第49話:帰宅

 翌朝、我はシルバーが結界を通り抜けることができるように魔術具を取り付けた。

 右前脚に取り付けられた魔術具は、結界に近づくと結界に通っている魔力を使用して発動するようになっている。

 それが原因で結界が弱まることもなく、また結界に魔力を通わせているカノンの魔力が多く使用されることもないので安心だ。


「それじゃあ、元気でな」

「またいつでも寄ってくださいね」

「ガルラッ!」

「もちろんだ。カノンにも、シルバーにも会いにまたすぐに訪れるさ」


 そう言いながら笑顔を交わすと、我は転移魔法で家から少し離れた場所に転移した。


 ※※※※


 懐かしい森の中に転移した我は、直後の衝撃に驚かされてしまった。


「グレン様!」

「な、なんだサラ!」


 サラが超音速で我に突進してきたのだ。

 わ、我でなかったら肉体が粉砕されて死んでおるぞ!


「すぐに戻ると仰っていたのに、遅いではないですか!」

「すぐじゃないか。経ったの五日だぞ?」

「経ったの五日! もう五日の間違いですよ!」


 我らの五日なんぞ、それこそ人間でいうところの数分と同じではないのか?


「おー、戻ったんですね、グレンさん」

「バランか、今戻ったぞ」

「早かったですね。もう少し遅いと思っていましたよ」


 ほれ見ろ、バランの反応が本来なら正しいのだよ。


「私にとっては長い、とても長い時間だったのです! グレン様との時間を無駄にしてきたあのような奴と同じにしないでください!」

「無駄にって、酷い言い草ですね」

「間違ってはいませんよ。あなたは長い間、人間界で無駄な時間を過ごしていたのですから」

「僕にとっては有意義な時間だったので無駄ではありませんよ。それに、そんな僕を頼ってグレンさんは迎えに来てくれましたから、僕も認められているということですね」

「あり得ません、あなたのような人が認められているなど」

「それじゃあ、サラさんはグレンさんの判断を否定するんですか?」

「そ、そんなわけないでしょう!」


 ……こ、この二人は我がいない間で仲が悪くなったのではないか? そうなると、シェイラとアヤが心配なのだが、大丈夫だろうか。


「五日の間、シェイラとアヤの指導はどうなった?」

「シェイラは順調ですよ。体術に関しても最初は嫌々でしたが、剣術を活かす方法を知ってからは前向きになりましたし、自分からどうしたらいいのかを質問するようにもなりましたからね」

「そうか、それは何よりだな」

「はい。この分であれば、早々に人間の中では上位の実力者になれますよ」


 確信を持ってそう答えてくれたバラン。はっきりと断言してくれるということは、それだけ自身があるということだ。

 これは、実際に対面するのが楽しみになってきたのう。


「アヤも順調です。シェイラさんも間違いなく成長していますが、バランが教えているくらいではまだまだです。アヤは私が教えているのですから、負けるわけがないじゃないですか」

「いや、別に勝ち負けを決めようとしているんじゃないんだが?」

「バランに負けるわけがないのです!」


 ま、まあ、アヤも順調ってことでいいの、かな?

 どのように成長しているのか全く分からない報告になってしまったのだが、これはこれで対面するのが楽しみではある。


「二人とも家で待っていますから、とりあえず戻りませんか?」

「バランの言う通りだな。俺も二人には早く会いたいし、戻るとするか」

「ではグレン様、私が転移でお連れいたしましょう。バランは一人寂しく戻ればいいのです」

「いやいや、ここから歩いて戻る為にわざわざここに転移したんだぞ? 三人で戻ろうじゃないか」

「……バラン、あなただけさっさと戻りなさい。私達はここからゆっくりと戻りますから」

「いやいや、三人で戻ろうと言ってくれてるんだから、僕も一緒に戻りますよ」


 ……マジで何があったんじゃ。


 ※※※※


 家に戻ると、シェイラとアヤが笑顔で出迎えてくれた。


「お帰りなさい、グレン様!」

「お帰りなさいっす!」

「あぁ、今戻ったよ」


 二人はサラやバランとは違い何も変わっていないようで安心した。特に、ニーナの時のようにアヤが変わっていなくて本当によかったぞ。


「修業は順調か?」

「はい! あたいの成長を早く見せたいです!」

「私もっす! ただ……」

「んっ? どうしたんだ?」


 そこで顔が曇ってしまったアヤ。

 振り返ってサラを見ると、こちらも困ったような表情を浮かべている。


「実は、アヤさんが使っていた双剣が魔法に耐えきれずに壊れてしまったのです」

「そうなんす。サラ様が使っている双剣を借りていたんですが、サイズが大きくてうまく扱えなくて。魔法の制御は格段に良くなっているっすけど……」


 やはり壊れてしまったか。まあ、既製品ではアヤの魔力に耐えきれないのは目に見えていたから仕方ないのう。

 それに、壊れることも見据えてカノンへ会いに行っていたのじゃからな。


「そうか。それならちょうどよかったかもしれないな」

「えっ?」

「ど、どういうことっすか?」


 二人の不思議そうな表情を見ながら、我は魔法袋マジックポーチからフォレシールを取り出した。

 美しく輝く翠の双剣。それを目にしたアヤとサラは感嘆の吐息を吐き出した。


「な、なんですかそれは!」

「……いや、だからなんでシェイラが反応するんだよ!」


 そこの反応はアヤに譲るべきじゃろうに!

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