第18話 力こそパワー!
スワンプドラゴンは顔こそトカゲのようなドラゴンに近い風貌をしているが、体つきはワニに似る。長い胴体に尻尾、短い脚は胴体の横から伸び、ひっくり返すとなかなか立ち上がれない。
しかし、ワニと違って脚は左右に三本生えていて、安定性が抜群だ。陸でも足が速く、駆けて逃げても追いつかれるほどなのでうまく引っ張り出したとしても油断したらやられる。
「ここまでは大丈夫か? 千鳥」
「はい。ですが、あまり強そうには思えませんが……」
「いや、こいつは『スワンプワニ』じゃなく『スワンプドラゴン』なんだよ。まず、体がデカい。十メートルくらいある」
「お、おお……」
「あと、こいつが『ドラゴン』と言われるのは、ブレスを吐くからなんだ」
「ブレスですか……」
顎に手をやり、考え込む仕草を見せる千鳥へ俺は言葉を続ける。
「スワンプドラゴンのブレスは炎じゃなく、激しい水流だ。水とはいえ……」
俺は立ち上がり、大木をコンコンと拳で叩く。
「この木くらいは軽くなぎ倒す」
「それは……当たれば一たまりもないでござるな」
千鳥の口元が引きつる。
「もう少し休憩してから、狩りに出よう。千鳥」
「はい」
「無理して近寄らなくていい。焦るなよ」
「承知」
◆◆◆
「では、行ってまいります故……」
「気を付けろ」
千鳥は足にかんじきのような
「ニンジュツ『水走り』」
草鞋が一瞬光り、何かが発動したことが見て取れた。
彼は水の上へ一歩進む。
お、おお。草鞋が水の上に浮き、彼は地面を歩くかのように水の上を進んでいくじゃあないか。
便利なニンジュツだな。あれ……欲しい。
あっという間に彼の姿が豆粒ほどになり、お、
俺のいる場所は沼のほとりだから、彼が何をしているのか詳細を知ることはできない。
が、どうやら、首尾よく進んだようでスワンプドラゴンが沼の中から大きな水しぶきに加え、大量の泥を巻き上げながら浮き上がって来た。
すぐにスワンプドラゴンは千鳥の姿に気が付いたようで、のそのそと彼に向けて動き始める。
ゆっくり、ゆっくりだ千鳥。焦るなよ。
俺は祈るような気持ちで彼の動きに注視する。
千鳥の姿がだんだんと大きくなってきた。一方のスワンプドラゴンは彼の真後ろを追いかけている。
「ストーム殿、うまくいったでござる」
「千鳥!」
油断するなって言っただろう。こっちに手を振っている場合じゃない。千鳥の声にスワンプドラゴンが反応しているぞ!
俺と千鳥、スワンプドラゴンは直線状に並んでおり、千鳥と俺の距離はおよそニ十メートル。千鳥とスワンプドラゴンも同じくらい離れている。
彼が声を出したことで、スワンプドラゴンは警戒心を強め、小賢しい人間どもが複数いる……それも一直線で……とでも考えたのだろうか。
奴は加速して一気に千鳥との距離をつめ、大きく口を開き――。
ま、まずい。
間に合えよ。
ここは「コンボ」だ。
トレーススキルを発動!
腕をクロスさせて、肩を掴む前動作、そして、叫ぶ!
