第31話 おっぱい様と待ち合せない朝
(……やばー、遅刻するーッ)
翌日の午前八時。
久方ぶりの待ち合わせのない朝にゆっくりしすぎた僕は、駆け足で登校し、
……ん?
前方に見えた、おぼつかない足取りの金髪の姿にギアを落とす。
「……えと、おはよう」
「えッ、あ、あ、現野くんですかッ、……お、おはようございます」
「……おま、何その顔! 目が超充血してるし、クマも酷いんですけどッ!?」
「え、あはは、……実は昨日? あ、今日ですね、緊張のあまり人生初の完徹というものを敢行しまして。いやー、いいですね完徹。身も心もふわふわしてるところです」
「いや、頭の中までふわふわになってますけど!?」
「えー、あははーそんなことないですよー」
「……そんなんで今日、大丈夫なのか?」
一応心配して尋ねたものの、当の宮歌さんは、
「だいじょぶでーす! あ、……こんなところに、ちくドリできそうな手頃な乳首が……」
「幻覚ですよ!? 何の禁断症状なんですか、それ!」
「あ……そういえば現野くんもなかなかに素敵な乳首をお持ちで……。……一本ドリらせてくれませんッ?」
「ちょっとッ!? やめろその人差し指! ていうか正気に戻って!?」
そんな様子で登校後もフラフラし、授業中も終始集中を切らした様子だった。
「……なぁ、本当に大丈夫、お前?」
昼休みに昼食をとり終えた僕は、周囲の目が気にならないタイミングを見計らって話しかける。
「……ああ、あのですね、ヤマ場は超えたというか、お弁当を食べるとなんだか元気が出てきまして。……なので大丈夫です」
「そ、そうか。……ならいいんだけど」
「ハイ」
さらりと答えた宮歌さんの様子に、
……。
「あの」
「……? なんですか?」
「……何か、僕にできることはないか?」
「じゃあ今すぐにシャツを脱いで乳首を……」
「却下」
「ふふ、冗談ですよ?」
そう言った彼女は微笑み、
「……今のだけでも十分ですよ。……ありがとうございます、現野くん」
「では」と彼女は席を立ち去っていく。
その後ろ姿へ僕は、
「もし失敗しても、…骨くらいは拾ってやるからッ」
サムズアップされた親指だけが、僕へと振り返った。
ππππππ
時刻はもうすぐ午後四時になる。
校舎はようやく呪縛から解放された生徒の声で賑わい、帰宅や部活や談笑など、それぞれの時間を謳歌しようと期待に胸を膨らませている。
……もうすぐ、待ち合わせの時間だな。
(……アイツ、ちゃんと言えるのかな)
無意識にそんなことを考えてしまい、僕は慌てて自分の思いを打ち消す。
(……あの乳首ドリル好きの変態のことだ。きっと手のひらに『ちくドリ』とか書いて飲み込んで、緊張なんて吹っ飛ばしてるに違いない。……あ、これはホント、マジでやってそうなヤツですね)
……。
……。
「ああー、もう」
正直、気にならないといえば嘘になる。
今日の宮歌さんは色々とコンディション悪そうだし、何よりあの男慣れしてない変態生娘が、あのイケメン川上へちゃんと正直な気持ちを伝えられるのだろうか。
……まぁ、僕がここで悶々と考えてても何もならないけれど。
僕は少し自分が恥ずかしくなり、
(……はあ、帰ろ)
教室を出て、帰路に就く生徒の流れに合流し、
ふと前を見上げると、
「ないわー、そりゃないわー」
――げ、川上!
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