第15話:勇者ハルト
アレスがライネルを倒した直後、サラとニーナ――それに勇者パーティのミナとシェーラが転移で戻ってきた。
勇者パーティの二人は何故か無傷であり、サラとニーナの方を見ることが出来ないのか、我とアレスを交互に見ているようだ。
……この二人、何をされたのじゃろうか
「ラ、ライネル様!」
魔術師のミナが先に我に返って倒れているライネルに駆け寄ると、釣られてシェーラも我に返った。
ビクビクしながらこちらを見ているので、我は仕方なく答えてやる。
「このようなザコを殺したところで無意味だからな。さっさと連れて人間界に戻るがいい」
「は、はいいいいぃぃっ!」
「申し訳ありませんでしたああああぁぁっ!」
ミナと武闘家と見られるシェーラは泣きながらライネルを抱えて走って行ってしまった。
勇者が気絶した状態で魔境中腹から人間界まで戻れるのか……まあ、おそらくは大丈夫じゃろう。
「サラ、このパーティはあの二人がメインのパーティじゃなかったか?」
「はい、グレン様。その通りです」
「ど、どういうことですか?」
やはりアレスだけが首を傾げ、ニーナは納得顔で頷いている。
「ライネルはお飾りの勇者だったってことだ。実際に魔族とメインで戦っていたのはミナとシェーラ、アレスは最後のとどめだけを刺していたんだろう」
「――貴方の言う通りだ」
近づいていたのは分かっていたが、あえて何も言わなかったんじゃがなあ。
……ここでも不意打ちとか、そういうのはやらないのか。
「僕の名前はハルト。勇者の一人だよ」
「知っている。後ろにいるのがそのパーティだな」
「ハルトさん、俺にやらせてください!」
「いや、ここは全員で確実にだなぁ」
「そんな卑怯な真似は出来ません!」
……なんか、意見がバラバラなパーティじゃのう。
「だったら、こういうのはどうだろうか。僕達も四人、魔族も四人。それぞれが一人ずつ戦えばいいんじゃないか?」
「おっ! さすがハルトさん!」
「ハ、ハルト様がそう仰るなら」
「それならば卑怯にはなりませんね」
そして勝手に戦い方が決まってしまったわい。
まあ、アレスがハルトとやらを倒せば問題はないか。
「アレス、ここでは
「あっ、分かりました」
……どうやらアレスも勇者との戦いに慣れてきたようじゃな。それも最初の相手がライネルだったのが良かったのかもしれん。
「俺の相手がお前だな、でっかい奴!」
そして我の相手はさっきから強気に話している双剣使いの小僧である。
「アレス、行ってこい」
「はい!」
「てめえ! 無視してんじゃねえぞ!」
アレスに声を掛けた直後に小僧が肉薄してきた。
人間にしては速いが、我の敵ではない。
小僧が間合いに入った直後、双剣が振り抜かれるよりも速く右手を突き出して指を一本弾く――デコピンと言ったかのう。
なるべく手加減したデコピンじゃったが――小僧はまるで転移したかのように吹き飛び後方の岩石に激突してしまった。
……えっ、勇者パーティってこんなに弱いのかい?
「バーディ! 貴様!」
「あ、貴方の相手は僕です!」
我に掛かって来ようとしたハルトの目の前にアレスが割り込みハルジオンを一閃。
間一髪で後方へ下り回避したハルトは一瞬で聖剣――ではなく聖槍を構えていた。
「ザコ魔族が、邪魔だ!」
聖槍を高速で扱き激しい刺突がアレスを襲う。
地の構えで聖槍を右へ左へ弾きながら耐え凌ぐ。
速度では捌かれると感じたハルトは大きく一歩踏み出すと、力任せの大上段斬りを放つ。
大きく後方へ飛び間一髪で回避した――かに見えた。
「セイントエッジ」
「なっ!」
大上段斬りを放ちながら聖槍が光を浴びていたことに気づかなかったアレスは、聖槍が振り下ろされたのと同時に放たれた光刃を回避出来なかった。
ハルジオンで受けはしたものの、光刃の余波が擦り傷ではあるがアレスの体を傷つける。
戦い慣れている、そう思わせる余裕をハルトは持っていた。
しかし、アレスにはとっておきの切り札がある。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
「これで終わりですね!」
首を取るために放たれた横薙ぎは、余裕が招いた結果なのか大振りになってしまう。
そこへ剣先を向けたアレスが放ったのは、もちろん破気じゃ。
アレスが狙ったのはハルト自身――ではない。狙いは聖槍、武器破壊である。
これが既存の聖剣や聖槍の類であれば破壊は容易ではないだろうが、ハルトが手にしているのは量産された聖槍じゃ。
あくまでも人間界で手に入る素材を使って作られた物であれば――。
「はあっ!」
――バキイイィィンッ!
破壊も可能である。
「ま、まさかっ!」
「終わりです!」
何が起こったのか理解が追い付かないハルトは一瞬無防備になってしまう。
そこにハルジオンの刃が迫り、肩口から脇に抜ける袈裟斬りが炸裂。
「が、はあっ」
ここで聖剣の特性が発揮された。
聖剣は魔を祓う剣とも言われている。その為、魔を持たない相手を斬る時、それが致命傷であれば一定の回復を施してくれるのじゃ。
アレスが放った一撃は、本来であれば即死レベルの攻撃だったのじゃが、ハルジオンがハルトを魔を持たない人間だと判断して回復が施された。
その場で気を失い倒れたハルト。その横に立つアレスは、今も信じられないものを見たように立ち尽くしていた。
「……僕が、勝った?」
おそらく、アレスからすればハルトは相当格上の相手だったに違いない。
その相手に手傷を負わされたとはいえ勝利出来たのだから、困惑するのも無理はないかもしれん。
「アレス、お前の勝ちだ」
「し、師匠!」
手放しで喜ぶアレスに微笑みながら、サラとニーナの所へ視線を送ると、あちらも既に終わっており二人でハルトパーティを何処に転移させるかを相談しているようじゃ。
……いや、普通に魔境の入口付近で良いのではないか?
さて、北の勇者達は倒すことが出来たのでアレスが強くなっているのは確信出来たのう。
残る勇者は四人。
次は何処の勇者で力試しするかのう。
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