第22話:勇者ギャレスと聖剣デュランダル③
攻略手段はある、その通り我が仕掛けた布石を解放するかのう。
「絶対聖域、誠に嫌な能力じゃわい」
「僕は気に入ってるんだけどな」
「人間からみればそうじゃろうな」
「そっか、君は魔族だったね」
「……おかしな奴じゃのう。それに、楽しかった」
「なんだい、終わるみたいな言い方だね」
「その通りじゃ、終わるんじゃよ」
「何をバカなことを――ん?」
ようやく気づいたようじゃが、もう遅いのう。
「まさか、何故聖域内に魔虫がいるんだ!」
魔の力の侵入を防ぐはずの絶対聖域。
その内側に我は魔虫を放った、それも無数にじゃ。
これはバジリスクの能力であり、公になっていない能力でもある。
「くそっ、何処から湧いて出てくるんだ!」
「こうなっては場所を特定したとてどうしようもないぞ」
「それなら、僕が倒れる前に君を倒すだけだ!」
デュランダルの刀身に聖なる光を纏わせて駆け出すギャレス。その周囲には複数の光刃が顕現し同時に我へと襲い掛かる。
先に迫ってきた光刃は魔虫によって相殺、聖域を伴ったギャレスと共に迫ってきた光刃にはバジリスクを振るい斬り裂いていく。
間断を縫いデュランダルの剣先が我の首に迫るがバジリスクを斬り上げて打ち上げる。
ここで初めてギャレスが魔法を発動、左手を突き出して雷撃を放つ。
至近距離から雷撃の直撃を受けたが、伊達に魔王の座を五〇〇年間守り続けた我じゃ、魔法全般に耐性を持っておるんじゃよ。
「これも、効かないか!」
「そこいらの魔族であれば麻痺にでもなったかもしれんのう」
「あぁ、もう、面倒臭いなぁ!」
肩で呼吸をしながらも全属性の魔法を放つギャレスであるが、その全てを受けてなお我は無傷であった。
「魔法で我に勝とうなどと思わん方が良いと言ったはずじゃ。魔法はいわば魔族から産まれたものじゃからな」
「その通り、みたいだね」
「……魔虫に相当のダメージを与えられたようじゃのう」
聖域内の魔虫はギャレスの体中に纏わりつき皮膚を貫き、肉を抉り、骨に達しようとしている。数分も経てば我が何もしなくとも倒れるじゃろう。
「……くそ、君の謎を確認する前には、死ねないなぁ」
「我の謎じゃと?」
不思議なことを言う奴じゃ。我の本当の姿が見えていると思ったが、そうではなかったのか?
そんなことを考えていると、ギャレスのあり得ない行動に思考を中断させられてしまった。
「――貴様、何を!」
「魔虫を、排除するため、だっ!」
あろうことかデュランダルの剣先を自らの腹に向けると――一気に突き刺してしまった。
「があっ!」
「言わんこっちゃない!」
「ぐうぅぅっ……せ、聖域、解除」
聖域、解除?解放ではなくてか?
ギャレスの言葉通り常に聖域を作り出しているデュランダルが聖域を解除――消失させてしまった。
これでは外からも魔虫を送り込めるのじゃがなぁ。
「――聖域、構築!」
「むっ、むむむっ? おおぉっ!」
なんと、そう言うことか!
聖域内にいた魔虫を排除するために一度聖域を解除、デュランダルを中心にして聖域を再度構築。
腹部を貫いたのは魔虫の原因が自身にある可能性も考慮しての行動じゃったか!
自身の内部から聖域を構築することで魔の力を排除する聖域の壁が体内をも通っていく。体内の発生源を聖域の壁で破壊することが目的じゃな。
そして、その考えは大正解じゃ。
――パチンッ!
我が聖域内――ギャレスの左肩に付けた小さな傷。この傷を媒介にしてバジリスクの異空間へと繋げていたのじゃ。
聖域の壁は超えられなくても、聖域内に直接魔虫を送り込むことができればと考えたわけじゃな。
実際、ギャレスが聖域の解除と構築の奇策を思いつかなければ魔虫に食われて終わっていたじゃろう。
「……全く、こんな傷を、いつ付けたんだか」
「聖域解放直前の大爆発。あの爆発に紛れて極小の黒刃を飛ばし付けさせてもらったんじゃよ」
「あー、あの時か。抜け目ない奴だね、君は」
「お主に言われとうないわい」
さてさて、生き残ったもののギャレスはすでに虫の息。これ以上楽しむことは出来ないじゃろうなぁ。
「おっ! そう言えばギャレスや、我の謎がどうとか言っておったが、あれはなんのことじゃ?」
「あれかい? ……まあ、冥土の土産の教えてもらえるならありがたいかな。僕が最初に斬ろうとした魔族、あれは人間だよね? それも、勇者じゃないかな?」
「うむ、その通りじゃ」
……いや、何故そんなに驚いた顔をしているんじゃ? お主が聞いてきたんじゃろう?
「どうしたんじゃ?」
「あ、いや、そんな簡単に教えてもらえるとは思っていなかったんだよ」
「別に隠しているわけでもないからのう。ところで、お主には我の本当の姿も見えているのか?」
本来であれば我が制作した変化魔術具も見破られるはずはなかったんじゃ。それにも関わらずギャレスは見破りおった。何かしら秘密があるはずなんじゃがなぁ。
「……君にだけ話させるのも悪いかな。僕の目は普通の人とは違うんだよ」
「目が違うとな?」
「周りの人は僕の目のことを
「神眼、とな?」
「何でも、嘘を見抜くらしい。言葉の嘘はもちろん、魔法や魔術具の変化とかも見破れるんだよ」
なるほど、それでアレスが魔族でないと分かったのか。
「なぁ、君。そろそろ、僕を殺してくれないか? 正直言って、痛みでどうにかなりそうなんだよね」
「何を言っておる、聖剣で付けた傷は致命傷にはならんじゃろう」
「そうだけど、痛みは残るんだよ。だから聖剣で斬られた人間は気絶するのさ。それに、僕の場合は君や魔虫に付けられた傷もあるんだ、痛さは倍増だよ」
ふむ、それもそうであるな。
我の目的は戦いを楽しむことであって、勇者を殺すことにあらず。ならば――。
「……ヒール」
「へっ? うわっ!」
おもむろに回復魔法を唱えるとギャレスが素っ頓狂な声を上げる。
それに構わず発動するとギャレスの傷は瞬く間に回復した。
ついでに、というわけではないが我にもヒールを発動させて失った左腕を回復させる。
我ながら魔法も完璧じゃわい。
「……君、本当に魔族かい?」
「見えているんじゃろう?」
「君と後ろにいた魔族の一人だけは靄が掛かっていてハッキリとは見えなかったんだ。こんなこと初めてだよ」
おそらくサラじゃろうな。
相手の実力に合わせて神眼の精度も変わるのであろう。ならば、変に勘ぐられるよりも本当のことを教えていた方がいいかもしれん。
「我は元魔王である。そして後ろにいたのが我の執事じゃ」
「…………はい?」
うんうん、まあ、そうなるじゃろうな。
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