第3話 血の涙とおっぱい様

「えっ、っと」


 咄嗟のことで対処できず、僕は背を向けたままになってしまう。

 そんな僕へ彼女は、

「……その、……よかったら少し、休憩しませんか?」


「あ、ぼ、僕は別に大丈夫ですけどッ、でもF……、」

「……F?」

「……いやいやッ! み、宮歌さんが疲れたようなら、い、いっそのこと今日はこれくらいで終わりにしていいと思うんですよねッ。うん」

「……? はい。……じゃあ、そうしますか?」


(あああぶねーッ!!)


 僕は背中越しに感じるF88半球さんの「?」の視線に、だくだくと冷や汗を流す。

 間違いない。この状況、これ以上続けたら絶対ボロが出る。もはや時間の問題だ。

 よもやF88半球おっぱいの破壊力が、ここまでのものとは! 僕の陰キャとしての擬態エネルギーゲージは、もう限りなくゼロに近いのです。


 もしもこの学校一のホットパーソンに、僕のゲスな本性がバレて拡散されるなんてことがあれば、ただでさえ陰キャの僕のスクールカーストは、最底辺へと叩き落されること確実だ。


 ――それだけは、なんとしてでも避けたいッ!


(幸い、F88半球さんは、かろうじて出した僕の提案を受け入れてくれたし、さっさとこの場から退散して……、)



 僕が状況を楽観視して後ろを振り向いた、その時。



 「んんー」とF88半球さんが、両手を広げて大きく伸びをした。



 その窮屈そうな白ブラウスに、外方向へと力が加えられ、

 豊かな胸元の膨らみによって生じる張力の全てが、




 ――彼女のブラウスの第二、三ボタンへと注がれた。




 ――パァン!!



 その瞬間、僕は見た。

 見たのです。


 まるでスローモーションのようでした。

 彼女の方向から、プラスチックボタンが近づいてくる様を。

 その二つのボタンは、空中でブルーインパルスのように平行に並んで、


 ペチッ。



 ……僕の両眼球を直撃してきました。




「――ッ!? ふぁああああああああッ!? 目がああああああッ!!」


 思わず某大佐ばりに絶叫しかける僕。


 しかし、


(――ん、待てよ? 僕の目に直撃したのは宮歌さん第二、第三ボタン……ハッ!? ……ということはッ!!)


 僕はある確信の元、未だ痛覚刺激のただ中にある両目を、血の涙を流しながら強引にこじ開ける。この際、もはや失明すら恐れぬ心境なのだ。


 そして、僕は目撃する。


 サラサラと宮歌さんの金色の髪が広がり、

 清楚さが感じられる白いブラウスの間から、薄ピンク色の可愛いレースが見える。

 その奥で「それ」は、ホックが外れたのか、自由を謳歌して揺れて。

 僕の選胸眼をもってしても気付けなかった、さらなる質量と整ったそのカタチを存分に見せつけてくる。

 それでいてピンクの布地を先端へ器用に引っかけるという、まるで神の恵みと悪魔の悪戯が共存する神秘の果実。


 ……すなわち。



(――――――――お、お、おお、おっぱい様ッ!!!!!!!!!!!!!?)




 


 

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