第12話 おっぱい様と、いかがわしいこと

 余計に妄想がたくましくなった僕はしかし、「じゃ、じゃあ」と、まだ食い下がる意思をみせる。


「……抽象的にいうと、どんなことなんですか?!」


 なにせこちとら一度はセクハラ提訴に震えた身、勘違いの末の社会的抹殺未遂なんて二度とごめんですから。……どうせ勘違いのオチなんだろうけど。

 宮歌さんは、少し俯いて、

「えと……しいことです……」

「んんと、すいません、もう一度……」

「だから……しいことです」

もごもご言っていてよく聞こえない。

「え? なんだって?」と思わず僕が難聴主人公ばりに聞き返すと、何やら観念したように。



「……い、……いかがわしいことですッ!」



 

 (――衝撃の発言をぶっ放してきたあああああああああああッ!?)




 ……つまりこれは、


(――誤解じゃない!?)

 意識した瞬間、僕は自分の顔がみるみる赤くなっていくのを感じる。

 その瞬間、浮かび上がっては否定し続けていた妄想が、一気に最浮上してきた。


『宮歌さん』

『ひゃ、……』

 ベッド上。耐え切れなくなった僕は宮歌さんを思わず押し倒す。

『あ、僕、すいません、つい』

『もう、せっかちさんなんですから、現野くんは』

 服がはだけ、肌色のおっぱい様が淫らにもあらわになった宮歌さんが、そっとその手を僕の手に重ねて。その手を……、

『……心配しなくても、ちゃーんと順番ですよ? ……私の……聖・地・巡・礼っ……!』


(……なんてことにーッ!?)

 そんな僕の内心を知ってか知らずか、宮歌さんは「もうっ」と頬を膨らませて、


「……いいから、座ってください」


 指さす先は、……ベッド!

 そこで僕らは膝と膝を突き合わせ、正面で向かい合う。

(き、緊張で胸の鼓動がッ! というか目が合わせられないッ)

 チラリと宮歌さんを盗み見ると、同じように盗み見ていたらしい彼女と目があい、真っ赤になって目をそらす。激ヤバい。可愛すぎて死にそう。


「……私からもひとつ、確認させてほしいのですが」

「な、なんでしょうッ」

「好き、なんですよね、おっぱいのこと」

「な、何度も言わせないでいただきたい!」

「そうですよね、……し、失礼しました」


 宮歌さんはそれから、すぅ、と小さく息を吸い、


「あの……、目を、閉じてもらえますか」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る