第50話:剣の授与

 シェイラは放っておくとして、我はフォレシールを自らの手でアヤに差し出した。


「あ、あの、グレン様。この双剣は?」

「言っただろう? アヤの双剣は俺が準備するってな」

「でも、これって、見たことない素材でできてるっすよね?」


 あー、うん、そうだのう。何と言っても我ですら始めて見る素材だったからな。

 これは言ってもいいのだろうか? ……まあ、使うのはアヤなのだから言っていた方がいいかのう。


「俺の知り合いに凄腕の製作者がいてな。基礎素材にはボーヴィルスを使っているんだが、掛け合わせとしてエリシールという素材を使っている」

「エリシールっすか?」


 アヤはシェイラと顔を見合わせて首を傾げている。


「グレン様、そのような素材は私も聞いたことがありません」

「僕もないですね」


 サラとバランも同様の反応を示しているが……まあ、そうなるだろうな。


「エリシールは精霊界に存在する素材だからな。正直、俺も始めて見た」

「「「「……えっ? ええええええぇぇっ!」」」」


 そして、こうなるのも予想通りである。


「ま、まさかグレン様、カノンのところに行っていたのですか?」

「カノンさんって、あのカノンさんですか?」

「その通りだ。本当はボーヴィルスだけで作る予定だったんだが、カノンの好意で珍しい素材を使わせてもらったんだ」


 サラとバランは何とか復帰できたのだが、アヤとシェイラはいまだにポカンとしたまま固まっておる。


「アヤ」

「……」

「アヤ?」

「……は、はいっす!」

「この双剣の名前はフォレシール。魔法を通しやすく、魔法剣士を目指すなら絶対に必要となるだろう。サラの弟子を名乗るなら、これくらいは使いこなしてもらわなければならないが、できそうか?」


 俺の言葉にゴクリと唾を飲み込んだアヤだったが、しばらくフォレシールを眺めた後――しっかりとその柄を握りしめ受け取ってくれた。


「だ、大丈夫っす! グレン様にも修行の成果を見せるっすよ!」

「サラ。アヤがフォレシールを使いこなせるように、もう少し指導を頼むな」

「お任せくださいませ。フォレシールがあれば、アヤさんはさらに強くなれるでしょう」


 力強い言葉を受けて、我は満足気に頷く。

 その横で、一人そわそわしているシェイラの姿が見えた。


「……」

「……な、なんだ?」

「えっ! あ、あたいにはないんですか! あたいの剣は!?」


 まあ、そんなことだろうと思ったぞ。


「あるから心配するな」

「グ、グレン様、酷いですよ!」

「シェイラは突っ走る傾向があるからな。これはいわば注意喚起の一つだよ」

「あぅぅ」


 自分でも自覚があるのだろう、否定することなく我の言葉を受け入れていた。

 だが、いつまでも落ち込んだままの姿はシェイラに似合わないので、我は魔法袋マジックポーチからスカイウェンを取り出した。

 こちらもフォレシールに勝るとも劣らない美しさに、シェイラだけではなくバランまでが目を離せなくなっている。


「こちらも基礎素材はボーヴィルスだが、精霊界の素材でウェンデルというものを掛け合わせている。エリシールとはまた違う特性を秘めた素材だが……これは持ってみたら分かるだろう」


 そう言って我はスカイウェンをシェイラに差し出す。

 シェイラは恐る恐るスカイウェンを受け取ると、驚愕に目を見開いた。


「……嘘……これ、か、軽すぎませんか?」

「俺も初めて持った時は驚いたよ。小枝を持っているような……いや、それよりも軽い、まるで鳥の羽くらいの重さしか感じないんだからな」

「鳥の羽って、そんな大げさな」

「バ、バラン様、本当です! よかったら持ってみてください!」


 興奮気味にスカイウェンを差し出すシェイラに苦笑を浮かべながらバランが手に取る。

 ……うむうむ、そうなるであろうな。


「……マ、マジか」

「この剣、スカイウェンは凄い剣ですよ! バラン様、あたいが使いこなせるようになるまで、ご指導をお願いします!」

「そうだな。これは大変な依頼を受けてしまったが、やりがいはありそうだ」


 サラに続いてバランのやる気にも火が再び付いたようだのう。

 これなら安心して二人を任せられる。


「グレン様、これからいかがなさいますか? 私はアヤの指導を続けたいと思いますが?」

「僕もそうですね。スカイウェンの軽さは想定外でしたから、シェイラちゃんにはさらに上の指導をしたいですね」

「任せるよ。俺は少し休ませてもらうから」


 我に断りを入れて、四人は家の外に出て行った。

 アレスとニーナはギャレスが勇者の心得を教えているだろう。きっとさらなる成長を遂げているに違いない。

 シェイラとアヤはどうするべきかと思うが……まあ、そこはギャレスに放り投げるのも一興か。

 意趣返しではないが、そうなることもギャレス自身は予想しているだろうからな。


 これからのことを考えながら、我はサラが入れてくれたお茶に口をつける。


「……うむ、この味も美味いな」

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