第12話:食事と他の勇者達

 アレスを抱えて家に戻ると、すでにサラとニーナは戻ってきていた。

 一緒にご飯の準備をしているのか、台所からキャッキャと声がしている。

 ……サラよ、お主の本当の年齢は五〇〇歳よりも遥かに上じゃぞ? まさか忘れてはおらんよな?

 そんな疑問を思っていると、サラがひょっこりと顔を出した。


「お帰りなさいませ、グレン様」

「おう……食事を作っているのか?」

「はい。ニーナさんと一緒に作っております」


 ……右手に持つ包丁が怪しげに光っているように見えるのは我の気のせいじゃろうか?


「今日は精をつけるために肉料理です」

「それは助かるな。アレスには精をつけてもらわないといかん」

「はい。それと、グレン様」

「な、何だ?」

「私はまだまだ若いですよ? では失礼します」


 …………こ、怖いよおおおおぉぉっ!

 な、何があったんじゃ! 前までのサラはもっとこう我に忠誠を誓っていた執事ではなかったか!

 あれか、ドレイウルゴスからサラに変化しているからこうなったのか? いやいや、中身が変わるわけではあるまいに、あり得んじゃろう!

 ……と、とりあえず大人しくしておこう。アレスが眼を覚ますまで時間もあるだろうしのう。


 しかし、勇者が複数いるというのはおかしな時代になったものじゃ。変な話じゃが、我は勇者との戦闘を楽しんでいたからのう。

 魔族内では我を敬う者ばかりで魔王の座を狙おうとする者などいなかった。我に挑んでくる者など勇者くらいじゃったからな。

 グレンのように楽しめる者もいたが、本当に勇者なのかと疑問に思う者もいた。それでも全力を出せる戦闘は楽しかったのじゃ。

 今の勇者の中には今まで以上に勇者に相応しくない実力の者もいるじゃろう……アレスのように。

 潜在能力は申し分なし、しかし人間側がしっかりと育成を行わない。結果、魔族に殺されてしまう――魔王に行き着く前にじゃ。


 ……それはあまりにも勿体ない。

 現魔王は確かに実力は申し分ないが、他にも拮抗する力を持つ者がいる分魔族全体を掌握出来ているとは言い難い。

 アレスに倒されるか、それともアレスを倒して成長するのか。どちらに転ぶか……考えてみたら、少し楽しくなってきたのう。

 もしアレスが現魔王を倒した暁には我が本来の姿で魔王に返り咲くのも面白いかもしれん。

 勇者が迷い込んで来るなど、そうそうないからのう。我が育てた勇者と戦うのも悪くない。


「……グレン様?」

「うおっ! い、いきなりどうした! それに包丁怖い!」

「声を掛けても返事をなさらなかったので。何をそんなにニヤニヤしているのですか? 気持ち悪いですよ?」


 ……サラの我に対する扱いがどんどん酷くなっている気がするぞ。


「……少し楽しそうなことを思いついただけだ」

「ほほう、と言うと?」

「後で話す」


 台所からひょっこりと顔を出すニーナに軽く微笑みながらそう呟く。さすがにニーナの前で話せる内容ではないからの。


「お、お帰りなさいませ、グレン様!」

「ただいま。アレスは少し休んでいるが、もうすぐ起きるだろう」

「でしたら、先に料理を並べておきますね!」


 すぐに台所に引っ込んだニーナは、少しだけ笑顔が見られるようになった気がする。


「どんな訓練をしていたんだ?」

「うふふ、それは内緒です」


 ……その笑顔、何となく怖いんじゃが。

 まあ、追求は後にするとして台所からは様々な料理が運ばれてきてテーブルを彩っていく。

 作り置きしていたものもあるが、新しく作られた料理もちらほら。ニーナは料理が得意なようじゃ。

 そうこうしていると奥の部屋で寝ていたアレスが起きてきた。


「す、すいませんでしたああああぁぁっ!」

「……何がだ?」


 いきなり謝られても意味が分からんぞ。


「模擬戦中に気を失ってしまって、訓練を中断してしまいました!」

「あぁ。あれは切り上げるタイミングにしては完璧だったから気にするな。それよりも飯を食べるぞ」

「……は、はぁ」

「他の勇者についても聞いておきたいからな」


 無理やりアレスを椅子に座らせて少し早めの晩御飯じゃ。

 久しぶりに凝った料理を食べられるとあって、匂いだけで胃袋が喜んでおるわい。


 食事を始めてから少し経ち、我はアレス達に他の勇者パーティについて聞いてみた。


「魔境の中腹辺りまで来ているパーティはいるのか?」

「どうでしょう。実力のあるパーティならもしかしたら」

「ニーナはどう思う?」

「私も同感です。ですが、複数のパーティが個別で点在していると思います」

「ほう、それは何故だ?」


 まるで他のパーティの動向を知っているような口振りじゃ。


「噂程度でしか知りませんが、勇者同士はあまり仲が良くないとか」

「そうなのか?」

「ぼ、僕は他の勇者に相手にされていなかったので……」

「あー、そうか、すまん」


 アレスが項垂れてしまった。

 話の流れとはいえ、悪いことをしたかのう。


「それなら、明日は中腹辺りまでお出掛けしませんか?」

「えっ?」

「おぉ! それは名案だな!」

「いや、ちょっと、そんな簡単に魔境の中腹になんて、しかもお出掛けって!」

「アレス、サラ様がいらっしゃるのだから大丈夫だよ」


 おぉ、ニーナがサラを神を見るような目で見つめている。本当に、どんな訓練をしたんじゃろう。


「……ニ、ニーナが言うなら、大丈夫なのかな?」

「サラ様がいますから」

「一応、俺もいるからな?」

「うふふ、グレン様がいれば誰が来ようとも問題ありませんものね」


 今の勇者の中に我とやりあえる者はおらんじゃろう。

 だが、勇者を倒すのはアレスであって、我ではない。


「明日は忙しくなる。沢山食べて、ゆっくり休めよ」

「「はい!」」


 食事を終えた我らは少し雑談をした後、眠りについたのじゃった。

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