第48話 おっぱい様と人類の利益

「……さっきの話の、理由、なんだけど」


「……もちろん、まゆりが初めて乳首ドリルした相手っていうこともある。あの男子耐性ゼロのまゆりが、自分から癖を伝えるなんて、よっぽど、とも思うんだ。……でも、実際にキミと会って、話を聞けば聞くほど、キミとまゆりは相性ぴったりだって思った! まゆりがユメトを『初めての相手』に選んだのも納得だった! ……だってキミは、見ず知らずのボクなんかのためにさえ、自らを犠牲にして突破口を開いてくれたんだし。……まゆりが選んだ男子は、やっぱり違うな、さすがだなって、すごく思ったんだ。……だから」


 コトリさんは、さっきの告白(もどき)みたいな赤い顔をして、


「……付き合ってほしいんだ。正直、僕はもう、ユメトしか考えられない」


 その顔と言葉の思わせぶりさに、僕の理性は再びダメージを受ける。

 しかし、先ほどよりは冷静にその意味を理解することができていた。


「……どうして、コトリさんがそんなこと?」

「……それは言えない。いろいろ事情があるんだよ。……ボクにも、まゆりにも」

「事情って、……そんな言葉で片付けられても……」


 苦言を呈す僕へ、コトリさんは、

「……まぁでも、一つ言えるとしたら」と。


「あの変態による犠牲者を、これ以上増やすのは得策じゃないってことだよ」

「……え、そこ!? 理由そこなの!?」

「事態は一刻を争うわけで。……その点ユメトがまゆりを貰ってくれさえすれば、社会はまた一つ平和になり、全人類の利益になるのだけど……」

「……社会とか、人類とか、……あいつのちくドリ好きは、公害か何かなのッ!?」

「……それに聞くところによれば、キミはおっぱい大好きおっぱい教の教祖様みたいじゃないか。じゃあ、キミも、まゆりの胸の破壊力は十分に感じているんでしょ?」

「……ええ、まぁ、それはそうですが」

「……あれ、脱ぐと、もっとすごいよ?」

「――マジでッ!?」


 思わず身を乗り出してしまう僕。しまったと思った時にはもう遅く。


「……ほらー、やっぱりキミが引き受けるのが、全宇宙にとっていいことなんだよ?」

「スケール広がってますよッ!? ……うぐ、でもまぁ、宇宙は置いとくとして、たしかに互いにおっぱい好きであることに関しては、否定しきれないとこはありますよ? ……、でもダメです!」

「なんで?」

「プライドです!」

「……いや、何の?」

「おっぱい教徒としての!」

「……言ってること、よくわからないんだけど」


 呆れたような顔をして、コトリさんがため息をつき、

「とにかく、だよ」


 そう言って、僕へその白くて細い人差し指を突き付けてくる。


「……キミとまゆりは、正直、どう見てもお似合いの二人だ。……キミも実際に、女バスの子達にからかわれてたじゃないか? あれが周りの総意だよ。……そしてまゆりをずっと近くで見てきたボクの個人的な見立てでも、キミたち二人は一緒になれば、きっと幸せになれると思う。……だから、まゆりのこと、真剣に考えてみてくれないかな?」


「……そ、そんなこと、急に言われても……」


 ……宮歌まゆりは、僕にとって。


 クラスメイトであり。ちくドリ好きの変態であり。そして、おっぱい教徒二号。おっぱい教、はじめての信徒。僕が、今、教祖と呼ばれる理由。

 それこそ最初は意識こそしたけれど、今となっては、好きとか、付き合うとか、そういう対象じゃないはずだ。


 ……宮歌さんも、そう思ってる、僕はずっと、そうやって思ってたけど。


 僕が一人、自分の中で自問自答していると。


「……今すぐに、結論を出さなくてもいいよ。ただ、」

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