第10話:勇者を鍛える、ハルジオンを使いこなそう

 破気はきを鍛えるのと同時にやらなければいけないことがある。それは聖剣ハルジオンを使いこなすことじゃ。

 今のままでも十分な威力を発揮するハルジオンじゃが、使いこなすことができれば今の数十倍の威力を発揮できるはずである。


「今までハルジオンをどのように使ってきた?」

「普通の剣として使ってました」

「……そうか、聖剣とは知らなかったんだよな」


 そもそもの扱い方が間違っていたのう。


「それじゃあ、聖剣の扱い方は知っているか?」

「……すいません、分かりません」

「……素直でよろしい。ではまず、聖剣とは何なのかを教えていこう」


 ここでも座学からになるとは予想外である。しかし聖剣について知らなければ、意識付けが出来ないから仕方ないのう。

 まさか魔族である我が聖剣について説くことになろうとは。いやはや、生きていれば色々なことが起こるものじゃ。


「聖剣は名前の通り聖なる力を宿した剣だ。魔族に対して絶大な威力を誇り、強力なものになれば上位魔族にも力を発揮するものがある」

「じ、上位魔族、ですか」

「アレスのハルジオンはその中でもトップクラスの聖剣であり、これなら上位以上の魔族を相手にしても引けを取らん」


 ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた。

 まあ、拾った聖剣がそんな大層な聖剣だとは思うまいな。


「しかし、それも聖剣を使いこなしてこそ発揮されるのであって、ただ使っているだけでは意味がない」

「……はい」

「一説によると、聖剣は生きていると言われている」

「聞いたことがあります。聖剣には意思があり、意思を交わすことで力を貸してくれると」

「その通り。ハルジオンが聖剣だと分かったんだ。何をやるべきかは分かるな?」


 腰に下げたハルジオンの柄を撫でるアレス。


「……すいません、分かりません」

「何でじゃ! それっぽい動きをしていたであろう!」

「す、すすすすいません! でも、聖剣の勉強も師匠に教えてもらったのが初めてなんですう!」


 ぐ、ぐぬぬ、人間どもはバカなのか! バカなんだよな!

 そうじゃないと破気を持つアレスに対しての扱いが酷すぎるぞ! 指導もなし、説明もなし、勉強もなし、ただ有望だからと勇者にするなど、あってはならん!

 これでは無駄死にを増やすだけじゃ!


「……ならば俺が教えてやる。俺は、アレスの師匠だからな」

「し、師匠!」


 現魔王の当て馬にと思っていたが、アレスに関してはしっかりと育ててやろう。その結果が現魔王を苦しめる結果になっても構わん!


「聖剣を握りながら心の中で語り掛けるんだ、力を貸して欲しいと。ハルジオンがアレスの願いを聞き入れればハルジオンが応えてくれる」

「ハルジオンに、語り掛ける」


 アレスはハルジオンを抜くと両手でしっかりと柄を握りしめる。目を瞑り心の中で語り掛けている姿を見て、我は自然と微笑んでしまう。

 ……大丈夫じゃ、アレスならばやれる。我にはその確信があった。

 そして――。


「……あっ」

「どうやら、上手くいったようだな」


 アレスが不思議そうにハルジオンの刀身を見つめる。

 淡い光を放ちハルジオンがアレスへと応える。

 まだたった一歩を踏み出しただけではあるが、この一歩はとても大きな一歩になるだろう。


「……え、あ、ちょっと、ハルジオン?」

「ん、どうした?」

「いえ、その――どわあっ!」


 突如ハルジオンから膨大な光が放たれたかと思えば、光の刃を形成してあろうことか我に襲い掛かってきた。


「おい! ハルジオンを止めろ!」

「ど、どどどどうやって止めるんですかあっ!」

「言い聞かせ――ちいっ!」


 無数の光刃が四方八方から襲い掛かる。

 仕方なくバジリスクを抜くと相対する存在を前にして更に光が膨張してしまう。


「逆効果か、ならば!」


 バジリスクの刀身を漆黒が包み込む。すると漆黒から無数の魔虫が溢れ出した。

 この魔虫はバジリスクの能力である異空間で飼っており、我の思う通りに動いてくれる。

 光刃を無数の魔虫が防ぎ、その度に魔虫が霧散して漆黒の中へと消えていく。


「アレス! 早くしろ!」

「は、はいいいいぃぃっ!」


 バジリスクの空間で飼っている魔虫も無限ではない。

 コツコツと我の魔力を込めて増やしてきた魔虫がドンドンと減ってしまうじゃないか!


「ハルジオン、止まって! 止まってよ!」

「心の中でしっかりと語り掛けろ!」


 震えだしたハルジオンをしっかりと握りながら祈るように目を瞑るアレス。

 ……まずい、このままでは変化魔法が解けてしまうかもしれんぞ!


「――……止まれ、止まれ、止まれ止まれ止まれ止まれ、止まれええええぇぇっ!」


 アレスの絶叫――直後にハルジオンの刀身が今まで見たことがないほどの輝きを放つ。

 これは、本当にまずいかっ!

 そう思ったのも束の間、光は一気に小さくなりハルジオンに吸収されてしまった。


「……と、止まったのか?」

「……じ、じじょおおおおぉぉっ! ごわがっだよおおおおぉぉっ!」


 怖かったのは我の方じゃ! いきなりハルジオンの光刃に襲われたのじゃぞ、いくら我でも危ういわい!

 ……まあ、幸か不幸かアレスがハルジオンを上手く扱えるようになったのは良かった。


「今の押さえ込んだ感覚を忘れるなよ」

「ばいっ!」


 もう大丈夫じゃから、そんなに泣くんじゃない。

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