第42話 偏屈なドワーフ

 店内に入ると、予想外にちゃんと武器・防具を扱う店になっていて少し驚く。

 それほど広くはないが、鉄を中心にいくつかの金属でできたであろう兜、鎧、具足などが分けられ並べられており、壁には長柄の武器が立てかけられこちらも見やすいように工夫されて設置されていた。

 試しにロングソードを見てみると、同じ長さのロングソードが三種類並んでいた。

 どれも刃先がギラリと吸い込まれそうなほど研ぎ澄まされており、その切れ味が容易に想像できる。

 

「お、ロングソードとか使うのか。ストーム」

「あ、たまにな」


 ロングソードは俺にとって長さが中途半端でどうも使い勝手が悪いんだよな。

 腰に吊るには少し長すぎ、背負うと短くて不満が溜まる。俺よりもう少し背丈が高いか低いとハマるんだろうけど。

 世間一般では人気の武器だから、どこの店でも主力商品として取り扱っている。

 

「相変わらず不用心だよな。この店」


 なっと笑いかけられても困る。

 俺は余り武器とかに詳しくないんだよ……。


「へえ、そうなのか」

「おう、ミスリル製の武器を店頭に置いている店なんてここくらいのもんだぜ」


 そう言ってガフマンは白銀のロングソードを手に取る。

 持ってみなとばかりに顔を向けてきたので、そのロングソードを受け取る。

 

 軽い。なんだこの軽さは。

 鋼鉄の半分以下くらいの重さしかないぞ。

 

「ミスリルの武器を持ったのは初めてなのか? 意外だな」

「軽すぎて扱い辛いな。これは」

「軽いが鋼鉄より丈夫で刃こぼれもしないんだぜ。その分値段は鋼鉄の十倍ほどするがな」

「ふうん」

「お前さんは金属よりモンスター素材の武器がメインだからなあ。詳しくなくても仕方ねえ」


 角とか翅とか……鋼鉄より切れ味がいいんだぞ。

 お、ちゃんとモンスター素材の武器もあるな。これからやってもらおうとしていることはモンスター素材の加工だから、ひょっとしたら取り扱ってないのかと思って心配したけど大丈夫そうだな。

 

 おお、これもあるのか。

 二首の牙で作ったナイフじゃないか。

 

 カウンターの横の専用収納に収まっていたそれを手に取る。

 さすがにプロの技だなあ。俺がやるより断然使いやすそうだ。グリップが特にいい。持ち手のことまでちゃんと考えて作られているじゃあないか。

  

 感心していると、むんずとガフマンに肩を掴まれた。

 

「おいおい、ストーム。さすがにそれへ気軽に触るのはやめておけ」

「へ? そうなの。二首だよなこれ」


 この金属光沢は間違いなく二首だと思うんだよなあ。

 俺の知らない二首の牙に似た高級品なのかな。

 

「二首? あ、ああ。たしかにヘルベロスは二首の狼って見た目だよな……って振り回すんじゃねえ!」

「そんな名前なのか。やっぱり俺の認識に間違いはないじゃないか」

「だから、振り回すんじゃねえって! それは超高級品だからな。ミスリルの比じゃねえ」


 その時、奥の扉が開き中から髭もじゃの俺の腹くらいまでの背丈をした中年の男が顔を出す。

 

「騒がしいのお。なにしとるんじゃ」


 不機嫌そうな低い声。この声だけでも気難しそうな雰囲気を醸し出している。きっとこの男がここの店主であり、鍛冶師その人なのだろう。

 背丈こそ低いが、丸太のように太い腕、どっしりとした下半身をしている。なるほど。この人はドワーフか。

 街中ではあまり見かけることがないけど、ドワーフの鍛冶師と言えば著名な人も多い。二首のナイフの出来からいってもこの人の腕は期待できるぞ。

 

「あ、ああ。親っさん。これはだな。お、おい。ストーム。そのナイフを元に戻せ」

「え、あ、うん」

「よい。小僧。お主……そのナイフが気に入ったのか?」


 ドワーフの男は目を細めて低い声で問いかけるものだから、威圧感が半端ない。

 

