第16話:勇者リューネと勇者ユウナ

 我が思案していると、ニーナが東の方向に指を向けた。


「あちらから、誰か来ます」


 気配察知も上出来じゃな、よしよし。

 ……なんだか、アレスよりもニーナの方が勇者っぽくなっているんじゃが、気のせいじゃろうか。


「一……二……四…………七人?」

「その通りです、上手くなりましたね」

「あ、ありがとうございます!」


 ニーナの扱いはサラに任せておけば問題ないようじゃな……怖いけど。


「しかし七人か。やけに多いな」

「おそらく、元から協力し合っていたようですね」

「め、珍しいですね」

「勇者同士で気が合ったのでしょう。お二人とも女性のようですし」

「女性の勇者ですか……」


 少し浮かない表情のアレスに我は首を傾げる。


「どうした?」

「いえ、その、女性を攻撃するのかと思うと、少し嫌だなって思ってしまいまして」


 ふふふ、アレスも男ということじゃな。

 女を守るのが男! とか思っているのじゃろうが、勇者の世界にそんなものは必要ない。

 勇者は勇者、男も女もなく、強いから勇者なのじゃ。


「ならばアレス、魔王がもし女性だったら攻撃しないのか?」

「えっ! ……それは、攻撃すると、思います」

「女性なのにか?」

「僕は人間ですから」


 ふぬう、ここで魔族と人間の違いが出てしもうたか。

 だが、飛んでくる火の粉は払わなければならん。


「……分かった。今回はハルジオンを使って遠距離から勇者を攻撃しろ」

「遠距離から、ですか?」

「それなら女性を斬る罪悪感も薄れるだろうし、光刃なら間違えても勇者を殺すなんてことはないからな」

「……は、はい」


 しかし……やはり人間じゃな。これで足をすくわれないよう気をつけてほしいものじゃ。

 本当は破気はきも使って欲しいが、あれは加減を間違えてしまうと殺しかねないからな。一対一ならまだしも、二対一の状況でしっかり加減ができるとは思えん。


「他の人達はいかがいたしますか?」

「面倒臭いから転移でどっか別の所に飛ばしてくれ」

「かしこまりました。人数もいますし、動いている対象を転移するので、今回は私がやりましょう」

「サラ様のお手を煩わせるとは……私もまだまだです、精進します!」


 ……うん、頑張っておくれ。というか、今の発言だとニーナも転移魔法を使えるみたいに聞こえたんじゃが、えっ? もしかして教えたのか?

 そんなことを思っている間にもサラは視覚転移を行い勇者パーティを捕捉、相手からこちらが見える場所に到達する直前に――。


「あっ、飛んだ」

「飛びましたね」

「えっ、えっ?」


 アレスだけが気づいていないようだが、二人の勇者を残してパーティ全員が転移させられてしまった。

 ……というか、さっきの勇者パーティもそうだが魔法阻害の魔術具とか持っていないのか? 魔境に来るなら当然の備えだろうに。

 そんなことを考えていると、奥の道から二人の勇者が血相を変えてこちらに向かってきた。


「――貴様ら、何をした!」

「――仲間を何処へやった!」


 突然仲間を消されたのだ、怒り狂っても仕方あるまいか。

 そんな勇者二人を相手にしなければいけないアレスは気の毒だと思うが、これも修行のうちじゃな。


「ではグレン様、私達は転移させた方々の相手をして参ります」

「任せた」


 サラとニーナが転移したのを見た勇者達は警戒の色を深め、既に抜剣している聖剣に光が現れると二人同時に光刃を放った。

 ……そして、今の転移魔法をニーナが発動したのを見て、教えたんだ、使えるようになったんだ、と内心で驚いていた。


「はあっ!」


 光刃を目の前にして、アレスはハルジオンで切り裂いてみせた。

 うむ、切り札は決定機に取っておくということじゃな。


「ま、まさか!」

「私達のセイントエッジが防がれるなんて!」


 ……もう、光刃をセイントエッジと言わなければいけない気がしてくるぞ。

 そもそもセイントエッジなんて名前付いてなかったんじゃがなあ。

 それはともかく、光刃を防がれた勇者達は一定の距離を置いて立ち止まる。


「私は勇者リューネ!」

「あたいは勇者ユウナ! 仲間を何処へやったの!」

「ぼ、僕は分かりません!」

「「んなわけあるかあっ!」」


 そこは我のマネをしなくても良いのだぞ?


「……し、師匠」

「なんだ? この期に及んで女性を攻撃したくないとか言わないよな」

「違います。魔族の姿になってる僕が、えっと、光刃? セイントエッジ? を出しても良いんでしょうか?」

「安心しろ。光刃も魔剣が放つ黒刃に変化するからな」


 とても便利な魔術具なのである。

 それと、我は絶対にセイントエッジとは言わん!


「何をコソコソと話している!」

「リューネ、やるわよ!」


 左にリューネ、右にユウリが駆け出すと再び光刃を放つ。光刃は意外と体力を使うのじゃが、あれだけ乱発しても大丈夫なのだろうか。

 アレスは体力を温存するために光刃を再びハルジオンで防ぐ。

 ハルトとの戦闘で手傷を負ったこともあり二人をしっかりと観察しているようじゃ。

 しかし勇者達は光刃を更に乱発。額に浮かぶ汗が体力の消耗を物語っているが止めようとはしない。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

「ま、まだまだよ!」


 強気なのはいいが、息も上がっておるし、光刃も徐々に威力を落とし始めている。

 ここが決定機と悟ったアレスは満を持して光刃――ではなく黒刃を三つ、リューネ目掛けて放つ。


「なあっ!」


 疲労の色が濃く出ていたリューネは光刃を放とうとするが体力が落ちているためすぐには出せない。

 その一瞬の時間がリューネを倒す決め手となり、三つの黒刃が斬り裂いた。


「きゃああああぁぁっ!」

「リューネ! あんた、よくも!」


 間合いを詰めようと駆け出したユウナだったが、出し終えたと思っていた黒刃が二つ現れたことで驚愕。

 一つは光を浴びた聖剣で何とか防いだものの、もう一つの黒刃が肩口に深々と突き刺さり、これが決定打となって意識を刈り取った。

 実際には光刃なので致命傷にはならないのだが、脳がやられたと誤認したようだのう。


「二人相手によくやったな」

「あ、ありがとう、ございます」


 ふむ、アレスも三連戦で疲れているようじゃな。サラとニーナが戻ってきたら一度休憩するかのう。


 数分後、転移で戻ってきたサラ達に勇者達も仲間達の所へと転移させて休憩をとった。

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