第17話:一呼吸おきましょう
我らは丘の上に転移して昼食を取ることにした。
転移が出来るので一度家に戻っても良かったのだが外でご飯を食べたいのだとサラが言うので弁当になったのだ。
外で食べて何が面白いのか、我には正直よく分からんぞ。
「これ、とても美味しいです」
「当然だよ。サラ様が作ってくれたんですから」
「うふふ、褒め過ぎですよ、ニーナさん」
……まあ、楽しそうだから良しとするかのう。
「ところで、転移した先は何処だったんだ?」
都合五人の人間を転移させ、後に二人の勇者も転移させたが何処に転移させたのかは聞いていなかった。
「グレン様、マーズの谷に転移させました」
「なるほど。あそこならば広いし魔族も下位ばかりだ、問題ないだろう」
魔境の入口に近いマーズの谷。
中腹まで来れるパーティなら何も問題はないじゃろう。
「あの、ハルトさん達のパーティは?」
「彼らは人間界に転移をしました。魔境の近くではありますが、近くに村もあるので問題ないですよ」
全員が気を失っていたハルト達も問題はない。後は――。
「その、ライネル達は……」
唯一転移ではなく自らの足で戻っていったライネル達。勇者が気を失っていることもありアレスは心配しているようじゃな。
まあ、あのパーティこそ心配いらんが。
「ハルトも言っていただろう。あそこはライネルじゃなくて仲間の方が実力者だ。戻るだけなら問題ないさ」
「そ、そうですか」
「なんだ、浮かない顔だな」
やや俯き加減であったアレスだが、重々しくゆっくりと口を開いた。
「……僕は、そんなライネルにボコボコにされたんですよね。師匠に鍛えてもらって、ライネルやハルトさん、リューネさんとユウナさんにも勝てましたけど、一人になった時にまた同じことが出来るのか不安なんです」
「アレスは一人じゃないよ」
そう口にしたのはニーナである。
「アレスには私がいるじゃない。私だってサラ様と離れる時が来るのを考えると胸が張り裂けそうだよ。このまま一生をサラ様に捧げてもいいと考えているんだもの」
……いや、それはさすがに言い過ぎじゃないか? サラも微笑んでないで止めないか!
「だけど、私もアレスも確かにサラ様やグレン様に鍛えてもらった。その事実が変わることはあり得ない。断じてあり得ないわ!」
「……そ、そうだね」
「だから不安になんてならないで。もしアレスが不安に思ったら、私が修行のことを思い出させてあげるから!」
「……あ、ありがとう」
……毒されている、ニーナはサラに毒さ――。
「グレン様?」
「――! な、なんだ?」
「何を考えていらっしゃるんですか?」
「な、何も考えてはおらんぞ?」
「そうですか――話し方が戻ってます」
……み、耳元で言わんでも分かっているわい!
何故我の考えが分かるのじゃ、何が魔術具でも付けられたか? いや、それならば気づくはずじゃ!
「師匠、どうしました?」
「ん、いや、何でもない」
はぁ。アレス達が帰ったら元の姿に戻るかのう。これ以上は身が持たんわい。
「さて、次はどうするかな」
残す勇者は二人。
サラが言うにはこの二人が六人の中で一、二の実力者らしい。
更に一番手と二番手を比べると実力差があるらしいので、とりあえず二番手の所に行って実力を確認するのが良いかのう。
「サラ、二番手の勇者は何処にいる?」
「ここからですと西になります。一番手は南南西方向にいます」
「ふむ、距離がやや近いか」
戦闘が長引けば一番手が気づいて合流してしまう危険性もある。
我ならば問題ないが、アレスでは実力者二人の相手を同時に行うのは不可能じゃろう。
もし一番手が早めに現れた場合、我の戦い方を見せるか、転移して思う存分暴れてやろう。
……我もたまには楽しみたいのじゃ。今のところデコピンしかしておらんのだぞ。
「まあ、何とかなるだろう!」
「グレン様、自分も暴れたいとか思っていませんか?」
「……」
「……図星、ですね?」
「……い、いいじゃないか!」
「グレン様が手を貸すのは最終手段です。私だって、転移はしてますが基本的にニーナが相手をしているのですよ」
むむ、それは意外であった。
てっきりサラも一緒に嬉々として暴れているものと思っていたぞ。
「本当なのか?」
「本当ですよ」
「本当に本当か?」
「本当に本当です」
「……」
「……」
「ニーナ、サラの戦いは美しかったか?」
「それはもう綺羅星の如き魔法の数々、相手に隙を与えない素早さ、そしてひと睨みで相手を動けなくする眼力! はぁ、思い出しただけでも火照ってしまいますぅ」
……インチキじゃ!
「俺にも楽しませろ!」
「あれは多勢に無勢でしたから仕方ありません」
「何故に嘘をついた!」
「グレン様が拗ねると思ったからです」
「酷い! 一番手の勇者は絶対に俺が相手をするからな!」
「……あの、僕の立場は?」
デコピンだけではつまらん!
アレスには悪いが、一番手は我がもらうと決めたのだ!
「そうと決まればさっさと西に向かうぞ!」
「まあ、ご飯も食べ終えましたしいいでしょう」
「またサラ様の転移魔法で移動するのですね、楽しみです」
「えっと、ニーナ? なんか、性格変わってない?」
アレスの心配をよそに、我らは転移で二番手の勇者の近くまで移動した。
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