第9話:勇者を鍛える、長所を伸ばそう
次は座学である。
疲れているアレスを休ませる目的もあるが、一番は何故アレスが勇者に選ばれたのかを確認する為じゃ。
「アレスはどうやって勇者に選ばれたんだ? 何が試験でも受けたのか?」
「いえ、試験とかは何も。ただ、冒険者になる為に冒険者ギルドで手続きをしていたらいきなりギルドマスターに別室に連れて行かれまして」
ふむ、そのギルマスが怪しいのう。
「冒険者になる為には何か特別なことをするのか?」
「特別なことではありませんけど、ステータスを確認する為に
絶対にそれじゃないか! ステータスって普通は隠すものじゃぞ! 自分の全てをさらけ出しているようなものじゃないか!
……冒険者ギルドというのは人の全てを曝け出す場所なのか、怖いのう。
「僕はよく分からなかったんですけど、特別な能力があるって言ってました」
「……自分のことは自分でしっかりと勉強しましょうね?」
「えっ、あ、はぁ」
絶対に分かってないよねこの子!
「……それで、その能力とは何だ?」
「確か
「……はあっ!?」
なるほど、うん、ようやく納得じゃ。アレスが勇者に選ばれた一番の要因はその
長年魔王をしてきたが、破気を有していた勇者は二人しかおらなんだ。
その内の一人がグレンであったのう。
「……あの、何かまずかったですか?」
そして何故にアレスに破気が発現したのか……神なんぞは信じておらんが、人間の神は酷な使命を与えるものじゃのう。
「何でもない。しかし破気を持っているなら、その力を使いこなす必要がある」
「この力って、それ程凄い力なんですか?」
本当に何も知らないんじゃのう。
「破気っていうのは破壊する気縮めて破気と読むんだ。体内の気を武器にして相手にぶつけることでダメージを与えることが出来る。しかし扱い方を知らなければ破気が暴走してしまい味方を傷つけることもある」
「そ、そんなものが僕の中に?」
「その通りだ。だからこそしっかりと勉強するように」
「はい!」
そこからは座学の開始である。
破気とはどういうものなのか、何が出来るのか、そしてどのように制御するのか。
気とは体内を循環する生命エネルギーとも言われている。元気であれば気の巡りも良くなり十全に威力を発揮できるが、不調であれば気の巡りが悪くなりその力を扱うのも難しくなる。
「それじゃあ、健康的な生活を送っていれば破気の力をより発揮できるってことですね!」
「簡単に言えばそうだな。後は扱い方だが……ちょっと待っていろ」
立ち上がった我はアレスを中心に一〇メートル程の間隔で四隅に魔術具を設置する。
この魔術具は四つ一組の魔術具――結界魔術具じゃ。
設置した魔術具が線で結ばれると、囲われた中と外を遮断して行き来が出来なくなる。
これは物理的なものもそうじゃが、魔法や気も通さない。
「あそこに石があるだろ?」
「……えっ、あっ、はい」
「どうした?」
「いえ……魔術具が一杯だなって思いまして」
……こ、これくらい普通じゃ! グレンは沢山持っていたから、そのはずじゃ!
「……き、気にするな! 全部お手製だからな!」
「いや、それが凄いんですけど」
「とりあえず今は破気だ!」
「は、はいっ!」
勢いで誤魔化したが、今は仕方なかろう!
と、とりあえずアレスには石を見てもらう。
「あの石を破壊したい、と想うんじゃ」
「はぁ。……石を、壊す、壊す、壊す、壊す――うわあっ!」
アレスの叫び声と同じくして石が弾け飛び、結界が大きく揺らぐ。
破気の威力は、オーガであれば今の石を破壊するくらいの感覚でも頭一つ吹き飛ばせる威力を出すことが出来るので扱いが極めて難しいと言われている。
グレンとは別の破気使いは自らの破気の力に溺れて何も出来ずに我に倒されておった。
今思えば、グレンは本当に優秀な勇者であったと思う。
「破気の威力は破格だ。今ので制御出来なければ仲間を傷つけると言った理由も分かっただろう」
「……は、はい」
「まずはどのように破気を飛ばすのか、そこから考えていこう」
目に見えないものを飛ばす、放出する、とイメージするのは意外と難しい。魔法であれば火が顕現してそれを飛ばすというイメージが視認しながら出来るのだが、破気はそうではない。
だから、射線をイメージしやすいように自分で自分を導く必要があるのじゃ。
「石を破壊したいと思っていたのに、何故結界全体が揺れたと思う?」
「えっと……威力が強すぎたから、ですか?」
「それもあるが、破気が石だけでなくあらゆる方向に飛んでいたからだ」
「でも、そんなこと考えていませんでしたよ?」
「そこが破気を制御する中で難しいところだ。破気はイメージした通りの威力が備わっていればその現象がほぼ確実に発生する。しかし、イメージよりも余分に威力が備わっていた場合は暴走して周りにまで影響が出てしまう」
先程結界が大きく揺らいだのは、暴走した破気が衝突していたからだ。
「ここからは自分の感覚で覚えていくしかない。破気で近場の石や枝だけを破壊するように何度も繰り返し行うんだ」
「はい!」
破気の力加減はそれぞれで異なる為、あーしろこーしろと教えられるのは知識の部分のみ。技術面は自らで感じるしかないのじゃ。
……我も苦労したもんじゃよ。
そうして数時間の破気訓練が行われた結果――アレスは仲間を傷つけない程度の制御能力を手にするまでに至った。
我から見ればまだまだじゃが、初めてにしては上出来じゃろう。
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