第5話:隠居魔王、勇者を弟子にする

 何故そのような理解になったのじゃ。


「あー、サラ? 何で他の勇者を倒す必要があるんだ?」

「そ、そそそそ、そうですよ! 他の勇者様は敵じゃないんですから!」

「勇者様はみんな味方ですよ!」


 まあ、我らからすると敵なんじゃがなぁ。


「だって、魔王を倒そうと考える勇者が沢山いる中で、先を越されてしまってはお二人を鍛える意味がなくなってしまいます」

「先を越されてもいいんですよ! 魔王が倒されればそれでいいんです!」

「……では、他の勇者が魔王を倒した先、アレスさんはどうするのですか?」

「えっ? どうするって……普通に暮らしますけど」


 うん、そりゃそうじゃろうなぁ。新しい魔王が現れるまではそんなもんじゃろう。


「普通に暮らせるでしょうか」

「ど、どういうことですか?」


 ……なんじゃろう、サラが怖いんじゃが。


「魔王を討伐した勇者は、それは豪華絢爛な生活が待っているでしょう。ですが、それ以外の勇者はどうでしょう。役立たず、腰抜け、邪魔者扱いされるかもしれません!」

「……お、おい、サラ? どうした〜?」

「私達はそんなお二人を救済しようというのです! 魔王を他の勇者パーティが倒してもいいだなんて、言わないでください!」

「「は、はいっ!」」

「ちょっとごめんよ! サラ、ちょっと来い!」

「はい。何でしょうか、グレン様」


 急いで壁際に移動する我とサラ。

 冷や汗をかきながらも何故あんなことを言ったのかを急いで確認する。


「……ただ強くするだけでは面白くありませんから」


 そっちかーい!


「……せ、せめて現魔王の負担を減らそうとか、他の魔族を助けるため、とかの大義名分はないのか?」

「……ありません。私が仕えるのはサタ……グレン様ただお一人ですから」


 そ、そんな満面の笑みで言われると、反論のしようがないではないか。

 しかしこのままでは二人のやる気が下がってしまうでは――。


「わ、分かりました!」

「……へっ?」

「ぼ、僕が、僕達が魔王を倒してみせます!」

「う、うむ。その意気や良し」

「そして、魔王に近づく勇者も倒してみせます!」

「わ、私もです!」


 ……あー、アレスとニーナが壊れてしもうたー。

 何なのじゃ、そのキラキラした瞳は! そんな瞳でサラを見るんじゃない! 益々やる気になってしまうではないか!


「うふふ、嬉しい返事ですね、グレン様」

「……」

「グレン様?」

「へっ? あ、あぁ、そうだな、うん。その通りだなー」


 あぁ、もうどうにでもなるじゃろう。

 我が育てた勇者が勇者を倒して、更には現魔王も倒すのかい。

 ……もの凄く混沌とした世の中になりそうじゃ。

 そんなことを考えていた時である。


 ――ぐううぅぅぅぅ。


 ……そうか、そうじゃな。


「……とりあえず、飯でも食べるか」

「……いいんですか?」

「お前達はもう俺達の弟子だからな。当然だろう」

「あ、ありがとうございます!」


 いや、そこまで感謝されることでもないがのう。

 料理といえば魔王城で食べた料理も、こっそり人間界で食べた料理も、味はそれほど変わらなかったはずじゃ。

 後は見た目、見た目をクリア出来れば何とかなる!


「サラ、頼む」

「かしこまりました」


 何故じゃろう。サラに関しては普段の話し方でも違和感がないんじゃが。

 ……まあ、そこは気にせんでもええか。

 料理の見た目は二人が気絶している時に徹底的に話し合ったのじゃ、抜かりはないはず!

 サラが奥に引っ込んでから数分後、事前に作り置きしておいた料理の数々をテーブルに並べていく。

 うむ、見た目もこれなら問題なかろう。過度に美しいわけでもないが、ゲテモノとは程遠い。まさしく普通! 普通の見た目のはずじゃ!


「うわあ! とても美味しそうだね、アレス!」

「本当だね! ニーナ、沢山食べて強くなろう!」


 見た目問題なし!

 そして元気にそう告げる二人を見て、何故だか自然と頰が緩んでしまう。

 ……いかんいかん、この歳になると若者が頑張る姿を見て何故か微笑んでしまうわい。


「うわあ! うわぁ。うわぁ……」

「……あの、えっ、えっ?」

「……サ、サラ! 出し過ぎだ!」

「グレン様、これが普通の量じゃないんですか?」

「ちょっと来ーい!」


 サラの腕を取り再び壁際へ。


「……人間はこんなに食べないんじゃ!」

「……ですが、私が見た屋敷では大量の料理が――」

「……あれは酒場じゃろー!」


 小声で怒鳴るという器用な真似が出来るようになってしまったじゃないか!

 とりあえず今すぐに食べる量まで少なくして、後は奥の部屋に片付けてもらう。

 ……何じゃその目は、別に奥の部屋は怪しくないぞ。ただの台所じゃからな。


「それじゃあ食べるか」

「あ、えっと、はい」

「い、いただき、ます」


 動揺してしまうのも分かるわい。

 しかしサラが失敗するとは、珍しいこともあるもんじゃ。……な、何故に笑っておるのじゃ?


「……まさか、わざとか!」

「さあ、どうでしょうか?」


 人間に変化してから、少し性格が変わっておらんかのう。


 まあ、何はともあれアレスとニーナが我の弟子になることになったのじゃ。

 現魔王の当て馬にするのはもちろんじゃが、まさか勇者討伐まで行うことになるとは……はぁ、難儀じゃのう。

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