第17話 魔法の仕組み
「
「お褒めいただき、感謝でござる」
戻ってきた千鳥を手放しに褒めたたえると、彼は照れた様子で頬を染める。
「あと少しで沼地だ。行こう」
「了解でござる」
俺たちは再び森を進み始める。
周囲への警戒を解かず、歩きながら千鳥へ目を向けると彼はすぐに俺の様子に気が付いた。
「千鳥、いろいろ聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
「拙者に分かることでしたら……」
「これは君の能力に関することだから、差しさわりなかったら教えて欲しい」
俺は父を助けてくれるという負い目から彼に話してもらうことを良しとしない。千鳥の能力は俺の思っている以上に高いことが分かったのもある。
無理やり聞き出すことで、変に悪感情をもたれてしまったら、後々の憂いになるだろうし……。
それと、この言葉にはもう一つの意味もある。
出会った時は敵だった彼のことを「お前」と高圧的に呼んでいたが、これからは「君」と呼ぶことにしたのだから……。
もう俺は彼を敵だと思っていないって暗に示したつもりだ。
つ、つまりだな。彼の父を助けると決めてから、彼を敵として扱うことをやめたつもりだったんだけど……最初の高圧的な言葉遣いがなかなか抜けなくてだな。
あああ、うまくいえねえ。
頭を抱えそうになる俺に対し、千鳥は迷うことなく頷きを返して「どうぞ」と呟く。
「君のスキルを教えてくれないか?」
「拙者のスキルは『ニンジャマスター』でござる。先ほど申したではありませんか?」
きょとんとした顔の千鳥。
あ、あれってスキル名だったのかよ。
堂々とスキル名を名乗るってなかなかすごいな。この分だと、普通に全部聞けちゃいそうだ。
俺は矢継ぎ早に千鳥に質問を投げかけると、彼はその全てに快く答えてくれたのだった。
ニンジャマスターとは魔法の一種である「ニンジュツ」を使用できる上に、スペシャルムーブ「
魔法とスペシャルムーブの両方を使えるスキルってのは、戦闘用のスキルとしては相当上位に当たるだろう。俺は多数の冒険者と魔の森で会っているが、両方を使えるスキルに出会ったことは無い。
「てことは『
「そうでござる。『
理由はSPの消費にある。
ん、まてよ。ニンジュツはMPを消費するのか。てことはだな……。
「千鳥、ニンジュツは『
「もちろんです。魔法と同じで、多数のニンジュツがあります故……。しかし……」
「しかし?」
「お恥ずかしながら、父上ほどニンジュツをマスターしておりませぬ……」
しゅんとしてしまう千鳥の肩をポンと叩き、
「そのうち全部のニンジュツを使えるようになるさ。ほら、俺なんて、MP自体がないんだぜ」
「そ、そうだったのですか。ストーム殿は多彩な技を持っております故、MP持ちかと思っておりました」
「MPを持っていたら、ニンジュツを教えてもらいたかったんだけどなあ……」
腕を頭の後ろで組みそんな感じでうそぶくと、千鳥はようやく笑顔を見せた。
MPを使う魔法やニンジュツは「記憶」できないんだよなあ。というのは、俺にMPが無いからってわけでもない。
確かにMPが無いから、例え「記憶」できたとしても、術は発動しないんだけどな。
それなら何故なのかっていうと、スペシャルムーブと違って魔法には前動作が無いからなんだ。実のところ、スペシャルムーブはトレーススキルを持っていなくても誰であっても発動することができる。
スペシャルムーブの発動条件は、前動作……八の字に武器を回したり、指を左右にあげたり……といった動作を一ミリもズレることなく真似すれば使えてしまう。
対するMPを使う魔法は、前動作が無い。
いや、前動作が無いは語弊があるな。
例えばだな、火の玉を飛ばす「ファイア」でも灯りを照らす「ライト」でも前動作が同じなんだよ。
つまりだな、魔法は心の中で発動条件を満たすってことだ。
「そうでござったか……拙者、簡単な魔法でしたら使えます故……ご教授することもできたのですが……」
俺の思考を遮るように千鳥の残念そうな声。
そう、千鳥の言うように魔法はスキルが無くても学ぶことができる。剣術だって縫製だって練習することでうまくなるだろ? それと同じだ。
スキル持ちは学習速度がスキル無しに比べて格段に速いってだけだからな。
しかし、MPの有る無しは持って生まれたスキルによる。トレーススキルではMPが増えない。
おっと、また思考の海に沈みそうだった。
俺は千鳥に目を向け笑みを返す。
「ありがとう。そう考えてくれるだけで嬉しいよ」
彼の肩をポンと叩き感謝の意を示した。
面と向かってハッキリと言われたことで、彼は照れからか頬を赤らめて鼻先を人差し指で撫でる。
「ス、ストーム殿、沼地はもうすぐでござるか?」
あからさまに話題を逸らすように千鳥が前方を指さす。
彼は感謝を示されることに慣れていないっぽいよな。俺は彼に親近感を覚える。ぼ、ぼっちじゃないやい。
「うん、あと少しで到着する。着いたら一旦休憩を入れよう」
◆◆◆
会話が途切れてからはお互い無言で歩き、ようやく沼地に到着した。
沼地は拠点のある洞窟からそう離れてはいないんだけど、俺はあまり足を運ぶことが無かったんだ。
というのは沼地に入ることが非常に手間だから、狩りに適していないということに尽きる。
沼地は肘から手の先くらいまでの深さがある水を
それに加え、水の下は深い泥になっており、足で踏みしめるとどこまでも沈んでいく。
スワンプドラゴンは沼のほとりから遠いところの泥の中から顔を出していることが多く、狩猟しようにも手が出ない。スワンプドラゴンを攻撃できる場所まで連れて来ることが俺にとって一番の難所……。
何しろ、沼の中央まで行くことができないからなあ……。
そんなことを考えながら、俺たちは沼のほとりの木の下で休憩している。
俺は腰を降ろした状態で、皮袋に入った水を飲みふううと大きく息を吐いた。
「千鳥、見えるか? 頭だけ出ているだろう?」
俺は沼の中央にある灰色の岩のようなものを指さす。
「あれがスワンプドラゴンなのですか? 尖った岩のように見えますが……」
「泥が固まっていて岩のように見えるけど、スワンプドラゴンの鼻先なんだよ」
「ほう……」
「千鳥、奴の鼻先に
「容易い事でござる」
「しかし、注意してくれ。奴は新緑熊より厄介だからな」
「……モンスターランクSです故……そうなることは想定内でござる」
「スワンプドラゴンの特徴を知ってる限り伝えるぞ」
「はい!」
俺はスワンプドラゴンについて語り始める。
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