第30話 懐かしの二人

 村雲の体調も回復してきたので、俺は一人で街に戻る。

 戻って来たとはいえ、もちろん修行はまだ完了していない。

 じゃあ何のために戻って来たのかというと……うん。そうなんだ。紫色のポーションを買い足しに来たのだ……。ついでに冒険者ギルドへ人材の件がどうなっているのか進捗を見に行こうか。


 魔術師ギルドでありったけの紫色のポーションを購入。その際ににゃんこ先生から新たな書写本作成を頼まれたので快く受諾した。

 報酬は残念ながらお金だ。おまけでモフモフさせて欲しいと喉まで言葉が出かかったけど、どうにか抑え込む。

 

 冒険者ギルドに顔を出すと、懐かしい二人がちょうど昼間っから酒を酌み交わしているじゃあないか。

 それは、俺が最初に会った冒険者で両手剣使いの豪快な男ガフマンと長髪で優男の弓師アレックスの二人だった。

 

「お、ストームじゃねえか。半年ぶりくらいか?」

「お久振りです。ガフマンさん、それとアレックスさんも」

「街で会うのは初めてだね。ストーム」


 酒をぐびぐび飲むガフマンに対し、アレックスは俺へコップをかざしにこやかなほほ笑みを見せる。

 

「おう、ストームも飲んで行けよ。奢るぜ」


 ガハハと上機嫌なガフマンはウェイトレスのお姉さんへ向け手を振ると「エール!」と大声で叫ぶ。

 いいとも悪いとも俺はまだ言ってないのだが……相変わらずな感じで懐かしくなり嬉しくなってしまった。

 

「何かいいことがあったんですか?」

「ちょうどヤマが終わってね。やはり陸がいいよ。人間ってのは」


 そう言って芝居がかった仕草で肩を竦めるアレックス。

 

「船の依頼を受けていたんですか?」

「そうだとも。海王龍リヴァイアサンが出たとかなんとかでね。行ってみたらシーサーペントだったよ」

海王龍リヴァイアサン……なんだか手強そうですね」

「伝説のモンスターだから、きっと強いと思うよ。僕らも本当に海王龍リヴァイアサンが出るなら依頼は受けなかったさ」


 どういうことなんだろ? 首を捻っていると俺にエールを握らせ背中をバシバシ叩きながらガフマンが陽気に笑う。

 

「なあに簡単な話だ。もし本当に海王龍リヴァイアサンなら、発見した奴が無事に戻ってこれるわけないだろ。ガハハハハ」

「なるほど。そういうことですか。海に出たモンスターの討伐依頼を受けて来たってことですね」

「その通りだよ。ストーム」


 アレックスは長い髪をかきあげながら、苦笑する。

 エールをせっかくもらったし、飲むかなあ。急いで魔の森へ戻る必要もないか? あ、でも、あまり遅くなると……。

 迷っていると、ガフマンが俺の肩を抱き椅子に座らせると、両肩をバンバン叩きガハハと笑う。酒臭えなあもう。

 

「仕方ないなあ。一杯だけですよ」


 と言いつつも俺の顔は二ヤつく。何のかんの言っても、久しぶりに会う人と酒を酌み交わすのは楽しいし、誘ってくれると悪い気はしない。

 

「ストームは最近どうなんだ? 翅刃を狩ったり、本を作ったりとルドンのおっさんから聞いたが」

「そんなところです。あれ? ガフマンさんたちはしばらくこの街にいなかったんですか?」

「おうよ。半年ぶりに戻って来たぜ。しばらくはゆっくり休もうと思っててな。それなりに金は入ったし」


 エールのお替りを注文するガフマンを横目で見やり、アレックスが俺に耳打ちする。

 

「ほとんど海の上にいたので、塩のせいか装備がね……整備にそれなりに時間がかかるって理由もあるんだよ」

「へえ。懇意にしている職人さんがいるんですか?」

「そうだね。彼は物凄く偏屈だが……腕は確かだ。街でも孤立しているらしいから、冒険者以外店には来ないと聞いているよ」


 それはとても都合がいい。アレックスに今度その人を紹介してもらうかな。何かもうけ話に繋げられるかもしれないからさ。

 そういや……毛皮とか沢山あるけど俺が自作でなめして縫い合わせただけだものな……専門家に作ってもらうと装備が見違えるかもしれない!

