第7話 魔術師ギルド
翌朝、魔の森まで馬車で向かい中層の小屋まで到着すると、翅刃の黒豹の素材を運び出す。俺を含めて五人いたから、あっさりと作業が完了して馬車に素材を積んで街へと戻る。
自分の小屋の位置が冒険者ギルドに知れてしまうって懸念点があったけど、よく考えてみたら俺は既に何人もの冒険者を中層の小屋にまで招待していたじゃないか。今更隠しても仕方がないとすぐに気が付き一切包み隠さず小屋に入ってもらった。
深層の洞窟は秘密だけどな……。ふふ。
冒険者ギルドに戻り、お手伝いさんたちへ報酬を支払った後、今回の依頼内容を受付カウンターのお姉さんと一緒に確認する。
これで問題ないと判断してもらったので、多額の報酬を受け取り依頼は達成となった。
よおし、次は何をするかなあ。
依頼書を一枚一枚つぶさに観察していたら、小さな商店の主人とか子供らしきたどたどしい字で書いたものとか思った以上に依頼主が豊富なことが分かる。
今後のことを考えて、どこかと懇意にしたいところだが……。
お、魔術師ギルドからの依頼があるじゃないか。
魔術師ギルドかあ。俺の記憶によると、魔術師ギルドは横のつながりが強いみたいで街ごとというよりは国単位の組織と考えた方がよいとかなんとか。
これまで全く縁がなく、魔法を学びたいとも思ってなかったから完全に俺の思考の外だったけど、魔術師ギルドの立ち位置は俺にとって望ましい。
冒険者ギルドほど自由な雰囲気ではないだろうけど、少なくとも街に対する依存性は低いはず。
魔術師ギルドからの依頼を探してみると、すぐに数個発見できたけど俺が達成できそうなものとなると……魔の森関係が一番だ。
これなんかどうだ。
『魔の森の野草採取』
冒険者ランクはCだし、集める種類も十五種類と少ない。報酬は三万ゴールドと中々だし、これいこうか。
「すいません。この依頼を受けたいんですが」
「ストームさん、その前に……次からはこちらの冒険者カードをお使いください」
依頼カウンターのお姉さんは銀色のカードをカウンターの上に置く。
見てみると、冒険者ランクがAにあがっている。なるほど、冒険者ランクによってカードの色が変わるんだな。
冒険者カードを見ていたら、俺の手渡した依頼書を見ているお姉さんの眉間に皺が……。また変な依頼書だったんだろうか?
「ソロ向けのご依頼ではありませんが、よろしいのでしょうか? ストームさんのように戦いが得意な方向けの依頼ではありませんが」
「はい。次はノンビリとやろうかなっと思ってまして」
「かしこまりました。野草十五種は一人で見つけるに中々大変だと思いますが、頑張ってくださいね」
「はい!」
そういうことだったのか。
まだ依頼を受けるのは二回目だけど、依頼カウンターのお姉さんは親身に考えてくれて嬉しい。正直過ぎてこんなこと言っていいんだろうかと時々不安になるけど。
冒険者ギルドとしては、依頼を受けてくれるなら何でもいいと思うんだけどねえ。
「魔術師ギルドの場所はご存知ですか? こちらが紹介状になります」
「場所は大丈夫です。これを見せて、依頼内容を聞けばいいんですね」
「はい。その通りです。それでは、また何かありましたら」
「はい!」
今回の依頼は依頼人から依頼詳細を聞いて出発する感じになる。
前回のは単純な討伐だったから、依頼人と会う事は無かったけど今回はどんな野草なのか詳しく聞かないとだしなあ。できれば十五種類全部の絵があるととても助かる。
◆◆◆
魔術師ギルドは魔法を学ぶ学生を受け入れているからか、敷地が広く清潔感のある真っ白な漆喰の壁と三角屋根が特徴的だった。
ギルドの中は学生用の学舎棟、研究者と先生用の研究棟、管理棟、宿舎、図書館の五つで構成されていた。入り口の守衛さんに紹介状を見せると、研究棟の二階だと案内される。
きょろきょろと辺りを見回しながら、研究棟に入ると……学生だろうか十代半ばくらいの腰ほどまでのマントを羽織った男女と遭遇した。
二人は俺の姿を見ると、さささと離れて行き遠くからじっーとこちらの様子を伺うではないか。全く失礼な奴らだな。俺はそんなに怪しい恰好をしているわけじゃあ……。
あ、そうか。毛皮がダメだったのかな。黄金獅子の皮を使ったローブはとても重宝しているのだ。こいつはいいぞ。野宿する時にも、多少の爪や牙程度なら傷もつかないんだぜ?
