第40話 再会の日まで
「千鳥、君はモンスターのランクとか名前、人の持つスキルについて詳しいと思って来てもらったんだ」
「なるほどでござる……。あの二人のことですね」
千鳥の雰囲気が先ほどまでと異なり、いつものキリリとした真剣な表情へと変わる。
「うん。モヒカン頭の方……ヨシ・タツのことは分かったからもういい」
「どんなスキルなのですか?」
わくわくと興味を惹かれた千鳥は俺の膝に手をやり身を乗り出してくる。ちょっと近すぎる気が……鼻息が荒いぞ。
このスキルマニアめえ。
なんて気持ちはおくびにも出さす、抑揚のない声色で彼へ返す。
「ヨシ・タツのスペシャルムーブは
「ひゃああ。それは注意が必要なスペシャルムーブでござるね」
「あれは使いこなせる奴が使うと、様々な場面で使えるいいスペシャルムーブだと思う」
「拙者にはファーストアタックに便利という記憶でござる」
グラハムが使うのなら、確かに千鳥の言う通り戦闘で先手を取り、一撃の元に沈めてしまおうっていう発想にしかならないだろう。
しかし、担い手がヨシ・タツだからこそ厄介なんだ。
奴は見た目とは裏腹に切れる。現にファールードを守るために超敏捷を使っていたしな。
俺としては超敏捷が「記憶」できてヨシ・タツに感謝だが。超敏捷は流水や超筋力と同じく、使いどころが広範囲に渡る有難いスペシャルムーブの一つだな。
「それほどレアではないのかな?」
「そうでござるなあ。『流水』よりはレアかもしれませぬが……ストーム殿、スキルのレア度って言葉は知っておられますです?」
「んー、少しは……」
スキルは使い手が多いスキルと少ないスキルの大雑把な目安としてレア度ってのが定められている。レア度の認定は王国のええっとなんとかって機関だ。
レア度は外れスキルだろうが有用なスキルだろうが、使い手の数だけで決定される。だから、レア度が高いからと言って、強力なスキルってわけではない。
レア度は下から順にコモン、アンコモン、レア、スーパーレア(SR)、ウルトラレア(UR)、レジェンド、アンノウンの七つに区分される。アンノウンは便宜上ランクがあるだけで、実際に登録されているスキル数はゼロだ。
未だ知られていないスキルもあるだろうってことで、アンノウン。
さて、コモンは一番使える人が多いスキルなんだけど、代表的なのは各種魔法スキル、武器スキルが含まれる。
これらが「使えない」スキルってわけが無いのは明白だろ? 大剣、片手剣、斧なんかのスキルはコモンだけど、このスキルを持ったSランクの冒険者だっている。
研磨次第だな。
「『超敏捷』のスペシャルムーブを使えるスキルは『投げナイフ』です」
スキルについて頭の中で整理していたら、千鳥が人差し指をピンと立て助け船を出してくれた。
お、俺だってそれくらい知っているんだからな……。
「『投げナイフ』だったらレアか」
「そうでござる。武器スキルの中だと武器そのものは外れ武器でござる」
「いやいや、『超敏捷』は強力だぞ」
「はい。その通りでござる。武器の不利を補って余りあるスペシャルムーブです」
「えっと、参考までに……『ニンジャマスター』はレア度どんなもんなんだ?」
既に三人もニンジャマスターを見ているからな……。
ニンジャマスターは味方だと心強いが、ありふれているとなると裏稼業の人間に多そうだ。
隠遁は俺には効果がまるでないけど、他の人にとっては脅威だろう。
「『ニンジャマスター』はスーパーレアでござる」
「それならそうほいほいと出会わないんだがなあ……もう会わないよな……」
スーパーレアとなると王国内で使える人は二十人以下。その中の三人にあっているなんて、ある意味すごいな俺。
「おそらく……」
千鳥の言葉は歯切れが悪い。口元も引きつっているし……。
きっと彼の記憶の中にまだニンジャマスターがいるな……これは。
じとーっと千鳥を見ていると彼は誤魔化すように両手を振り話題を変えてきた。
「え、ええと……ストーム殿。ファールードのスキルは何だったのですか?」
「それを相談しようと千鳥を呼んだんだよ」
そうだった。横道にそれていたが、元々ファールードのスキルを推測するために千鳥へ相談を持ち掛けたんだよ。
