第30話:けんか腰と食事と話術と

 家の前に転移して中に入ると、何故だか三人が仲良く料理を作っていた。


「おかえりなさいませ、グレン様。それに――」

「ただいま、サラ。紹介しておこう、こっちはバランといって、俺の友人で剣士をやっている」

「バランです、よろしくお願いします」


 ニコリ、とバランが微笑むと、勇者二人の頬が朱に染まってしまった。

 やはりバランの顔立ちは人間の女に受けるのだろうか。


「……バランね。お久しぶりです」

「お久しぶりです、サラさん」

「サラ、さん?」

「今はそういう呼び方にしてるんですよ。そうですよね、グレンさん?」

「…………グレン、さん、だと?」


 おおおおぉぉいっ! 何故出会い頭に殺気を暴走させているのだ!

 バランもよく分からんが今のは絶対に茶化しておったよな! 我の苦労を分かってくれい!


「ま、まあまあ、二人とも。あー、それでだな、シェイラの師匠にはバランがなってくれることになった」

「えっ! あ、あたいの師匠、ですか?」

「僕では役不足かもしれないけど、よろしくね」

「…………は、はぃぃぃぃ」


 顔を真っ赤にして俯くシェイラ。

 ……お主、絶対に楽しんでおるだろう。自分の顔立ちを分かりきっての笑みであるよな?


「アヤには予定通りサラが付いてくれるからな。説明は聞いているか?」

「あっ、はいっす」

「それなら問題ないな。ところで、三人で何をしているんだ?」

「あぁ、これですね。グレン様が戻られる頃には昼食になるかと思いまして、料理の準備をしていたんです。いい時間ですし、いかがですか?」


 サラの言葉に我が頷いて食事となった。

 久しぶりにサラ以外との食事じゃのう。我も歳をとったのか、人数が多いと少し心が躍るわい、

 それぞれの席の前に皿が並べられていくのだ、が……サラよ、それは嫌がらせか何かかのう。


「えっと、サラさん? 僕のお皿は?」

「あら、気づきませんでしたわ。ご自分で取りに行ってくださる?」

「あっ! ご、ごめんなさい、師匠! あたいが取ってきます!」

「ちょっと、シェイラさん!」

「嫌がらせ失敗ですねー」

「……ちっ!」

「……わ、私は何も見てないっす」


 ……この中でいちばんの被害者はアヤじゃろうな。


 こうして始まった食事じゃが、変わった味付けだったものの意外にもペロリと平らげることができた。

 魔王城の料理とも、アレス達と食べた料理とも違う味付けに、別に地域の料理だろうと結論づけた。


「あたい達は南方出身の勇者なんです」

「シェイラとは幼馴染で、それでパーティを組んでいるっす」

「勇者同士でパーティを組むのは珍しいと聞いたが?」

「確かにそうっすね。だけど、仲が良ければ組む人もいるみたいっすよ」

「あー、そういえばいたなぁ。だが、そいつらは他にも仲間がいたぞ?」


 確か……リューネとユウナとだったかのう。彼奴らはパーティを組んでいたが、他にも五人の仲間がおった。全員がニーナとサラに倒されたみたいじゃがな。


「その、南方には暖かい気候のせいかのんびりした人が多くいまして」

「勇者になったのも私達が初めてなんす。だから、他に仲間を見つけられなかったっす」

「他の都市ではどうだったんだ?」

「あたい達みたいな田舎者とパーティを組んでくれる人がいませんでした」

「だから、何としても強くなって生き残りたいんす」


 その割にシェイラは剣にこだわるんだよなあ。体術を習えば確実に強くなれるんだが。


「シェイラはなんでそこまで剣にこだわるんだ?」

「剣が好きだからです!」


 お、おぉ、そうか。まさか食事の手を即座に止めて声に出すとは思わなかったぞ。


「金属の輝きもそうですが、刀身から鍔、そして柄にかけての全体美! 剣の美しさは他の武器にはないものがありますからね!」

「……はぁ」

「ご、ごめんなさいっす! シェイラは本当に剣バカなんす!」

「バ、バカとは何よ! バカとは!」


 アヤもここまで大変だったろうに。

 サラにはアヤのことをしっかりと指導してもらわなければならんな。

 我も何かしら手助けしてやりたいが……無理じゃろうなぁ。そう考えただけでもサラの殺気がひしひしと伝わってくるからのう。


「バラン様は剣を使われるのですよね!」


 師匠となるバランに話を振ったシェイラ――だが、その答えはシェイラの期待に応えるものではなかった。


「剣も槍も斧も、武器なら何でも使うかな。それこそ体術も使うし、接近戦ならそれこそ本当に何でもやるよ」

「……け、剣以外に使える武器なんてないですよ!」


 バ、バランにまで絡むのかい。


「そうかなあ。全ての武器にいいところはあるし、それこそ武器と体術を組み合わせたら最強の型になると思うんだけどね」


 目を合わせてニコリとバランが笑う。


「…………そ、そそそ、そうかもしれませんが、私はけけけ剣術をですねええええぇぇっ!」

「僕の指導の中には剣術を活かす体術がある。それを学んでみないかい?」


 顔を真っ赤にしていたシェイラだが、バランの言葉を受けて変な動きをピタリと止めてしまった。


「……剣術を活かす、体術ですか?」


 言葉の選び方だろうか、シェイラが目の色を変えてバランを見つめておる。

 やる気になってくれるのはいいことじゃな。ここから体術を教えるまでいけるかどうか、バランの腕の見せどころじゃのう。

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