第46話 おっぱい様と疑問

 たどたどしくなりながらも、何とか言いきった。

 心なしか今、僕は頬が赤くなっている気がするが、この際どうでもいい。


(――なにせ、わたくし、本日、生まれて初めて、おっぱい様に触れさせていただいたのですからッ!!!!!!)


 正直、たとえ誤解だろうがなんだろうが、本当はどうでもよいのです。

 ……未だ手に残る、豊かで弾力のある柔らかな感触。


 いつか、きっといつかは、と心から羨望してやまなかった奇跡の瞬間。

 それがついに、今朝、現実のものとなったのです。


 孤独なおっぱい様への信仰生活を続けてきた努力が、やっと報われた瞬間だったのです。

 これはもう、一生涯の宝物として、その余韻を楽しむことだけに、余生の全てを使っても悔いはない、と。

 雷に打たれている間の僕は、それほどの思いでいたのに。

 

(……それなのに下半身とか、子づくりとか言って、水を差すとは何事ですかッ!! これは是が非でもその真意を問いただして……)


 ……。


 一瞬沸騰しかける頭を、僕は落ち着けつつ。


 ……そして、よくよく冷静に考えれば、彼女の発言はおかしいところだらけなのだ。


(……初対面の相手に、あんな恥も外面もない要望をするか? こうして話す限りでは、コトリさんは割とまともな感性の持ち主だと思うし。かと言って、あの時の彼女の様子は真剣そのものだった。けしてふざけてたり、人を陥れようとしてるようには見えなかった)

 

「……その、引き合いに出すあたり、宮歌さんが関わってるのはわかったんだけど。……それ以外はぜんぜん、状況が読めなくて。……その、単純に僕のことが好き、ってわけじゃないくらいのことは、……一応僕にでもわかるしッ」


「だからッ、その……できれば教えてほしいッ、……もちろん、よかったら、だけど」


 最後は何故か気恥しくなり、語尾が尻すぼみになる。それでも僕は、胸に渦巻く疑問を伝え……、


「……ユメトッ!!」


 突然名を呼ばれ、僕は思わず飛び上がりかける。

 が、何とか堪えたところで、目に飛び込んできた、超至近距離の美少女の赤面顔。


「……まず、ごめん!! ……その、その質問には、なんというか、い、色々あって答えられないんだ! とにかく僕が早とちりしちゃって、は、恥ずかしいから、ただただ早く忘れて欲しいんだけど……ダメ?」


 うるうると次第にまた涙目になってくるコトリさん。

 僕はその様子にはっとして、自分の心に痛烈な申し訳なさを感じ、


「あ、……そ、そうだよなッ! もちろんです! その、変なこと聞いて悪かった……」


「……その上でッ」


「え?」

「……その上で、ボク、……ユメトに、お願いしたいことがあるんだッ。……ボクばかり自分勝手に話してるの、わかってるけど。……でも、聞いてほしい。何も言わずにまず聞いてほしい。……ボクの、お願い……ッ」


 潤んだ瞳。上気した赤い顔。彼女の吐息の小刻みなリズム。


 ……あれ? 

 なんか、告白前みたいじゃね?


 ……なーんて。


 などと思ったボクの耳に届いたのは、


「……その、……つ、……」


 なんだか最近よく聞く、例の言葉だった。



「――つ、付き合ってほしいんだッ!!!!……」



 ……。


 ……は?







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