですけど!?)
そして、改めて判明した事実、
……僕は川上に相当嫌われている!
(……ですよねー! わかってましたわかってました。もう完全に、邪魔ッ!以外の何物でもなかったですもんね、ええ、こんな僕でもわかりますそれくらいー)
だくだくと滝のように冷や汗が流れ出し、
いよいよ真剣に退散を実行しようとしたその時。
「てかさー、実際宮歌って、軽くね? 陰ではケッコーやることやってるってことっしょ? ……男泳がせながら、川ちゃんの告白即答なんてやるよなー。いやーうらやましいわ川ちゃん。俺もあの乳とヤリてー」
チャラ男の言葉に、僕は思わず足を止める。
「……これから会うんしょ? やっちゃえよ! 今日は、いつもの『保護者(笑)』いねーんだし」
……。
……は?
今、コイツ、何て言った?
興奮した様子で話すチャラ男に、心の底から感情が湧き上がる。
……よくわからないけど、これは多分、嫌悪だ。
平気で異性をやっちゃえとか言える神経、僕には到底理解できない。
ただ、理解できないけど、こっちだって曲がりなりにも盗み聞きなわけで。
そもそも、こんな違う世界の人間の、仲間内の冗談みたいな発言に、いちいち怒っても仕方ない。
湧き上がる激情を、僕は理性で押さえつける。
その時、
「――ばかじゃねぇの?」
川上が返答する。
「――言われなくてもヤるに決まってんだろ。ここまで焦らされると、さすがに我慢も限界だ。……ぶっちゃけさっきからずっと勃ちぱなしでさ。多少強引になってでも、今日こそあの巨乳を……」
「なんだ、それ」
気が付くと、身体が動いていた。
「なんだそれって言ってんだッ!!」
飛びかかるようにして、僕は川上の襟首へ掴みかかる。
その表情は「しまった、聞かれた」みたいな顔をしていて。
……全てが、僕の癪に障る。
「そんなことのために、待ち合わせに来てたのか? 僕がいなかったらすぐにでも手を出してたのか? ……あんな告白をしておきながら考えたことはそれだけだったのか?!」
「……いや……その、違……」
「……ちゃんと答えろよ!! ……お前が欲情してる間に、アイツが何を、……ッぶッ!?」
顔面に衝撃が走り、僕は我に返る。
……殴られた?
瞬きをすると、チャラ男が、
「んだてめぇ、いきなり! 誰だよ?」
僕の胸ぐらをつかんで凄んでくるのが見える。
その形相は、瞬間着火剤に火が付いたように怒り狂っていて、僕は一瞬ひるみかけるが、
「……保護者」
「……あ?」
「くだんの保護者(笑)だって言ってるんだッ!!」
チャラ男の指を制服から引き剥がし、距離をとる。
そこで僕は少し冷静になり、改めて自分の置かれた状況を理解した。
途端に怒気を孕んだチャラ男と対峙する僕の身体は少し震え、向けられる敵意と周囲からの注目に頬が熱くなる。
騒ぎに気付いたらしい周囲の人だかりは、人員を増やしながら僕等に視線を注いでいる。
……どうする?
(……やめようか? やっぱりウソです、すみませんでした、と、いつかみたいに謝ってしまおうか?)
そんな考えが、頭をよぎる。
でも。
……それでもまだ、無視できないほどに。
――僕の心には、強い憤りが、怒りがある。
「保護者? ……あ、もしかしてお前なの!? うわ、マジウケる! ヤバすぎだわ、この変態野郎!」
「……変態? ふざけたこと言うな、僕は変態じゃないッ」
(社会的生活? 別世界の人物? 周囲の視線? ……そんなこと、なんだっていうんだ? ……そんなこと、心からどうでもいいッ!!)
……そして僕は、歩みを進める。
「……僕は」
二度と戻れない道へと。
「――僕は、おっぱい教徒だッ!!!」
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