第45話 おっぱい様と元メイド


「じゃ、じゃあ、ホントにまゆりとは、カン違いの末に、乳首ドリルされただけだったんだ?」

「……その通りです。しかし、こうして改めて振り返ってみると、アイツのことをとやかく言えないくらい僕も相当やらかしてるな。……あー、怖い怖い、ホント自重せねば」


 宮歌まゆりとの関係性のあらましを、貝塚さんにかいつまんで話しつつ、僕は思わず身震いをする。


「……自重、かぁ。……なんだかお互い、耳が痛い言葉だね……」

「……いや、もう本当に。……その点考えてるのか考えてないのか、アイツの自由奔放な感じがちょっぴり羨ましくもなったり……」

「あ、それわかるわかるッ! まゆりってなんていうか、地に足つかない、おとぼけの代表みたいだよね、……例えて言えば宙に舞う、正体不明の白い毛玉みたいな!」

「ケセランパセラン先輩のことですかッ!? え、そこまで言いますッ!? 辛辣ッ!」


 貝塚さんの表現に若干引きつつ、


「……でもまぁ、少しだけわかるはわかる、かもですが」


 

 そんな僕の隣で、貝塚さんは遠くを見るように続ける。


「でしょ? ……でも、時々、そうじゃない時もある。……そして、そういう時は大抵、見ているこっちが恥ずかしくなるくらい、真っ直ぐに、真剣に、一切の妥協も許さずに、何の犠牲もいとわずに、突き進めるんだよね。……まゆりのそういうとこ、ボクは心底すごいと思うんだ」

「……そう、ですね」

 その言葉に、僕は宮歌さんが乳首ドリルについて語る姿や、川上との一件に悩む姿を思い起こす。

 もしも、彼女のあんな姿を知らなかったら、見ていなかったとしたら、僕は同じように川上に対峙することができたのだろうか。


「……まぁ、でも、九割九分はおとぼけなんだけどね。実際」


 呆れたように笑顔を見せる貝塚さん。

 その様子は、ただの友達のことを語るにしては、……なんというか、あまりにも親しみがありすぎて。


「あの、貝塚さん」

「コトリで構わないよ、同級生なんだし。……そのかわり、ボクもキミを、ユメトと呼んでもいいかな?」

「……特に問題はないけど。……それで、コトリ……さん、って結局、アイツとどういう関係なんですか?」


 胸に浮上してきた疑問を、僕はそのまま口に出すことにした。


「どういう関係って……うーん、難しい質問だなぁ。ちゃんと理解してもらうためには、宮歌家のプライバシーを大幅に開示しなきゃならないし……」


 一瞬悩むような素振りを見せたものの、


「……親友。幼馴染。心理的姉、心理的妹。同居人。そして……元主人と、元メイド……」


 ……え?


「……メイドッ? ……気のせいですよね?! 今まるで漫画の世界みたいな単語が混ざっていたような気がするんですがッ!?」


 聞き捨てならない単語に動揺する僕へ、


「……気のせいも何も、宮歌家は旧華族系の財閥だよ? メイドくらい普通にいるし、まゆりのいた別邸に限っても、従業員数、百はくだらないと思うけど……」

「旧華族ッ!? 別邸!? 百ッ!? 突然滝のごとく開示される情報の重さに、僕のキャパシティは早くも限界ですよッ!?」

「……え、まさか知らなかったのかい? ……さっきの話を聞く限り、もうすでにその辺の話を終えているくらいの間柄だと思ったんだけど……」


 心底意外だ、と貝塚さんは目を瞬かせる。

 

(……いやいやいや、こちとら意外とかそういうレベルを超えて、もはや恐怖ですよ! なに、何なの、宮歌まゆり! ……ただのちくドリ狂、変態おっぱい教徒二号じゃなかったのッ!?)


 提示された濃ゆすぎる情報を、未だ受け入れられない僕を尻目に、


「まぁ、でも、とりあえずその由緒正しき財閥、宮歌のご令嬢が、今、理由あって一人暮らしをすることになって。一度ボクはメイドとしての職務を退いたんだけど。……正直、まゆりって身の回りのこと、なーんにもできないし、すっごく心配だったから、ボクも何だかんだで同居することになったんだ。……そういう意味で、ボクは元メイド、というわけ」


 自らを人差し指でさし、小さく首を傾げるコトリさん。正直言われたことの半分も消化できてないけど、僕は、「へ、へぇー」と分かったようなふりをする。


「……質問の答えになったかな?」

「あ、ええ、……まぁ。……あ、申し訳ないんですが、もう一つ質問をしてもいいですかね?」

「……? もちろん、遠慮せずに聞いてよ」

「……じゃあ、その、えと、……」


 僕は緊張で舌が重くなりつつも、


「……な、何で、あんなこと言ってきたのか、教えてほしいんだけどッ!」


「……あんなこと?」

「……その、……妊娠、とかッ、……孕ませる、……とかッ!」


「……ッ!」




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