第4話 おっぱい様にあやまれ
「ひゃぁ」
――まずは、状況を確認したいと思います。
今は平日の放課後、場所は学校の社会科準備室。
そこで僕は、金髪の美少女転校生と二人きりで資料整理をしていて。
その最中、
ふとしたことから彼女、宮歌まゆりの胸ボタンが飛んで、
彼女の豊満な胸部が、下着と共に少し露出した。
「……」
「……」
文面で書くと、ただそれだけのことで。
普通に考えれば、その後は「あ、ごめん何も見てないから」「うん、こっちこそごめん」とお互い恥ずかしがりしつつも、その後、どうしても意識してしまう、という少女漫画的なドキドキを実行すればいいわけで。
もしくは「これは不可抗力だ」と開き直った僕が、「へ、へ、変態―ッ」と真っ赤になった彼女にグーパンチを食らう、というハーレムラノベの定石のようなイベントが、展開すればいいわけで。
その証拠にほら、宮歌さんは頬をしだいに真っ赤に染め、自身の身体を両手で覆ってオロオロしだしている。
……でも、
「っな、」
――次の瞬間、僕は、
「……っんじゃそりゃああああッ!!!!」
某名優ばりの絶叫を、目をこれでもかと全開にして、彼女に見舞っていた。
途端にホコリくさい空気の中、僕の目がドライアイになりかけるが、関係ない。
僕にとって定石の展開が吹き飛ぶほどに、看過できないことがあるのです。
……それは、
「――釣鐘だとおお!? つ、り、が、ね、だとおおおお!?」
もちろん、おっぱいだった!!
「この貧乳大国日本では半球型ですらほとんど見られないというのにッ、そのさらなる上位の円錐型に飽き足らずそれを軽々超えて、釣鐘型ッ!? 夢ッ? 夢なのかッ!? いや神かッ!? やはり神だったのか宮歌F……いや、宮歌G92釣鐘ッ!! 大きさやカタチもさることながらその弾性、形の左右対称性はもはや芸術品と呼んでさしつかえない一級品ッ。神だッ。仏だッ。いや……こうなったらもういっそ神仏と並べることすらおこがましいッ、これはそう、……様、――おっぱい様だッ!!!!」
――そこには、クラスメイトのおっぱいを、神仏すら超越した存在として崇拝し、高らかに拳を掲げる男子高校生がいました。
……そうです、僕です。おっぱいを愛するあまり、もはや宗教にしかけている、敬虔系おっぱい星人こと、現野夢人です。
「……おっぱい様……ああ、なんて神秘的かつ甘美な喜びをもたらす素晴らしい響きなんだろう…………なのに」
僕は目に涙をたたえておっぱいを賛美しつつ、
……次の瞬間、その所有者たるクラスメイトに牙をむく。
「……んで、ブラのサイズあってねぇんだよこの三下がッ!! わかってんのか? てめぇわかってんのか自分がいかほどに愚かな行為をしているのかをッ! あれだろどうせブラはデザインとか素材とか思い入れとか、んな自己中なクソくだらねー理由で選んでるとかそういうんだろてめぇはッ。この際、俺がおっぱい様を代弁してはっきり言ってやるぜッ……」
僕はすぅ、と息を吸い、
「――恥を知れ、この外道がッッッ!!」
ビシッ、と金髪クラスメイトの鼻先に指を突き付ける。
「いいかブラはサイズが命だッ! サイズの合わないブラはおっぱいのカタチを崩すだけじゃなく、姿勢維持にも影響を及ぼす、そして不健康になったあげくおっぱい様に十分な栄養がいきわたらない、なんてことを起こしかねねぇッ! 特にてめぇみたいに、幸運にもボリュームのある、おっぱい様を授かっている場合はなおさらだッ。……なぜなら……」
くぅ、とその光景を想像し、僕は涙を流し一人打ちひしがれる。
「垂れるぞッ!? 将来垂れるぞ間違いなく!それも思ってるより近い将来にッ!! 一刻も早く対策を打たねぇと! てめぇに降臨しているその有り難い『釣鐘型おっぱい様』が、大きいだけで垂れ下がった、下品な『しずく型残念おっぱい様』へとなり下がっちまうッ! いいか、おっぱいは宝なんだッ!! その宝は、年とともに少しずつふくらみ、たわわに実ってそして時と共に失われる、儚くも尊い、自然の神秘のようなものだッ! ……そんなおっぱい様の、本来あるべき姿を、てめぇ個人の怠慢で破壊してみろ、そんなふざけた冒涜、他の誰が許しても、おっぱい教徒たる俺がゆるさねぇッ! ……だから、てめぇ……」
キッと転校生の瞳を睨み付け、僕、現野夢人は。
「――――おっぱい様に謝れぇぃッ!!!!」
クラスメイトの女子の下着へ、ガチでダメ出しをしていた。
狭い社会科準備室に、魔術と科学が交差するラノベの主人公にも劣らない音量の、大説教の残響が響き渡る。
「……」
「……」
僕は、はぁはぁ、と一気にまくしたてたせいで乱れた息を整え、
……ようやく。
(……あああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!)
事態を自覚して顔を真っ青にする。……サムライブルーも真っ青なほどに。
(やややってしまったああああああッ、なんだ僕なんだ僕、おっぱい様ってッ!! しかも三下とか外道とか、そんな汚くて乱暴な言葉をこんな初対面の美少女へ急くように浴びせるなんてッ! ……いや待てよ、こんな絶望的な状況でも、なろう系ラノベの俺TUEE的ご都合展開なら、ヒロインはデレて……)
と、僕は恐る恐る宮歌さんをチラ見するが、
「……え、ええと……?」
……目を点にして、普通にめちゃくちゃ困っていらっしゃるぅーー!
リアル! マジこれが現実! いっそのこと汚物を見るような目で嫌悪して頂いた方がまだよかったよ! 突然のこと過ぎて反応されない、かといってスルーすらされない、一番どうしようもないパターンのヤツだよこれ! そのくせ後で冷静になってから、話に尾ひれをたくさんつけられて、拡散だけはされる後味悪いパターンのヤツだよ、これ! ……とにかく、もう取り返しがつきません、詰みです、あははー。
「……」
「……」
(そしてそのまま、再び、もはや死の宣告に等しいほどの無言の空間に突入ー。)
一度「もうどうにでもなれー」とのゼロになったHPを、あろうことかマイナスにめり込んでまで削っていく、そのオニのような所業に耐えかねた僕は、
「あの……、」と彼女に、人見知りの萌えキャラみたいに、消え入るような声をかけ、
「……わ、忘れてくださいぃぃぃぃーーー…………ッ!」
情けなくも涙目で、震えた声で。
服のはだけた女子を一人残し、その場を走り去ったのでした。
――軍曹、たった今、部下が一人、漢から離脱しましたッ!(涙目)
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