「は、はい」

「ほう」


 そこで黙られると間が持たないって……。何か言って繋がないと……。

 

「あ、あのですね。特にこのグリップが握りやすく手に馴染みます」

「ほう」


 やめてくれえ。「ほう」とだけ呟いて、ギラつく目で睨まないでくれよ。

 俺は圧力に耐え切れず、ナイフを元の場所に戻し頭をかく。

 

「ならこれはどうじゃ?」

「お、おっと」


 無造作に投げられたナイフをパシッとキャッチする。

 先ほどと同じくらいのサイズのナイフだけど、革の鞘に収まっていた。

 ドワーフへ目くばせすると無言で頷きを返されたので、抜いていいってことだと判断。

 

 鞘からナイフを引き抜くと……翅刃だった。

 革が巻かれたグリップを掴むと、手に馴染む。

 ほう。

 少し振ってみると、なるほどと膝を打つ。

 俺が使っている翅刃のナイフよりこのナイフは僅かに刀身の長さが短い。少しの差だけど、こちらの方が切り裂くには向いていると肌で感じた。

 

 この人……すごいぞ。


「お、おい。ストーム」


 ガフマンから声をかけられ、ハッとなりドワーフの顔を見やると意外にも怒った様子はなく「うむうむ」と頷いているではないか。

 

「お主になら武器を作ってもいいぞ。ガフマン、分かる奴を連れて来たな」

「親っさんが一見にそんなことを言うなんて珍しい。よかったな、ストーム」


 ガハハと笑いながら、俺の背中をバシバシ叩くガフマンだったが、目的を忘れてないか?

 俺の武器を作りにきたんじゃねえんだよお。

 

「あ、あのですね……」

「理由か? お主は素材そのものに捉われず、自分が使った場合の使い勝手だけを見ていただろう。そこが気に入ったのじゃよ」


 待って。そんなことを聞いているんじゃあ……。


「なるほどなあ。翅刃とか見たらまずそっちに目がいっちまうもんなあ。ストームはそうじゃなかった。親っさんの鍛冶の腕を確認してたってわけか」

「その通りじゃ。翅刃ともなるとそのまま握りをつけて振るだけでも、鋼鉄なんぞより遥かに切れ味はよい。だが、鍛冶の腕次第で更に化けるのじゃよ」


 納得して頷き合っているところ悪いが、この流れをなんとかできねえか。

 うーん、うーんと首を捻っている間にも二人の話がどんどん弾んでいく。

 

「翅刃といえば、変わり者がいたのお」

「親っさんがそう言うんだったら、相当なもんだな」

「なんじゃと?」

「悪い悪い」


 偏屈だと言っていたが、ガフマンとは相性がいいのだろうか。結構気さくに話をしているように思える。

 

「翅刃をまるごと一頭買い取る依頼を出したことがあっての」

「へええ。そんなことをしていたのか」

「うむ。その依頼な、買い取り価格が安かったのじゃ」

「そら、誰も受けねえって」

「通常買い取らない部位も含めてじゃから、通常買取可能な部位全ての金額と比べたら同じくらいになるぞ」

「といっても、持ち帰りの手間があるだろう。買い取らない部位を持って帰らなきゃならねえから」

「その通りじゃ。でもな、この依頼を受けて達成した奴がいたんじゃよ」


 ほうほう。

 そんな依頼を達成するなんてかなりの変わり者だ……って!

 

「あ、あああああ!」


 つい声を出してしまったら、二人が俺の方へ振り向いた。

 

「ストーム。そういやお前さん、翅刃を狩ったとか言ってたな」

「あ、うん。まあ……」

「お主か、あの依頼を達成したのは!」

「た、たぶん?」


 両側から肩を掴まれ、奥の部屋に行くことになってしまった。

 ほ、本題に話を戻したいんだが……。ガフマン、いい加減に思い出してくれよお。

 いや、他人に頼っていてはいけない。ここは俺がガツンと。

 

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