第43話 残念な武器
奥の部屋は所狭しといろんな物が棚に詰め込まれて、床にまであふれていた。
小さなテーブルと背もたれの無い椅子が四脚置いてあって、そこに肩を掴まれ座らされる。
「自己紹介が遅れたのお。
「はじめまして。ストームです。こちらにいるガフマンの紹介でここに来ました」
ガッシと握手を交わす俺とホークウィンド。
「気が合いそうでよかったぜ。親っさんは気難しいからな。ガハハハ」
ガフマンから唾が飛んでくる。息が酒臭いし、全くこいつは。
それに、気が合うのはガフマンとホークウィンドだろうに……。いや、ガフマンだからこそかな。
彼は誰とでも仲良くなれる天性の快活さを持っている。彼のこの性質は戦闘能力より希少だと俺は思っている。
彼ならどこにだって、誰に対しても踏み込んでいけるだろう。
ガフマンの笑い声が響く中、ホークウィンドは俺の腰辺りをじっと見ている。
あ、武器が見たいのかな。
「どうぞ」
腰から鞘ごと短剣を取り外し、ホークウィンドへ手渡す。
今日は片手剣を持ってきていないのだ。案外
街中だと狭い場所での近接戦が多いから、剣よりナイフの方が使い勝手もいい。
短剣を受け取ったホークウィンドは鞘をスッと抜くと「ほう」と目を細めるが、すぐに気難しい渋面に変わる。
「な、何でしょう?」
「翅刃じゃな」
短剣を掲げ、眉間にしわを寄せながらじっとそれを睨みつけるホークウィンド。
ギロリととんでもなく鋭い視線を彼から浴びせられ、たじろく俺……。この迫力は只者じゃねえ。
「お主、自分でやったのか?」
「は、はい。粘性のある植物系モンスターの体液で持ち手の部分と翅刃を繋いでます。グリップに巻いているのはモンスターの皮だったかと……」
「ふむ。野生児かお主?」
「魔の森で暮らしていた時に作ったものでして、一応それでも二首……えっとヘルベロスくらいなら倒せますよ?」
「ほう……」
カッと目を見開くホークウィンドのただ事ではない様子に、額から嫌な汗が流れる。
「ストーム!」
「は、はい!」
「これだと素材が泣いておるぞ。お主、こんな武器をまだ持っとるのか?」
「は、はい……」
「全部、儂のところへ持ってこい。素材が可哀そうじゃ」
「え?」
俺の武器を全部加工しなおしてくれるのか。
この人にやってもらえるのなら、願ったり叶ったりだ。
「ん? 何か言いたそうじゃな」
「え、まあ……」
「さっき儂はお主になら武器を作ってもいいと言ったじゃろう。それは無しじゃ。お主の現在所持しておる武器を全部相応しいものにしてやろう」
「あ、ありがとうございます」
「ミスリルや革も使うからの。いいな?」
「は、はい。お金はちゃんと支払いますので、お値段を後で教えてもらえますか?」
「材料費だけでよい。久しぶりに腕がなる。どんだけお主が変な加工をしていたのか見るのが面白そうじゃからな!」
そう言われると見たら大笑いされるだろう武器がいくつもある。
エルダートレントを仕留めた武器である「捻じれた槍」なんて、加工がしんどかったからいい感じの形のものが獲れるまで何度か狩りなおしたし……加工失敗で穴の開いたものもある。
失敗作は闇に葬っておくか。
自分の恥ずかしい失敗作が頭に浮かび、うがああっとなっているところへホークウィンドがふうと息を吐き出し呟く。
「で、お主は何を願いにここへやって来たんじゃ? お主の手持ちの武器は酷い状態じゃが、モンスターを倒すには支障がないのじゃろ?」
分かっていたんだったら、最初から変な方向へ話を持って行かないでくれよお。
とかボヤいたら笑い飛ばされてからかわれるだけだろうから、藪蛇にならないよう言葉を飲み込む。
「実はですね、一つ考えている商売がありまして……ご協力していただけないかと」
「ほう。言ってみろ」
俺はホークウィンドへ魔の森で素材を集めて、冒険者ギルドへ流し、精錬後の素材を製品へしてもらう工程を頼めないかと語る。
しかし、彼は眉間に思いっきりしわを寄せて腕を組みこちらを睨みつけるばかり……。
空気に耐え切れなくなった俺は、取り繕うように言葉を続ける。
「い、いや。不特定多数の人へ向けた画一的な武器をってのは、ホークウィンドさんの求めるところと違いますよね」
「うむ。よくわかっておるじゃないか。儂は担い手に合わせて鉄を打つ」
「ですよね」
彼の武器へのこだわりは先ほどの会話からだいたい推測できていたので、この結果はまあ妥当だと思う。
それでも、来たからには一応話はしておかないとと考えて彼へ俺の商売について説明したのだ。
「一般的な製品を鍛造するのはよい修行になる。弟子にやらせるのならいいぞ」
「本当ですか! ありがとうございます」
「安心せい。やるからには未熟な武器は出さぬ。ちゃんと儂の審査を通過したものだけ納品しよう」
「そこはお任せします!」
「そうじゃ、お主。魔物の素材を全て扱うのじゃろう? 革や繊維はどうするのじゃ?」
「そこは……いずれ武器や防具がうまくいったらで……」
「せっかくの素材が勿体ないじゃろう? やるなら全部やらんか!」
「す、すいません……」
そんなこと言われても当てが全くないんだってば!
ホークウィンドの手を借りて鍛冶製品を売って行けば、噂を聞きつけた職人が手をあげてくれないかなあと期待している。
「なら、儂の知己へ紹介状を書いてやろう。持っていけ」
「あ、ありがとうございます!」
思わぬところから、縫製、革細工、小物を作る細工師、果ては大工や石膏職人まで紹介状を頂くことになったのだった。
これなら、持ってきた素材をほぼ全て製品にして売ることができるじゃないか。
ここまでやるなら、後程と考えていた魔術師ギルドの協力も仰ごう。彼らの中には錬金術、ポーション制作、エンチャントなど様々な魔法系の技術を持った人たちがいる。
後でにゃんこ先生に会いにいくとするか!
そういや、にゃんこ先生に聞きたいことがあったような……えっとモフモフさせてもらっていいですかだっけか。
違う違う。それは俺の欲望であって、聞きたいことじゃあない。
えっと、そうそう、確かエステルのスキルについてだった。彼女も連れて魔術師ギルドに行くとしよう。
ついでにマタタビをお土産に用意して、機嫌がよくなったにゃんこ先生がモフモフさせてくれたらよりハッピーだ。
テンションがあがってきたぞお。
この後、ホークウィンドへ何度も礼を述べ、詳細はまた後日内容を詰めることとして俺一人で彼の店から出る。
なんで俺一人なのかというと、ガフマンはそのままホークウィンドの元に残り酒盛りをするそうだ。
まだお店の営業時間じゃないのかと突っ込みたくなったけど……止める前に既に飲み始めてたから見なかったことにした。
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