  

「どうした? ストーム。辛気臭い顔をして」

「あ、いや、俺だって、装備のことを考えなかったわけじゃないんですよ!」

「突然何言ってんだ。相変わらず面白い奴だな。お前さんは!」


 つい心の中で思っていることを言ってしまった……。

 ガフマンは腹を抱えて大笑いしているし。

 街と魔の森しか往復してなかったから、装備はいずれいずれと考えててずっとそのままだったんだよなあ。魔の森だったら、今の慣れ親しんだ自作装備で充分だし。

 

 憮然とする俺へアレックスがまあまあとソーセージの乗った皿を俺の前へ移動させ気を使ってくれる。

 

「ところで、ストームは何をしていたんだい?」

「今から魔の森へ帰ろうと思ってまして、冒険者ギルドに依頼を出していたのがどうなったのか見に来たんですよ」

「街で暮らしているんじゃなかったんだ。また魔の森で生活を?」

「いえ。街で暮らすつもりだったんですが、いろいろありまして……」

「ふうん。なんだかおもしろそうだね。差支えなければ教えてもらえるかい?」

「はい」


 俺は二人へクラーケンと険悪になり、知人が襲われた経緯を語り、冒険者ギルドの依頼内容もざっくりと彼らに伝える。

 彼らは腕を組み「ふむふむ」と時折頷きながら、俺の話に耳を傾けた。

 

「それでストーム。協力してくれる冒険者は見つかったのか?」

「それを確かめにここへ来たところなんですって」

「そうかそうか。残念ながら、俺たちは冒険者を引退して街に骨を埋める気はまだない」


 そらそうだよ。この二人はまだまだ戦える。大きなヤマをこなしてきたところだしさ。

 俺は残ったエールを飲み干し、二人に顔を向ける。そろそろ行かないと日が暮れてしまう。


「そのうち街に戻ってきますし、また飲みましょう」

「まあまて、ストーム」


 ガフマンにぐわしと肩を掴まれる。

 

「護衛の件、俺とアレックスを雇わないか? 期間は……そうだな。最大三か月くらいで」

「え? いいんですか?」

「おう、お前さんのやっていることは痛快で面白い。ぜひ噛ませてくれ」

「ありがとうございます! お二人だったら、仲間の二人に手伝ってもらったりすれば人数的に最低限いけます」


 この二人の実力なら、クラーケンの連中に遅れを取ることはないだろう。少なくとも彼らは、クラーケンのボスであるグラハムより強い。

 だから、トネルコのところに護衛に行ってもらうのも一人で事足りる。村雲と千鳥もいるから俺も含め五人になるし、人数は十分だろう。

 

 俺は一か月以内に魔の森からこちらに戻ってくることを彼らに伝え、連絡方法を決める。

 その後、ルドンに会い護衛が見つかったことを伝え、引退者の募集は引き続きおこなうようお願いした。

 

 思わぬところで、素晴らしい人材に巡り合えたことに感謝しつつ魔の森に戻る。

 

 ◆◆◆

 

 魔の森に戻ると、鹿の丸焼きのいい匂いが漂っていてついつい涎が……。

 

「これは、エステル殿が狩ったでござるよ」


 千鳥が胸を張りエステルへ目を向ける。

 対するエステルはぶるぶるとかぶりを振り、彼の言葉を否定した。

 

「いえ、千鳥さんと村雲さんが追い込んでくださって……私はいいところだけ弓で」

「それでもすごい成長だよ。エステル!」


 うんうんと頷く村雲と共に俺もエステルを手放しで褒めたたえる。

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