第11話 保健室で、おっぱい様

 手に汗がにじむ、とは、まさに今の僕のことです。


 放課後。

 宮歌まゆりに呼び出された場所の名は、「保健室」。

 扉には「退席中」の札がかけられており、これがどういうことなのかというと、養護教諭が何かの用事で保健室を離れている、ということになる。

 普通その場合では、鍵がかかっているはずなのだが。


 ガラ、と僕は、湿った手で扉をそっとスライドさせる。


「あ、来てくれたのですね」


 そこにいたのは、金髪を優雅に翻らせてふりかえる、巨乳美少女転校生だった。他に人がいる様子は見られない。

 僕は「お待たせしました」と冷静を装いつつ、

 ……え、ふ、二人きり!?

 改めて認識した現在の状況に、軽いパニックを起こしかけていた。

「それで、……ちゃんと約束は、守ってくれましたか?」

「……はい。言われた通り、誰にも言わないで来ました、けど」

「そうですか、そうですか。……どうやら、あなたを見こんだのは正解だったようです」

 

 ……本当言うと、漏らすような友達がいないだけなんですけど。

 ひそかに自虐的思考におちいる僕の様子を、知ってか知らずか宮歌さんは嬉しそうにうんうん、と頷く。


 それにしても、と僕は考える。

 誰もいない放課後の保健室。

 かすかに遠くから聞こえるのは、上手いとも下手とも言えない吹奏楽部の練習音だけだ。

 そんな状況で、学園一ホットな金髪美少女と、二人きり。

 それだけでも十分想像力が働くが、相手が宮歌まゆりだ、という事実がさらにその妄想を加速させる。

 ……だって、僕の知るかぎり、学校一の巨乳ですよ!?

 ……しかもなんか「何でもお願い聞いてくれますよね」とか言ってたし!

「……」

 いくら意識しないようにしても、これは無理だ。(けして僕が童貞だからなわけじゃないですから、勘違いするなよ!)ベッドやティッシュ完備の保健室という場所に、どうしてもそういう方向性を読み取ってしまうわけで。

「あの、……では、はじめましょうか」

「ひゃい! ……は、はじめ!?」

 思わず噛んでしまう僕だが、本当のところはちゃんとわかっている。これはラノベでよくありがちな、相手には全くその気がないのに、勝手に勘違いして突っ走る主人公の独り相撲的展開、大方そんなとこだろう。


「……あ、あの!」

「は、はい!」

「……はじめる、って具体的に、何をはじめるんでしょうか!」

 その僕の問いに宮歌さんは何やら頬を赤くして、

「……ぐ、具体的に、ですか!?」

「はい。その、色々と状況的に誤解してしまいそうなので、僕としては、できれば明確に言っていただいたほうが何かと!」

「い、言わせるんですか!? 明確に言わせるんですかこの状況で!?」

「え!? まさか言えないようなことなんですか!?」

「言えないというか、……その、」

そう言って口ごもり、蚊の鳴くような声で


「……は、恥ずかしいので……」

 

 ……何だこの誤解しか生まない問答!?


 

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