第41話:剣の作成
翌朝、我はカノンが作ってくれた朝食を済ませると、シルバーの為に別の森へと転移した。
家の近くの森だと、昨日のうちにあらかた狩り尽くしてしまったので食事に時間がかかると判断したからだ。
とはいっても、隣接している森から次に近い森なのでそこまで離れているわけではない。
だからなのか、こちらの森にも相当数の獣が存在していた。
「シルバーが狩ってくれるから問題はないんだが……さて、これはどういうことだ?」
過去にも人間界の森歩きをしたことはあるが、これほどの数がいたことはない。それは昨日の森然りである。
考えられる可能性は、やはり何かしらの脅威が隠れているということなのだが。
「……この森にも、そういった気配は見当たらないな」
広い範囲で気配を探るものの、これといった異常を見つけることはできない。
シルバーも普通に狩りを楽しんでおり、何かしら脅威があるようには見えなかった。
「やはり、気のせいか?」
そう考えるのが普通なのだが、どうにも我の勘がおかしいと言ってくる。
嫌な予感を胸に秘めながら、我と狩りを終えたシルバーはカノンの家に戻っていった。
※※※※
カノンは我らがいつ戻ってきてもいいようにとお湯を沸かしており、すぐにお茶を入れてくれ、シルバーには冷えた水を入れた桶が差し出された。
火照った体には良かったのか、桶の中に顔を突っ込みながら飲んでいる姿には笑ってしまったぞ。
「この後から、剣の作成に入ろうと思います。お昼ご飯と晩ご飯は用意しているのですが、明日以降はグレンが作ってくれますか?」
「問題ない。シルバーには数日だけ肉を我慢してもらうことになるが」
「ギャギャッ!」
そんな! といった感じの表情で我を見上げてくるシルバー。
「カノンが剣を作っている間は結界を出ることができないんだ。すまないな」
「ギュルルゥゥ」
仕方ない、と残念そうに呟いておる。
「ごめんなさいね。そして、ありがとう」
「……ギュラッ!」
いいよ! とは、本当に幼い言葉遣いだことよ。
「結界の受け渡しの準備は――」
「すでにできていますよ」
「さすがだな」
ニヤリと笑い我が立ち上がると、シルバーも立ち上がり我について歩き出す。
家の外に出て裏手へと回れば、そこには石造りの祠が存在している。
カノンが小さな魔力を祠へ注ぐと、正面の壁が音を立てて横にずれて入口があらわになった。
中には我が作った魔術具の核が台座に置かれており、この核を介して結界の受け渡しが行われるのじゃ。
「それでは、一度魔力を止めますね」
「分かった」
魔力の供給が一〇秒以上なくなると結界は消えてしまう。
邪魔者なんていないので、カノンが供給を止めた直後に我が魔力を込めた。
――ゥゥゥゥウウッ!
起動音が祠の中に響くと、問題なく結界の受け渡しが完了した。
結界も……うむ、問題なく発動しておるな。
祠を出て再び家に入ろうとした――その時じゃ。
「んっ?」
先程まで感じなかった違和感が我の肌を撫でていった。
まさか、昨日のあれは気のせいではなかった?
そして、我が気になったのは違和感もそうだが、それよりも重要なことがある。
「まさか、結界内で?」
ここは我が作った結界魔術具の中である。その中で感じた違和感ということは、結界の外からでも気配を感じることができる実力者が近づいているか――何者かが結界内に侵入しているかだ。
「グレン、どうしましたか?」
「グルラ?」
カノンとシルバーは気づいていない。どうやら、我を狙い撃ちしているようじゃな。
「……くくく、面白い。シルバーはここで、俺が戻ってくるまでカノンを守っていろ」
「グルアッ!」
「駄目だ。ここでこの家を守るんだ。俺以外の何かが近づけば、迷わず殺して構わんからな」
「グルルルルッ」
嫌々ながらも従ってくれるようじゃ。幼獣とはいえ、シルバーが残ってくれるのはありがたい。
「何者かに侵入されたのですか?」
「おそらくな。受け渡しの時、結界がわずかに弱まるタイミングを見計らって無理やり侵入してきたんだろう」
「まさか、この結界はそれでもおいそれと侵入できる結界ではありませんよ?」
困惑顔のカノンだが、今の我はどのような表情をしているだろうか。
……いや、考えるまでもなかったのう。
「それだけの実力を持った奴ということだな!」
カノンとは対照的な――獰猛な笑みを浮かべているのだろうな!
「カノンは安心して剣の作成に入ってくれ。シルバーもいるからな」
「グララッ!」
「……分かりました。私にできる最高の剣を作って差し上げましょう。ですから、グレンも必ず無事に戻ってきてくださいね」
カノンの言葉を受けて振り返る。
先程までの獰猛な笑みはしまい込み、不敵な笑みを浮かべた。
「俺が負けるとでも思ってるのか?」
それに対するカノンの答え。
「……うふふ、全く思いません」
優しい笑みを浮かべてはっきりと口にした。
「帰ってきたら、作り置きの美味い飯でも食べさせてもらうさ。では、行ってくる」
「行ってらっしゃいませ」
「グラランッ!」
肌を撫でる感覚はいまだに我を捉えている。これは明らかに誘っており、我への挑戦状とみた。
面白い、受けて立つとしようじゃないか!
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