ナイス話題転換だ。千鳥。
「たぶんこれだろうなって推測はあるんだけど、ファールードのやったことを簡単にまとめていくぞ」
「はいです」
ファールードが手をかざしたら何も無いところから、フルーレが出た。
バケツも引き出すように出して、バケツの中には水が並々と入っていたはず。ヨシ・タツに水を思いっきりぶっかけていたからな。
俺の考えが正しければ、あのスキル以外に無いんだがあれは戦闘を補助するスキルなんかじゃないんだよな。
「それは……『アイテムボックス』以外に考えられませぬ」
「やっぱそうだよなあ。でもさ、ファールードの奴、フルーレ……フェンシング武器の扱いに長けていたんだよ」
やっぱり千鳥もそう思うよな。
アイテムボックスは著名なスキルだが使い手は非常に少ない。レア度で言うと、ニンジャマスターより更に希少なウルトラレアになる。
王国全体で十人に満たない使い手しかいないのだ。
それにも関わらず、多くの人が知るスキルになっているのには理由がある。
このスキルは商人のスキルとして最高峰に位置付けられ、彼らにとっては垂涎の的なのだ。
アイテムボックスの能力は非常に単純。手で触れたアイテムを異空間(アイテムボックス)に放り込み、好きな時に取り出せる。
つまり、このスキル持っていると、身一つで旅ができるし、倉庫も必要ない。
これだけでもとんでもスキルなんだけど、もう一つ絶大かつ他のどのスキルにも真似できない能力までもっているんだ。
それは、アイテムボックスに放り込んだアイテムの時間が止まるってこと。鮮魚はそのままの状態で、氷も解けず、肉も腐らない。
このことがどれだけ商売上有利かは俺でも想像がつく。
ファールードはスキルにおいても高スペックだった。
って結論でも構わないんだけど、解せないところがある。
彼のフルーレの技量は相当研ぎ澄まされていた。だから、ひょっとしたら戦闘関連のスキルでアイテムボックスに似たような効果を持つものがあるんじゃないかって思ったんだ。
それが千鳥に相談したかった一番の理由。
「武器の扱いに長けるですかあ……」
千鳥も頭を捻り「うーん、うーん」と呟いいたまま、顎に手をやる。
「アイテムボックスは特に技量を後押しするもんでもないよな?」
「その通りです。こと戦闘に限定いたしますと……武器を失ってもすぐに用意できることくらいでしょうか」
「ううむ」
「あ……」
お、千鳥が何か思いついたようだ。
「ストーム殿と同じではないでござるか?」
「ん、どういうことだろう?」
「ファールードは持って生まれた戦いの才能とそれを開花させる努力を怠らなかったということでは?」
俺が才能を持っているってのはともかく、ファールードのことは彼が天才だったと考える方が自然か。
あの様子だと努力はしなさそうだけどなあ。
いや、努力をほぼせずあれだとすると脅威だぞ……。
想像し、背筋が寒くなる。
「どうされました? ストーム殿」
「あ、いや。やはりファールードの持つスキルは『アイテムボックス』と見ていいよな」
「それしか考えられませぬ」
「そうか、そうか……」
千鳥が不思議そうに首を傾けているが、俺は先ほどから鳥肌が止まらない。
戯れであれだけの戦闘能力を持つファールードが、「本気」で俺と再戦しようと願っている。
奴のことだ。戦闘向きではないアイテムボックスのスキルであっても必ず「戦闘」に使ってくるはずだ。
「怖い顔になっていますです。ストーム殿……」
「あ、いや。望むところだってね」
「ファールードでござるか?」
「ああ。あいつと俺はいずれ戦うことになるだろう。武者震いが止まらないよ。かつてない強敵に」
「それほどでござるか。ストーム殿と互角に戦える人なんて想像できませぬが……」
「ははは。そうでもない。世の中にはファールード以外にもまだ見ぬ強者はいるさ」
最高だよ。ファールード。
お前の全力を叩き潰してこそ、俺のやり返しは成る。
いずれ相まみえる時を楽しみに待つことにしよう。
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