第8話 おっぱい様を、敬います


 ……ちょ、ちょっと待った!

 今、この目の前の、現実に存在するか疑うほどの金髪美少女、「おっぱい」とか言ってなかったですか? ……しかも、様づけで。頭まで下げて。


「何ですか、その驚き! あ、もしかして今の今まで忘れてたんですか!? 私があのあとどれだけ大変だったと思ってるんですか! 急いでデパートまで走って閉店間際のランジェリーショップに駆け込んで。店員さんの作り笑いの圧がすごい中で、空気読まずにサイズ計測頼んで、全ローテ分のブラを買い替えた私の苦労を、一体何だと思ってるんですか、あなたはッ!」

「なッ」

 彼女の言葉に、僕は目を見開く。

 言われてみれば、今日会った時はすでに宮歌Fではなく、最初から宮歌G92釣鐘のおっぱい様その人だった。間違いない。宮歌さんの言葉に嘘はない。……つまり。

 

 ……う、敬った、だと!?


 その瞬間、

 驚きと感動と尊敬と、様々なものが心にひしめいて。

思わずガシッと僕は。

「……ひぇ!?」


 ……宮歌まゆりの両手を握っていた。

「ちょ、あのッ!」

はっとすぐに我に返った僕は、

「……いやいや違う違う、何してんだ僕は!」と慌てて手を離し、

「そもそもおかしいですって! 常識的に考えて、あんなセクハラまがいの気持ち悪い戯言を、真に受けるなんて! 自分で言うのもなんだけど何してんすか! 大丈夫なんですか、そのセクハラ許容の大容量! 年頃の女子としてはこの先かなり心配な案件ですよッ!?」

 しかし、宮歌さんはまたしても「む」と表情を濁らせ、

「何ですかそれ。……人にあれだけ謝罪を要求しておきながら、いざ謝ったらダメ出しですか! ……その鮮やかすぎる手のひら返し、もしかして昨日の『忘れてください』っていうのも、本気だったんですか!? ……あれだけ赤裸々で非常識なプライバシーにかかわる事柄を、堂々と女の子に言っておきながらッ!」

 口調を強めて糾弾してくる。

 ……うぐ。

 確かに。宮歌さんの言う通り、今、僕の主張には全く一貫性がない。たとえ意に反して口走ったこととは言え、相手からしたらそんなこと知ったことじゃない。

(……かと言って、あの変態的な主張を全面肯定するのは……)

などと、煮え切らないでいると。


「あー、そーですかそーですか。よくわかりました」

 どこか呆れたような声で、宮歌さんは突き放すように言う。

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