勇者討伐!

第13話:勇者を探そう

 朝は早くから起きて魔境中腹へ向かう準備を始めた。

 とはいってもそこまで大掛かりにはならない。サラの転移魔法があるからの。

 サラが転移魔法を使えることは昨日の雑談で話てある。アレスは顔を引きつらせておったがのう。

 その点ニーナはうっとりした瞳でサラを見ていたが……いったい何をしたのじゃ、サラよ?


「さて、準備も出来ましたしそろそろ向かいましょうか」

「おう、よろしく頼む」

「サラ様、よろしくお願いします」

「お、お願いしましゅっ!」


 アレスは緊張し過ぎじゃのう。もう少しリラックスしなければ実戦でも力を発揮出来ないぞ。


「ただ魔境の中腹に行くだけだ。本番はその後だからリラックスしろ」

「す、すいません」


 自信をつけること、それが今回の目的になりそうじゃな。


「では、行きますね」


 サラの言葉と同時に我らが立つ地面に魔法陣が出現。光が徐々に上へと伸びて頭を超えたあたりで止まり激しい光を放つと共に我らを包み込んでいった。


 ※※※※


 丘の上に転移が完了し辺りを見回すと、目の前に広がる光景はまさに魔境であった。

 荒廃した大地に怪しげな色の植物、空気は淀みが酷く普通の人間であれば長くはいたくないだろう。遠目には下位の魔獣が跋扈している姿を見ることもできる。

 アレスは顔を真っ青にしながら丘の上からの光景を見つめていた。


「さて、まずは勇者がどの辺りにいるかを探そうか」

「そ、そんなこと分かるんですか?」

「きっとサラ様が探してくれるんですよね」

「うふふ。その通りですよ、ニーナ」


 ……ニーナのサラへの心酔が凄まじいのう。

 サラは内緒だと言っていたが、気になって仕方がないぞ。


「少し、

「視界を、飛ばす?」


 首を傾げるアレスに微笑みを返した後、サラは目を瞑りとある魔法を唱える。瞼の上に魔法陣が浮かび上がり視界をあらゆる所に飛ばしていく。


 ――視覚転移魔法。


 自らが知っている場所で一定の範囲内であれば視覚を転移させてその場から動かずに見えない場所を視ることが出来る。

 その範囲はそれぞれであるが、サラの視覚転移魔法の範囲は……この場からであれば魔境中腹の三分の二くらいであれば容易く視ることが出来るであろう。


「……五……いえ、六人かしら?」

「ふむ、意外と多いのう。アレスが言うには魔境でやっていけてるのも五、六人じゃなかったか?」

「僕も勇者全員を知っているわけではありませんから」

「それもそうか」


 しかし、これは好都合である。


「その中で一番弱そうな奴はどこにいる?」

「……北に二人、その中の一人が弱そうですね。一応、全員をマーキングしておきます」

「頼む」


 可能であれば全員をアレスとニーナに倒させて自信をつけてもらいたいからの。

 まあ、ニーナに関してはサラの教えから自信を漲らせているから問題はなかろう。

 数分後、魔法陣が消えると目を開けたサラはニコリと微笑んだ。


「北の二人はどんな奴だった?」

「一人は剣使い、もう一人は槍使いですね。剣使いは昨日までのアレスさんよりもやや強いくらいで、槍使いは剣使いよりもやや強い、と言った評価でしょうか」

「ならばまずは北だな。それと、一番強そうな奴はどこにいた?」


 少し思案するサラだったが、すぐに視線をとある方向へ向けた。


「南に、強そうな勇者が一人。さらに南にもう一人います」

「そうか。真逆だったのは好都合だな」

「どうしてですか?」

破気はきやハルジオンの攻撃は破壊力が高いからな。その音で勇者が集まる可能性もある」

「……それは、嫌です」


 いや、別に怖がらせたいわけじゃないんだが。それに聞いてきたのはアレスではないか、そんな真っ青になるでない。


「まあ、その二つを使いこなせれば大抵の相手には負けないはずだ。それと――これを渡しておこう」


 我が取り出したのは二つの指輪。これをアレスとニーナに一つずつ手渡す。隠蔽魔術とはまた違った魔法が付与された魔術具である。


「グレン様、これは?」

「変化魔術が付与された魔術具だ」

「……また魔術具」

「まあまあ、いいじゃないか。これをはめておけば相手からは二人が魔族に見えるからバレることはないぞ」


 魔術具が多いことを指摘するアレスをやや強引にやり過ごして魔術具の説明を行う。


「魔族にですか。でも、それだと勇者も本気で僕達を襲ってくるんじゃ……」

「当然だろうな。だが、本気の勇者を倒してこそ成長するんだ」


 心配はもっともだが、正直我はあまり心配はしていない。


「とりあえずそれをはめろ。そして北の勇者のところに行くぞ」


 嬉々として指輪をはめるニーナとは異なり嫌々はめるアレス。


「では、転移します」


 サラはそう言い終わるのと同時に魔法を発動――我らは勇者と遭遇することとなった。

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