第51話 おっぱい様と、本鈴前の彼女
急かされるようにして、私は教室の、自分の座席に着席します。
授業に遅れてしまうといけないから、とりあえず走ってきたのですが、私の息が荒いのは、有酸素運動をしてたからだけではありません。
『……付き合ってほしいんだ。正直、僕はもう、ユメトしか考えられない』
ついさっき耳にしたコトリの言葉が、何度も私の頭を反芻します。
昼休みに、現野くんの乳首にご挨拶をしようと、体育館裏まで行ったのはよかったのです。
……本当に本当に、悪気はなかったのですが。
思わず目撃してしまった、現野くんとコトリの逢瀬。
それでも最初は、よく意味が分からなくて、何なら、『ついにコトリもちくドリに目覚めたのッ!?』くらいに考えてみもしました。
……でも。
はらりと舞い降りた、一枚の紙。
(……ま、まさかコトリ、名前入りの婚姻届けまで準備してたとはッ!)
断片的にしか聞こえなかった、告白の言葉も、その紙の存在によって一気に実感を伴うものになってきて。
私はついに、確信しました。
(――コトリってば、オチてしまったのですね! ……恋にッ!!)
……そう。
考えてみれば、今日のコトリは朝からおかしかったです。
妙に『恋』という言葉に敏感でしたし、ちょっとした間に見せていた物憂げな表情は、……そう、きっと現野くんを想ってのことだったのですね!?
「……そうですか、そうですか……」
私は、思わずにやけてしまいます。
(何せ、昔から自分に負けず劣らず男っ気の無かったあのコトリが、ついに誰かを好きになる日が来るなんて! ああ、ちょっとお家に連絡しましょうか! 今日はお赤飯を食べましょうッ!)
……何より。
(……お相手に現野くんを選ぶなんて、さすがコトリです、お目が高いッ!)
そのことが、まるで自分を褒められたかのように、嬉しく感じられるのはなぜでしょうか。よくわかりませんが、ニヤニヤが止まりません。
(……まぁ、でも)
『……今すぐに、結論を出さなくてもいいよ……』
……どうやらフラれてはいないものの、即決とはならなかったようですね。拒否こそされなかったものの、未だコトリの片想いといったところでしょうか。
「……そうですか、そうですか……」
私はうんうん、と頷き、そして、
(……これはもう、全面的にバックアップするしかないですねッ!)
私は人知れず、一人、ガッツポーズを決めてやります。
(任せてください、コトリ、……何せ私はおっぱい教徒二号ッ! 現野くんの趣味嗜好は完全に把握しているのですッ! 二人で協力して、めでたく現野くんをオトしてやろうじゃありませんかッ!!)
「ふっふ……ふっふっふ」
もはや声に出ていますが、それでも関係ありません。
私はそっと後ろを確認します。
本鈴の終わり際、駆け込み乗車のように入室してきた現野くん。
「ふっふっふ、覚悟しておいてくださいね……」
「ひッ!? 何がッ!?」
周囲の人を適度に怯えさせつつ、私のニヤニヤはしばらく止まりませんでした。
おっぱいを好きなのは、男の子だけじゃありませんっ! 或木あんた @anntas
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