第48話:カノンとシルバー
我の提案にカノンは驚いていたが、一番驚いたのはシルバーだった。
「ギャワン! ギャギャワン!」
何故置いていくんだ! と声高に叫んでおる。
幻獣としてはそうであろうな。シルバーは我を主と認めたわけで、カノンを主と認めたわけではないのだ。
「私もシルバーの意見に賛成です。幻獣は主と一緒にいるべきですよ。それに彼は幼獣でもあります。私を心配しての提案だとは思いますが、シルバーはグレンと一緒にいるべきです」
「まあ、それは分かるんだけどな。俺としては、やはり心配なんだよ」
「ここにはグレンの施した結界もあります。今回は受け渡しのタイミングを狙われて何者かに侵入を許しましたが、それ以外では絶対に安全な結界ですから安心してくれていいのですよ」
結界については全く問題はないだろう。
我が心配しているのは、カノン自身である。
「カノン。ずっと一人で寂しいのだろう?」
「……大丈夫ですよ。私は何年もの間、この家で一人で過ごしてきたのですから」
「だからこそ、誰かと過ごしてもらいたいんだ」
「誰かと話しができたら、それは嬉しいわ。だけれど、相手がそれを望まなければ受け入れられない。シルバーの気持ちが一番大事なのです」
我にもそれは分かっている。だが、シルバーなら分かってくれるはずなのだ。
「シルバー、カノンと暮らしてくれないか?」
「ギャワン!」
「嫌か? だが、カノンもシルバーと同じなんだぞ?」
「……ギャギャ?」
「分からないか? シルバーも俺と出会う前までは、ずっと一人だっただろう?」
「……ギャン」
「カノンも同じなんだ」
「ギャギャン?」
「そうだ、同じなんだ。だから、シルバーならカノンの気持ちが分かるだろう? 一人は寂しいという気持ちが」
我がここまで話をすると、シルバーは黙ってカノンへと振り返り見つめている。
困った顔のカノンに、我は言葉を掛けた。
「シルバーは一人の寂しさを知っている幻獣だ。カノンがどれだけ寂しかったかも分かるはず。お互いに、助け合うことができるんじゃないのか?」
すると、我の言葉を肯定するかのようにシルバーがカノンの足元へ移動して、顔を足に擦り付けている。
その姿を見たカノンは、優しく頭を撫でていた。
「……私のようなお婆さんと一緒でいいのかしら?」
「……グラッ!」
「うふふ、本当に良い子ですね」
「グルル、グルルゥ」
「そうね、それは大事なことだわ」
「シルバー、安心しろ」
シルバーが心配しているのは食事面であった。
先程までは残りたくないと言っていたくせに、残るとなればそれなのかと言いたくはなるのう。
「ここを覆っている結界を作ったのは俺だからな。シルバーだけは自由に出入りができるようにしてやろう」
「ガルラッ!」
「それなら安心ですね」
カノンとシルバーの意思を確認することができた。これで一人と一匹だったもの同士が一緒になることができる。
我としては一番良い結末を迎えることができたな――いや、違うか。
一番良い結末は我の家に来てくれることなのだが、それはもう少し先でもいいであろう。
「それでは、よろしく頼みますね、シルバー」
「ガウガウッ!」
「それじゃあ、俺は明日の朝にでも家に帰るとするか」
「今日の晩ご飯は豪華にいたしましょう」
「それは楽しみだな」
「グルルルルゥ」
「そうだな。その前にシルバーの食事が先だったな」
「グルアッ!」
我らは笑みを浮かべながら作業場を出ると、シルバーの食事の為に一旦別れた。
森の警戒もかねて最初に向かった森で獣を追い掛けさせる。数は少ないがその分たくさん運動もできるのでシルバーの運動不足解消にもなる。
我は我で森に異変がないか再度確認を行ったが、どうやら通常の森に戻っているようだ。以前見た異常な数の獣は、やはり堕獣が原因だったのだろう。
これならば安心してここを離れることができる。
シルバーが戻ってくるまでは森の中をゆっくりと探索し、森の恵みを軽くつまみながら穏やかな時間を過ごしていく。
家に戻ってしまえばこのような時間はしばらく無くなるだろうから、今くらいはいいかのう。
久しぶりの肉に大満足のシルバーを連れてカノンの家に戻ると、すでに食事の準備はできていた。
当然ながら美味の食事に舌鼓を打ち、昔話に花を咲かせ、これからのことについても話を膨らませる。
カノンには、何かあれば必ず我に連絡するようにと念を押した。自分一人であれば何かあっても連絡などしてこないだろうが、シルバーがいるのであれば話は別であろう。
我も数年に一度というわけにはいかなくなるので、時折時間を作ってカノンとシルバーに会いに来ようと思う。
そうして食事も終わり、これまた美味いお茶をすすり、部屋に戻る。
シルバーが我のベッドの中に入ってきたが、今日くらいはいいだろうと思いそのまま眠ることにした。
暖かく美しい体毛に包まれながら、我は穏やかな眠りについた。
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