第47話:グレンの変化ともう一本
我はカノンへと向き直り頭を下げた。
「素晴らしい出来だ。カノン、礼を言うぞ」
「うふふ、どういたしました。それにしても、グレンは変わりましたね」
笑みを浮かべながらそのように口を開くカノン
「……そうか?」
「そうですとも。サタンの時には頭を下げるなんてこと、絶対にしなかったのではないですか?」
「まあ、確かにそうだな。あの時は俺が魔王であり、魔族の中でトップの存在だったからな」
「そんなあなたが、エルフの私に頭を下げているのですよ? これはとても大きな変化だと思います」
「……そうだな。俺は、変わったのかもしれないな」
おそらくはアレスとニーナとの出会いが一番の要因だろう。
あの時は現魔王への当て馬にと考えていたのだが、鍛えていくにしたがって愛着がわき、純粋に強くしたいと思うようになっていった。
弟子、という響きも魔王をやっている頃にはあり得ないことであった。あくまでも我は支配者であり、下の者は配下だったからな。
さらにはギャレスの存在だろう。
彼奴はまあ、人間として不思議な奴である。適応能力が高すぎるのかもしれない。我が元魔王だと聞いても臆することなく話し掛けてきただけでなく、今ではシェイラとアヤの二人をわざわざ我のところに転移させてきおった。
サラと二人で過ごしているだけでは、このような変化は訪れなかっただろう。
我もこうして二人の為にボーヴィルスを採掘し、カノンのところまで足を運んでいるわけじゃからな。
そのおかげでシルバーと出会えたので、全てがいい方向に回っていると言っていいのかもしれないのう。
「今のグレンの方が、私は素敵だと思いますよ」
「……まあ、勇者を鍛えているのは暇潰しだがな」
「うふふ、そういうことにしておきましょう。そうそう、グレン」
少し照れ臭くなった我は無理やり話を終わらせた。
そして、カノンから別の話題を振られたのでなんじゃろうと体ごと向き直る。
「実は、フォレシールとスカイウェン以外に、もう一本の剣を作ってみたのです」
「もう一本じゃと?」
「はい。これは、あなたにと思って作りました」
そう言うと机の影に隠していたのだろう、もう一本の剣が取り出された。
「……それもまた美しい……さらに力強さも感じるな」
我の体躯に合わせた大剣。
フォレシールの翠、スカイウェンの碧、どちらとも違う深紅の刀身が我にそう言わしめた。
刀身には焔を思わせる模様が刻まれ、鍔には薄い紅色が使われており刀身の深紅を際立たせている。柄は漆黒なのだが、こちらにも何やら細工がされているように感じる。
「こちらには三種類の素材が使われています」
「三種類だと?」
「一つ目はボーヴィルス。二つ目は精霊界の素材で深紅のサラマンドリア、三つ目も精霊界の素材で漆黒のシャドウベルです」
「せ、精霊界の素材が二つも使われているのか」
我は少し呆れてしまった。
「サラマンドリアには火の精霊が宿っています。魔力を注げば刀身に火が点り魔法剣として使用できます。また、シャドウベルには闇の精霊が宿っています。自身の気配を希薄にするだけでなく、幻惑効果も併せ持っています」
「それは、豪華な効果だな」
魔法属性を持った剣を作り出せる者自体がそもそも少ないのだが、それよりも属性効果を持った素材を見つけることができないと言われている。
属性効果を持った素材を、それも二つも使って作られたこの大剣はもしかしたら聖剣や魔剣に並ぶ剣――魔法剣になったのかもしれんな。
「これを、俺に?」
「勇者相手に魔剣を振るうのは危険だと思いましてね。せっかくならばと作らせていただきました。もしご迷惑でなければ受け取ってくれませんか?」
迷惑だと? そんなはずないだろう。
「ありがたく頂戴する」
「うふふ、よかったわ」
我は大剣を握り重さを確かめる。
大剣ということからもある程度の重量は必要なのだが……うむ、いい塩梅である。
我の膂力と大剣の重量が合わされば、ただでさえ最強の座にいる我と対等にやり合える者はさらいいなくなるだろう。
バジリスクは長剣の部類に入るので、また違う戦い方もできる。
それに何より――美しい。
「こちらの名前はいかがいたしますか?」
「名前はカノンが決めてくれ。カノンから俺にくれるものだろう?」
「あらまあ。言い返されてしまいましたね」
微笑みながらも困った表情を見せることはない。
やはりカノンは頭がいいのだろう。我がこのように言い返すことも想定済みということじゃ。
「すでに名前も決めていたな?」
「バレましたか?」
「バレバレだ」
我の言葉を受けて、カノンは佇まいを正すと真っすぐに見つめながら大剣の名前を口にした。
「シルバークロー」
「名前の由来は?」
「うふふ、この子との出会いを記念して、ですかね」
そう言って、カノンはシルバーの頭を優しく撫でた。
「グルウ?」
「ボーヴィルスを探しに行って出会ったのですよね? でしたら、シルバーの名前を付けたいと思ったのです」
「そうか。なるほど、良い名前だな」
「グララッ!」
堕獣の存在は正直、嫌なものであった。
我と出会わなければ、もしかしたらシルバーも同じ運命を歩んでいた可能性もある。
しかし、シルバーは我と出会うことができた。そしてカノンとも。
シルバーが堕獣になることはあり得ないだろう。
それに伴い、我はカノンにとある提案を口にした。
「なあ、カノン。シルバーと共にここで暮らすか?」
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