第31話:指導の予定と剣について

 興味を持ったシェイラが話を聞く態勢に入ったので、バランもそのまま話を続けることにしたようじゃ。


「シェイラちゃんは剣士が剣だけで戦闘をしてると思っているのかな?」

「シェイラ、ちゃん!」

「えーっと、ここはまじめな話だからちゃんと聞いてくれるかな?」

「……す、すいません」

「それで、どうかな?」

「もちろん、剣だけに決まっています!」


 そんな自信満々で答えられるのも、ある意味では素直な良い子なのかのう。


「うーん、それは違うんだなぁ。剣士は剣をメインに使うけど、より剣を活かすために様々なことを行うんだ。体術もその一つだね」

「でも、私は剣しか使っていません!」

「うん、だからだと思うんだ」

「だから、と言いますと?」

「だから――弱いままなんだと思う」

「えっ!」


 これまたはっきりと申したものじゃのう。だが、シェイラにはこれくらいはっきり言った方が良いのかもしれんな。


「で、でも、今までは何とかやれていましたし、剣術を習えばこれからだって――」

「いいや、無理だ。シェイラちゃんは強くなりたい、生き残りたい、そう言っていたけど、本当にそう思っているの?」

「当然じゃないですか!」

「それなのに、剣に固執して他の可能性を捨てているのかい?」

「そ、それは……」


 俯いてしまうシェイラだが、バランの言っていることは我が思っていたことと同じなので何も言わないでおこう。ここで吹っ切れるかどうかが、シェイラの今後を決めるだろうからな。


「僕の言っていること、分かるよね?」

「……はい」

「シェイラちゃんがどうしてそこまで剣に固執するのかは分からない。だけど、それだけ固執するのなら、剣の為に、剣を活かす為に別の手段を学ぶこともいいことだと思うんだけどな」

「……」

「僕から言わせると、シェイラちゃんは剣に固執するあまり、剣を殺しているよ」

「――! ……剣を、殺している」


 おいおい、そこまできつく言うのかい。それではシェイラのやる気がなくなるのではないか?


「……シェイラ、大丈夫っすか?」


 肩を抱きながら心配そうに声をかけるアヤにも反応を示さないシェイラ。

 これはとうとうダメか――そう思った時じゃった。


「――バ、バラン様!」


 勢いよく顔を上げてバランを見つめるシェイラ。

 バランもその瞳を真正面から受け止めている。


「何かな?」

「……あ、あたいに、体術を教えてください!」

「もちろんだよ。剣術を活かす体術、みっちりと教えてあげるね」

「は、はい!」


 うわべだけのやる気を見せている者なら、最後に見せたバランの笑顔で表情が崩れていただろう。しかしシェイラの表情は引き締まったままじゃ。

 うむ、これなら安心して任せられるのう。


「グレンさん、指導は今日からですか? それとも明日から?」

「今日は疲れているだろうから、明日からにしよう。アヤへの説明はサラからされていると思うが、一応俺も聞いておきたいからな」

「かしこまりました。アヤさんには当初のお話通りに魔法剣士を目指していただきます。魔法もそうですが、剣士と言うからには魔法剣まで習得していただこうと思っております」

「頑張るっす!」


 シェイラも大変だが、やはり魔法剣士を目指すアヤも相当な努力を要するだろうな。

 魔法剣は、過去の勇者でも数人しか使えなかった秘剣に数えられるものじゃ。

 当然ながら、グレンは使いこなしておったがのう。

 しかし、アヤはそれを双剣でやらねばならんのだから、普通の倍以上の努力が必要じゃ。

 剣一本に魔法を付与するも大変なのじゃ、二本に付与した上で継続させなければならないのだからな。


「使っている双剣は既製品か?」

「はいっす。お金もないので安物っすが」

「あたいのは特注品ですよ! 見ますか? 見ますよね!」

「いや、結構だ」


 頬を膨らませて怒ってしまったシェイラはさておき、アヤの双剣では魔法剣に耐えられないだろう。

 サラもそのことには気づいているのか、少し思案しているようだった。


「……アヤの双剣は、俺が準備してやろう」

「えっ!」

「……そこで何故シェイラが反応する?」

「だって、羨ましいですよ! あたいだって剣が欲しいです!」

「特注品の剣があるだろう!」

「それとこれとは話が違います! 剣ならば何でも欲しいんです!」

「荷物になるだろうが!」

「何とかしてみせます!」


 め、面倒臭いのう! 使いもしない剣など、どこにしまうと言うのじゃ! 魔法袋マジックポーチを持っているわけでもないだろうに!


「作ってあげたらどうですか?」

「バ、バランまで」

「僕に考えがあるんです。見たところ、シェイラちゃんが背負っている剣だと扱いづらいんじゃないかと思いまして」

「むっ、そうなのか?」


 視線をシェイラに向けると、頬を掻きながら遠くを見ている。


「じ、実は、見た目の美しさ重視で作ってもらったら、重すぎてうまく振れないんですよね」

「……それの何が特注品なんだよ!」

「あは、あははー」

「おや? 二人とも、聖剣ではないのですね」


 んっ? おぉ、そう言えばそうじゃのう。今は量産型の聖剣もあるのじゃから、それを持っていてもいいと思うのだが。


「あたいに量産型の剣が似合うと思いますか? 思いませんよね! だから使っていません!」

「誰も答えていないがな!」

「わ、私は双剣の聖剣なんてないって言われてしまったっす。だから既製品を使ってるっす」

「……なんか、勇者が可哀想に思えてきたな」

「……本当ですねぇ」

「……今って、こんな感じなんだぁ」


 魔族は三者三様の意見を口にして、食事を終えたのだった。

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