第68話 修行完了
――七日後。
ウィスプから稲妻が同時に六発放たれる。それと呼応するように戦闘人形が弓で俺を狙う。
ここは……上だ!
両足でしかと地面を蹴り上げ高く跳躍すると、稲妻が四発足元を抜けて行く。
両手に持った翅刃のナイフを振るい、残り二発の稲妻を叩き落す。
しかし、矢が二連で迫る。
これを体を捻り足で矢の腹を叩き凌ぐ。
「
着地するや超敏捷っを発動。
今度は前向きに飛び上がると、直線状にいたウィスプを踵落としで仕留める。
つま先が地面に触れた瞬間に翅刃を振るいウィスプをもう一体。
その時、後ろに風圧を感じ……戦闘人形の剣だな。
俺は後ろを見ないまま、ナイフを投擲し、振り向く。
ナイフは見事、戦闘人形の眉間に突き刺さり、奴の機能を停止させた。
ここまで来たら後は楽勝だ。
あっさりと残りのウィスプを潰し、戦闘が終了した。
「ふう……」
「慣れて来たようだね。続けてもう一回行くかい?」
「え、あ、いや……」
さすがに戦闘人形とウィスプの同時を連戦したら身が持たない。
「骨龍を出そうと思ったのに。残念だよ」
「……鬼畜だ……」
エルラインは飄々と言うが、骨龍とはもうやらないと彼に伝えたのが昨日のこと。
骨龍はモンスターランクSだと聞いているが、異常にタフなんだよ。龍と名がつく通り、見た目は骨格だけの巨体を誇る龍なんだがブレスも魔法も使わない。
全身の骨が刃のようになっているから、それを使って体当たりや骨でできた羽の骨格やらで攻撃してくるんだがモンスターランクSとしては物足りなさを覚えるほどだ。
動きも追えないほど早くないし……しかし、こいつをモンスターランクSたらしめているのは無尽蔵ともいえるタフさなんだよ。
骨を完全に砕ききるまで動きを止めないもんだから……朝から昼食も食べずに夕方まで戦うことになってしまった。
嫌そうな顔をする俺へエルラインは子供っぽい笑い声をあげ「冗談だよ」とうそぶく。
「ちょっとこっちに座ってもらえるかな?」
エルラインは洒落たテラス用の椅子を中空から出現させると、執事やるような優雅な仕草で椅子へ手を向けた。
彼の言う通りに椅子へ腰かけると、「そのままじっとしていてくれ」と言われる。
「手を」
「うん」
手を差し出すと、エルラインが両手で俺の手を握る。
冷たい……彼の手は死人のように冷たく鼓動も感じ取ることができなかった。彼の手に触れてようやく俺も彼が
「ステータスを見るよ」
「おお、スキルが無くても見えるんだ?」
「スキルだけど?」
待て待て。またため息をつくんじゃない。
エルラインがステータス鑑定ができるなんて聞いてないから。初めて聞く話にため息をつかないでもらいたい。
そこまで考えて俺はエルラインのスキルを改めて考える。
オールワンはこの世の全ての情報を閲覧することができるスキル……あ、そういうことね。
「スタータス鑑定と異なり、君の目にステータスは映らないよ」
「エルラインには見えるってことかな?」
「うん。君のレベルは九十八まで上がっている。まあ、ここまで上がればレベルは問題ないと思うよ」
「レベルって百までなのかな?」
「そうだね。レベルはあくまで自分の身体能力や耐久力……SPやMPを高めるに過ぎない。過信は禁物だよ」
「分かってる。あいつとの戦いで思い知ったからな……」
「ふうん」
ファールードだよ。あいつと戦って、レベルは最低限満たしておかなきゃいけない条件に過ぎないと思い知った。
俺の場合、スペシャルムーブの組み合わせ、使いどころ、機転が肝になる。エルラインの戦闘訓練があって、敵に対する対応能力は格段に上昇したしな……。
しかし、最後は結局のところ「トレーススキル」が俺の頼りになるんだ。
「それはともかく……君の修行は間に合ったね。リミットまであと三日くらいだよ。もう森へ行くかい?」
「うん、魔の森へ到着するまで馬を使っても、二日はかかるから明日、日の出共に魔の森へ向かうよ」
「途中までは送ろう」
お、おお?
何か移動手段を持っているのかな。彼のことだから、俺が思ってもみないもので送ってくれるのかもしれないぞ。
少しワクワクしてきた。
「いろいろありがとう。エル」
立ち上がり、エルラインに握手を求める。
しかし、エルラインは珍しく顔を背け俺の手を取ろうとしない。
「エル?」
「……僕をその名で呼ばないでくれ。酷く……懐かしい気持ちになる。君は少しだけ……似ているから」
「そ、そうか。ごめん。エルライン」
親しみを込めて呼んだつもりだったけど、裏目に出たようだ。
「いや、これは僕個人の問題だ。すまないね。ウィレム」
「い、いや……俺こそ無神経でごめん」
エルラインは俺の手を握り、開いた方の手で俺の肩をポンと叩く。
◆◆◆
――翌朝。
な、なんと。俺は今……空を飛んでいる!
いや、もちろん人間たる俺には翼なんて無いから自力で飛んでいるわけじゃあない。
じゃあ、何かというと――。
なんと、飛竜の背にのって空の上ってわけなんだよ!
すげえ。すげえ。
大地があんなに小さく見えるなんて。吹き抜ける風が心地よい。肩にとまったカラスの爪が微妙に痛いのだけが玉に瑕だけど。
「ウィレム。はしゃぎ過ぎだよ」
あきれたように手綱を持つエルラインが前を向いたまま振り向かずにそう言うが、これでテンションが上がらないってのがおかしいって。
「まさか、空から行くなんて思ってもなくてさ!」
「これが一番早いからね」
「この飛竜ってエルラインのペットなんだよな? すげえ。すげえよ」
「全く……」
飛竜はエルラインの使い魔らしく、とてもお利口さんなんだ。
俺がリンゴを手の平に乗せて口笛を吹くと、そのまま口から舌を出してリンゴを食べるんだぜ。
いやあ、あの時は感動したなあ。肌ざわりもひんやりして気持ちいいし。
うわあうわあと言っているとすぐに魔の森の入り口にまでついてしまった。
ここでエルラインと別れ、俺は一人魔の森へ向かう。
既にエルラインから得た魔王の情報は魔の森で頑張っているハールーンらには伝わっているし、千鳥と村雲も魔の森に行っていることも俺に伝わっていた。
情報伝達は万全。聞くところによると、ハールーンらの首尾も上々らしい。ここまでは順調。後は魔王をいかに仕留めるかだな。うん。
深層に到着する頃には日が落ちて来ていたが、完全に暗くなる前にハールーンらが構築した拠点にまで到着することができた。
えっと、みんなはっと……きょろきょろと様子を伺っていたら……あ、あの男は。
長身痩躯でぼさぼさの黒髪に微笑髭の中年で、モンスターが蔓延る深層にいるにも関わらず地味な衣服しか身に着けていない。
どこか飄々とした目つきの悪いあの顔つき……俺の記憶より多少老けているが間違いない。
「父さん!」
大声で叫び、彼の元へ駆け寄り――。
「ウィレムか」
――懐かし気な顔をする父さんへ向けて拳を振り上げ頬に向けて振りぬいた。
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