第23話:秘密の共有、そして……

 とりあえず我がアレスの師匠になった経緯を教えると、顔を引きつらせてはいたが納得はしてくれたようじゃ。

 意外と流れに身をまかせるタイプのようじゃな。


「まあ、僕としては強い勇者が現れて、強い魔族が隠居してくれているなら嬉しい限りだけど……せっかくなら僕のパーティにならないかい?」

「何故にそうなるんじゃ!」

「実力に見合う仲間を見つけるのが大変だって言っただろ? 君なら僕よりも強いし楽ができそうだ」

「絶対になるかあ! 一応、隠居した身じゃが我も魔族じゃからな!」


 大声で怒鳴るとギャレスは大声で笑いだしてしまった……むむむ、解せん。


「お主、一応我が元魔王だと知ったのだよな?」

「うん、教えてくれたからね」

「……普通に接していていいのか?」

「えっ、ダメなのかい?」

「……」

「……」


 なんか、もういいわい。


「とりあえず、戻るか」

「僕もお願いね」

「自分で戻れ」

「えぇー! 勝手に転移させといてそれは酷いよ! 君達の秘密も知ったわけだし、僕も共犯だよね!」

「あぁーっ! 分かった、分かったからくっつくでない!」


 適応能力が高過ぎじゃろう!

 仕方なく我はギャレスを伴いサラ達が待つ場所に転移したのじゃった。


 ※※※※


「……これはどういうことでしょうかグレン様?」


 おぉぅ、何故にそこまで憤怒しておるのじゃ、サラよ。

 ギャレスを伴ってはいるが勝利はしたしアレスの成長にも繋がった、何も悪いことはないではないか。


「このような人間風情に腕を絡まされて嬉しいのですか? そうなんですか、そうなんですね?」

「何を勘違いしているんだ! これはこいつが転移で連れて行けと喚くからこうなっただけだ」

「ならばこの勇者は私が仕留めましょう。燃えかすが残らない程に燃やし尽くしてみせますわ」

「えぇー、僕を殺したらグレン様が怒るよー」

「……グーレーンーサーマー?」

「お、お前、悪ふざけにも程があるぞ!」


 な、何故にこうなった!

 転移して数秒後にはサラの表情が憤怒に変わり、ギャレスは面白おかしく話しを脚色しおる。

 アレスとニーナはぽかんとしたまま固まっておるし、なんて面倒臭いのじゃ!


「お前はもう帰れ! これ以上は話がこじれて仕方ない!」

「怪我もしてるし疲れた、連れてってくれ」

「……怪我は治したじゃないか」

「精神的な部分? で疲れた」

「今疑問形だったよね!」

「やはり殺しましょう、目障りです」

「グレン様ー! 助けてー!」

「あぁーうるさい! さっさと戻るぞ!」

「わーいわーい!」

「……絶対、殺す!」


 ギャレスのせいでなんか色々とめちゃくちゃじゃわい。

 ……そんな目で見ないでくれアレス。そしてニーナはサラに加勢しようとするでない。さらに面倒臭くなりそうじゃからのう。

 こうして我らは家に戻ったのじゃった……一人の部外者を伴って。


 ※※※※


 家に着いてからもギャーギャー喚いているサラとギャレスは放っておき、我はアレスと話をする。

 ……だからニーナよ、隙をついてギャレスを殺そうとするでない。そっちは同じ人間じゃろうに。


「お、お疲れ様です?」

「アレスだけだぞ、俺に優しくしてくれるのは」

「あはは」

「……まあ、色々あったが今日はアレスが自信を付けられたから良かったか」

「自信、ですか」

「ん、どうしたんだ?」


 暗い表情のまま下を向いてしまったアレス。

 勇者を五人も一人で倒したのじゃ、自信以外に何があるのじゃろうか。


「……ギャレスさんを見て、僕はまだまだだと実感しました。勇者になったばかりですし、ハルジオンを使いこなせていませんし、まだまだだってことは自覚していましたけど、今日は特にそう思ったんです」

「そうか、まあ奴は勇者の中でも上位だろうしな。仕方ないだろう」

「――なら僕が勇者としての戦い方を教えてあげようか?」

「うおっ!」

「うわあっ!」


 お、お主はいつの間に近づいてきたのじゃ!