見た目が少し派手なのが難点と言えば難点か。黄金獅子の皮は灰色に金色の縞模様が入った模様をしていて、とても目立つ。でもさ、この毛皮は弱いモンスターならビビッて寄ってこない利点もあるのだ。
ま、まあ毛皮のことは……いいとして、視線を気にしていても仕方がない。二階へあがるぞ。
二階は広場になっており、階段のところに受付があった。
椅子に座って待っているように言われたので、しばらくぼーっと待っていたらようやく待ち人が現れる。
「こんにちは。依頼の受託、感謝する」
こいつは珍しい。やって来たのは猫頭族の人だった。
猫頭族はその名の通り猫の頭に人型の体をしている。全身ふさふさの毛で覆われ、尻尾があるところも猫そっくりだ。二足歩行する猫と言った方が近いかもしれない。
人間に比べて身長は低く、高くても一メートル程度。
この人は白と茶色の虎柄で、口元から出た髭が俺の心を鷲掴みにしてならない。ぐ、ぐう。撫でたい。
「こちらこそ。俺はストームと言います。えっと、これ」
内心の衝動を抑えつつ、俺は彼?へ冒険者カードを提示する。
「ご丁寧にどうも。ストームさん、ほおお。冒険者ランクAかね。これはこれは」
猫頭は感心したように目を細めた。
「私はミャア。さっそくだが、こちらに集める野草をまとめている。確認してもらえるかね?」
「はい」
ミャアから受け取った冊子をパラパラと捲り、うん、これならすぐ集まる。絵が丁寧で非常に分かりやすい。
全部食べられる野草だから、俺にとっても馴染み深いものだしな。うん。
しかし、いいのだろうか……。俺は一つ疑問が浮かぶ。
「ミャア教授? あれは集めなくていいんですか?」
「ストームくん、何故、私が教授だと?」
「いえ、なんとなくですが……」
「当たりだよ。ストームくん。まあ、それはいい。あれとは何かね?」
「マタタビとか……」
「ははは。マタタビは好物だが、研究対象ではないのだよ」
そっかあ。マタタビは好きなのか。集めてこようっと。ご褒美にナデナデさせてくれないかなあ。
ミャアと少しだけ雑談してから、俺は魔術師ギルドを後にしたのだった。
◆◆◆
その日のうちに魔の森へ向かい、中層の小屋で一泊を明かす。翌朝の昼までに依頼の野草は全て集めきり、もちろんマタタビもゲットした。
んー、分かっていたことだけど、簡単過ぎて物足りないな。これをきっかけに、にゃんこ先生を通じて魔術師ギルドのことを聞きたいって目的だし、仕方ない。
気になっているのは図書館なのだ。俺の考え通りに事が運ぶと……いよいよ街へ進出できそうだ。幸い思った以上に資金はすぐに集まったから。待っていろよ、ふふふ。
大自然の中で一人暗い笑みを浮かべクツクツと笑う俺はさぞ不気味だったに違いない。ほっといてくれ……。
冒険者としての実績はもう少し積んだ方がよさそうだから、たまに依頼は受けるにしてもアウストラ商会へ一泡吹かせてやるという俺の目標も進める。
ようやくだ……くくく。
あ、また、変な笑い声が。
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