第49話 紙切れとおっぱい様

「……今すぐに、結論を出さなくてもいいよ。ただ、」


 コトリさんが、僕へ何かを手渡してくる。

 ……なんだろうこれ、B4くらいの微妙なサイズ感の、一枚紙?


「答えが出た時のために、一応渡しておくね」

「……何ですか?」


 僕の素朴な疑問に、コトリさんは、さも当然みたいな反応で。


「? ……もちろん、婚姻届けだけど」


「ぶふぉーーッ!!?? ……あ」


 思わず取り落とし、その瞬間、絶妙なタイミングで、ぶわっと突風が吹く。

 

「ひゃあっ」

 

 同時にコトリさんの膝上スカートもひらりと舞い、水色ストライプの縞々パンツがお目見えし、


「紙がッ!!」


 パンツに意識を持っていかれている隙に、婚姻届けは宙を舞って。


「と、飛んでっちゃったじゃないですかッ!? どうしよう!」


 動揺する僕。しかし裏腹にコトリさんは、


「えー、あ、そうだねー」

「いいんですか、そんなレシート無くしたくらいの反応で!?」

「いいも何も、あんな紙切れくらい、いくらでももらえるからね。ユメト、知らないの? 今や雑誌の付録に配布されるくらいのものだからー」

「へぇー、知らなかったー。そうなんですね。……それなら、」


 ほっと安堵しかけた僕へ。


「……まぁでも」


「……ユメトの個人情報は、勝手に打ち込んであるんだけど」


「……」

「……?」

「う、うおおおおおおおおおおおおッ! どこッ!? どこ行ったああああッ!?」

「あ、ちょっとー、スペアあるからそんなに焦らなくても……」

「そういう問題じゃないッ!!!」


 駆け出した僕は、急いで先ほどの風向きの下流へ向かう。

 おそらくこの体育館裏からは、まだ遠くないと思うのだけど。

 

 ……もし、人に拾われたりしたら……。


 冷や汗が出るような想像が頭によぎった瞬間、


「あ、あれかッ!」

 

 体育館と校舎を結ぶ通路、その空間で婚姻届けが風に流されている。

 そしてそれは、

……誰かの足元に、はらり、と落ちて。


「あっ」

「……?」


 ――って宮歌さん!?!?


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