第34話 アイツと、おっぱい様
「……別におっぱいが好きなことに罪はねぇよ。アイツが可愛くて恋に墜ちるのも悪かねえよ。……でも、」
「……最初から、おっぱいしか見てないのに、何であんな告白したんだよ! おっぱいが好きならおっぱいだけ求めろよ! セフレが欲しかったなら、最初からそうやって言えよ! それとも、本当にあいつが可愛いと思うなら、ちゃんと正面から知り合えよ! 僕が邪魔だったとはいえ、あれだけ時間があって何でアイツのこと、少しでも知ろうとしてやらなかったんだよ!?」
「……」
「……何が付き合ってくれ、だよ!? 付き合ってる相手が今、どんな思いでお前に会おうとしてるかにすら、全く関心もないじゃねぇかよ!? この数日間、アイツがどんな思いでお前に会ってたか、そこにどれだけの葛藤があったのか、どれだけの覚悟が必要だったのか、お前知ってんのかよ!? 勢いで受けてしまった告白を断るために、それでも、告白してきたお前の誠意に報いるために、アイツがどれだけ悩んでたのか、お前知ってるのかよ!? アイツが昨日、緊張で一睡もできなくて、今も体調ボロボロで、そんな状態にもかかわらず、お前から逃げたくないって向き合おうとしてること、お前知ってんのかよッ!?」
「っ、……そ、んな俺は……」
「……ああそうだ、知るわけないよなそんなこと。でも、お前、少しでも気付こうとしてたか? アイツが抱えてたものをちょっとでも感じようとしてたのか? ――お前は本当に、アイツと向き合おうとしてたのかッ?」
「……」
川上は言葉を失い、ただ苦い表情をした。
それが、僕の質問に対する彼の答えで。
そして、その答えこそが、今、世界で一番、僕を苛立たせるものだった。
「……そんな、そんなこともできないのに、ましてやチンコ勃てて欲出してるようなヤツが、……アイツを好きだなんて語るなッ!! おっぱいを好きだだって語るなよッ!? ……アイツは、おっぱいは、片方買ったらついてくるオマケじゃねえんだよ! 全力で真摯に向き合う覚悟すらないやつが、軽々しく好きとか付き合うなんて語ってんじゃねぇよ!!」
強く強く、眉根を寄せて僕は叫ぶ。
川上はいつの間にかまるで怯えた猫のように、僕をじっと見ているだけだ。
そんな野郎へ、僕は。
「要するにお前、」
「――アイツと、おっぱい様に謝れッ!!!」
……。
しん、と廊下が静まり返る。
生徒たちの視線は、いつの間にか僕ではなく、僕に言葉を投げつけられていた川上へと向けられていて、彼の返答を、固唾を飲んで見守っている。
「………くッ……くそ……」
川上は顔を苦し気に歪ませ、悪態をつくが。
その時。
周囲がざわめきたち、その喧騒の間から、
「……う、現野くん? あれ? ……か、川上くんも、……何してるのですか、こんなところで?」
オロオロと困りながら、まるで状況の把握が出来ていない様子の宮歌さんがやってきた。
「……え、というかすごい人だかりですよ!? ななな皆さんここで一体何を!?……ハッ、もしかして、現野くん、ここで公開処刑されてしまっていたりします!?」
「……」
「……」
「え、あれ? なんか、私、今とてつもなく空気の読めないこと言ったみたいな反応なんですけど、……ええと、あの、どういうことだか、誰か教えてくれませんかッ?」
宮歌さんの問いにその場にいた誰もが隣と目配せし合うも、
「……」
「……」
結局は誰も動き出せずにいて。
「…あのう、……ええと」
ただ一人状況から取り残された宮歌さんが、若干涙目になりかける。
……とりあえず、コイツ、KYすぎるから、はやくなんとかしないと。
見かねた僕が、宮歌さんへ声をかけようとしたその時。
「……宮歌ッ、」
先に声をかけたのは、――川上だった。
「……その、……くッ」
そう言い淀んだ次の瞬間、
川上は、両手を床につき、……そして、土下座をした。
「え? ええッ!? いきなり、ど、ど、どういうことですか?」
困惑する宮歌さんの目の前で、
「自分勝手で悪いッ! でも、あの告白……、……なかったことにしてくれッ!!」
「あ、え? ええ―――?」
地に頭が付かんとするほど深々と頭を下げる川上。その後ろではチャラ男が
「ま、まじかよ川ちゃん」と青い顔をして。
「は? 何アイツ、サイテー」
「かっこわるー」
「ゲスの極み男子、ここに誕生」
対する群衆はあからさまに、川上の土下座とその発言に不快感を表している。川上とチャラ男へ向けられる視線に冷ややかさが増し、耐え切れなくなった川上がついに逃亡した。そのすぐ後をチャラ男が追っていく。
それでも野次馬たちは川上について噂をはじめ、出来事をますます周囲に拡散させていく。
「う、現野くん。……ど、どういうことなんでしょうか、一体?」
相変わらず状況についていけてない宮歌さんが、ついに僕に助けを求めてくるが、
「……さぁな」
「え、ちょっと待ってくださいよ、うつつのくーん!」
そして僕は、宮歌さんに追いかけられる。
自分のしたことを思い出すとなんだか恥ずかしいし、それに面白いから、しばらくは真実を伝えずに、黙っていてやろうと。
追ってくる困り顔MAXの彼女をみて、僕はそう決めた。
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