「いや、そんなに驚かなくてもいいじゃないか」

「気配を消すな、気配を!」

「自然とそうなっちゃうんだよねー」

「……もうよい。それで、勇者としての戦い方なんてあるのか?」

「まあ、戦い方というか心構えかな」

「心構え、ですか?」


 そういえば、アレスは冒険者になろうとしたところでいきなり勇者にされたと言っておったな。心構えも何もできなかった可能性は高いのう。


「今の人間界は勇者と名のつく人間を増やそうと躍起になっているんだ。そのせいできちんとした教育ができていない」

「アレスの話を聞く限り、そうだろうな」


 アレスではなくライネルを評価したくらいじゃし、そのライネルもまた勇者としての自覚が低かったように見える。

 言い方は悪いが、仲間の手柄を奪っていた感は否めないからのう。


「僕は見込みのある若手勇者がいたら手助けをしているんだ。……本当だよ?」

「む……まあ、信じてやろう」


 疑いの眼差しに気づいたのか念を押してきよったわい。


「アレスは君の指導もあってメキメキと力を伸ばしている。破気はきも使えて、聖剣ハルジオンとも相性が良さそうだ。これほどの逸材はそうそう現れないだろうね」

「だから、お前が勇者としての心構えを教えると?」

「その方が合理的じゃないかな――お互いにね」


 まあ、我は魔族であるし、いつかはアレス達と離れなければならない。たった二人で再び魔境に放り出すよりも、ギャレスと一緒にいた方が成長は早いであろう。

 それに、我であれば技術は教えられても勇者としての心構えを教えることはできない。

 それならば早い段階で預けても悪くはないかもしれんな。


「……いいだろう、アレスとニーナはお前に任せよう」

「そんな!」

「……いや、そこはアレスのセリフだろ。何故ニーナが驚く!」

「だって、こんなにも早くサラ様と離れることになるだなんて……やはり、隙をついて殺しておくべきだったのね!」

「……サラ、後は任せたぞ」

「かしこまりました、グレン様。さあ、あちらで一緒に食事を作りましょうか」

「もちろんです!」


 すぐに機嫌を良くしたニーナがサラと一緒に台所へと姿を消すと、話を元に戻した。


「し、師匠……」

「大丈夫じゃ。こいつはこんな奴だが信用できる」

「なんか酷くない?」


 ……無視無視。


「本当の勇者になりたければ、他の勇者と行動を共にした方がいいと思う。いいところは盗め、学べ。そしてギャレスを超えていけ。アレスならできるさ、俺が認めた勇者なんだからな」

「……僕に、僕なんかに、できるでしょうか」

「今の時点でセインを倒せたんだ、問題ないさ」

「僕も太鼓判を押すよ。アレス、君なら僕を超えることも不可能じゃない。僕にできなかった魔王討伐、それを成してくれると信じているよ」

「えっと、は、はい……?」


 お主は本当にいらんことばかり言いよるわい。

 我への当てつけも含めた言葉にぎろりと睨むが、ギャレスは気にすることなく笑いながらこちらを見ている。


「まあ、そういうことだ。俺とギャレスの太鼓判だが、これでも信用できないか?」


 話を戻してアレスに問いかける。

 しばらく沈黙が続いたが、顔を上げたアレスの表情を見た我は深く頷いた。


「わ、分かりました! 頑張ります!」


 ――その後は五人で食卓を囲み最後の晩餐を楽しんだ。

 たった二日という短い時間ではあったが、隠居した身としては久しぶりに楽しい時間であったと思う。

 アレスも、ニーナも、ギャレスも、人間ではあるが気持ちの良い奴らでもあったからな。


 ※※※※


 そして翌日、三人はサラの転移魔法でギャレスが指定した魔境と人間界の境へ行ってしまった。


「行ってしまいましたね」

「ふん、騒々しい奴らじゃったわい」

「寂しいのではありませんか?」

「我がか? そんなことあるわけないじゃろう」


 振り返り家の中に戻ると、そこにはガランとしたテーブルが鎮座しておる。

 昨日までの騒々しさが、まるで嘘のようじゃわい。


「……まあ、寂しくはないが、つまらなくはなってしまったかのう」

「うふふ、それではまたゆったりとした隠居生活でも始めましょうか」

「……それもそうじゃのう」


 我に求められているのは隠居生活。

 現魔王がどのようにして魔族をまとめ上げるのか、それを遠くから見守るのが今の我の役目なのかもしれん。

 これからはこのような辺境の地になど誰も来ないじゃろう。それこそ人間なんぞ絶対に。

 これからまた数百年、再びゆったりとした隠居生活も悪くはないかのう。

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