「
俺の身体がブレ、陽炎のように消失したかと思うと千鳥と俺の位置が一瞬で入れ替わる。
その時、スワンプドラゴンの口から水のブレスが吐き出された。
俺の方はというと、既に発動準備はできている。
スペシャルムーブの連続発動……これを「コンボ」と自分の中で勝手に名付けたのだ。
「水流!」
叫ぶと同時に水のブレスが俺を包み込む。
しかし、スペシャルムーブ「水流」の効果で俺はよろめきさえせず無傷だ。
凌ぎ切ったが、泥を踏んだ足がどんどん泥の中に沈んでいく……。
動けなくなる前にやるしかねえ。
三連続のスペシャルムーブだ。SPが心配だか仕方ない。ここでやらないと逆にやられる。
奴は今、ブレスを吐き出した後だから大きな隙ができているんだ。その証拠に奴は口を開けたまま固まっているじゃあないか。
目を瞑り、両こぶしを力一杯握りしめ、唱える。
「
俺の筋力が一時的に跳ね上がり、体が白い光に包み込まれた。
そのまま右手を伸ばし、スレッジハンマーを背中から抜き出す。
「いけえええええ!」
力の限り声を張り上げ、スレッジハンマーを奴の口めがけて放り投げる。
一直線にスワンプドラゴンの開いた口に飛び込んでいったスレッジハンマーは、ぶつかった瞬間に凄まじい音をたてながら奴の頭をそのまま貫通して突き抜けた。
素晴らしいパワー。さすが超筋力だぜ。
超筋力は、次の攻撃又は動作のみ筋力を四倍にしてくれる……名前の通り力技の極致を体現したスペシャルムーブ。
俺は腕を組み、ニヤリと笑みを浮かべた。
って、それどころじゃねえ。
もう太ももの上まで沈んでいるじゃないかよお。
「千鳥、頼む、引きあげてくれ!」
「承知!」
俺は千鳥に肩を借りて岸辺まで戻る。
「ストーム殿、かたじけない……」
「いや、結果的にスワンプドラゴンに大きな隙ができたからよしだよ。それより……」
「なんでござるか?」
「スワンプドラゴンが沈む前に引き上げよう。縄を持ってきているから奴に引っかけてくれ」
「あんな巨体……動くのでござるか?」
「心配ない。奴は泳げるんだぞ。筏を引っ張るようなもんだ」
千鳥は死んだ目をして何かいいたげにブルブルと首を左右に振るが、俺は見なかったことにして彼へ荒縄を渡す。
この後、超筋力を使って縄で繋がれたスワンプドラゴンを投げ上げた。これでSPが回復するまでスペシャルムーブは打ち止めだ。
つ、疲れた……。
千鳥にスワンプドラゴンの鱗を剥がしてもらって、俺たちは拠点のある洞窟へと戻ったのだった。
◆◆◆
洞窟へたどり着く頃には日がすっかり傾き始めていた。
真っ暗になる前にやっておかねばならぬことがある。
「千鳥、そこに小川があるんだ」
洞窟の傍には小さな小川が流れている。拠点作りをする時に水場のチェックは必須で、その辺はぬかりない。
「ご飯の準備でござるか?」
小川に向かう俺の後ろを千鳥がついてくる。
「あ、それもあるんだが」
小川の前でしゃがんで、指先を水に中に入れながら彼へ言葉を返す。
んー、少し冷たいが仕方ない。
「ストーム殿、何を!」
振り向くと千鳥が両手を目に当てわたわたしている。
「太ももから足先まで泥に突っ込んだだろ、このままにしておいたら明日の動きに支障が出る」
「そ、それならそうと言って欲しかったでござる」
「ついでに水浴びでもするかな。千鳥もするか?」
「ぬ、脱ぐのは待って欲しいでござる。食事の準備に水が……」
「あ、そうだな。泥が小川に流れるから、先に水をくんだほうがいいよな」
「分かってくれたでござるか。水は沸かしておくです。ストーム殿はその間に水浴びと洗濯を」
「了解。ありがとう」
「いえ……」
鍋と水袋に水を注ぎ、洞窟に戻って行く千鳥の姿が見えなくなってから、俺はズボンを脱ぎじゃばじゃばと泥を洗い流す。
ついでに服を全部脱いで、小川の水を桶ですくってざばーっと。
だ、ダメだ。冷たすぎる! 昼間にやらないと寒い……。
下半身を洗い流したところで、耐えられなくなり……体を洗うことを断念した……。
戻ろうっと……。あ、着替えを持ってきてない。ま、いいか。千鳥と俺だけだし。
戻ったら、千鳥が悲鳴をあげて言葉にならない何かを叫んでいた。なんだよもう。
「俺って、そんなに変な体をしているのかなあ」なんて考えながら、洞窟の中に入り、着替えの下着を履くのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます