第36話 おっぱい教徒3号と、おっぱい様

 


 僕はあまりの衝撃に、言葉を失う。


「自分じゃ気付けなかったが、お前が指摘してくれたおかげで、俺は決断できた。……確かに言われたとおり、中途半端が一番かっこ悪いよな? ……だから俺は選ぶぞ、女の子より、おっぱいをッ! お前の言うおっぱい教こそが、俺が求めていた道そのものなんだッ!」

 

 そう言って川上は僕の手を取り、


「師匠ッ、……いや、教祖ッ! だから俺をおっぱい教の信徒にしてくれッ!!」


 キラキラとムダに輝く瞳で懇願してくる。


 しかし内心僕は。


(……いやいやイケメンが真剣な顔して何言ってんのッ!? ひぇー、ひくわー!)


 ……正直ドン引きだった。


 殴られると思いきやまさか、弟子入りを志願してくるとは、川上、なんて斜め上なヤツなんだ! というかあまりの鮮やかな手のひら返しに、キャラが崩壊してませんか!?


 ……それに、と。

 

(終わったこととは言え、コイツが宮歌さんにしたこと、僕はまだ許す気にもならない。……そんな相手の突然の変わり身に、正直戸惑うし、……何なら復讐のための欺きさえ警戒してしまうレベルなんだけど……)

 

 ちらり、と僕は川上の表情を見やる。

 おっぱいについて熱く語るその表情は、屋上で初めて会った時の取り繕ったイケメンより、公園や待ち合わせで会った時の仏頂面より、ずっと人間らしくて、親しみやすい気がする。


 ……もしかしたら、本当の川上は、もともとこういうヤツなのかもしれない。


「はああ」


 僕はひとつため息をつき、


「……おっぱい教徒の道は、素人には思い及ばぬ甘くない道だぞ? ……時に何かを捨てる覚悟すら要るもの。……おっぱいのために何かを捨てる覚悟、……お前にはあるのか?」 

「もちろんだッ! ……その証拠に、俺は今までのくだらなかった通称友人たちと、早々におさらばしてきたところ……」

「ええッ!!! マジですか?!」

「もちろん大マジだッ! まぁ、宮歌に謝った時点で、向こうから離れていったようなものだけどな。……でも不思議と、全然後悔してねぇよ。これでよかったって心から思える」


 ……さらりと言ってのけた川上に、僕は呆気にとられる。

 

(そ、そこまでして、お前ッ!)


 ガシッ、と僕は川上の手を力強く取り、


「……安心しろよ、それほどの犠牲をいともたやすく払えるんだ。……もうお前はすでに、立派なおっぱい教徒だよ!」


 僕の言葉に、川上は爽やかに笑い、


「そうか。……よかった。……現野、サンキュ」


 そのイケメンの威力を存分に発揮して、僕の好感度を大幅に稼いでくる。


(……な、なんだコイツ! こんな恥ずかしげもなく爽やかに笑いやがって。僕が女子だったら思わず好きになってるとこだったわ!!)


 ……要するに、僕は見とれたのだ。


 そのことに気が付き、途端に気恥ずかしくなったことを紛らわすように、


「……時に、おっぱい教徒三号、川上よ」

「何だ、教祖、現野?」

「……君、乳首ドリルは、好きかね??」


 この数日間のカン違いを引き起こした元凶について、一応確認をとっておく。

 

「いや、別に?」


 ……ほらきたー、まぁ、もちろんアイツの歪んだ認識が原因のカン違いだって、わかってたことだけどね。……これで改めて、今度アイツをいじるための口実が……、



「――俺、ニップレスフェチなんで」


「……」



 再度言葉を失う僕の前。

 隣のクラスの都落ちイケメンが、今日イチの輝かしい笑顔で笑った。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る