第4話:その展開は予想外
この二人については色々と聞く必要がありそうじゃな。
「その洞窟には他に何かなかったか?」
「他にですか?」
「……いえ、特になかったと思います」
アレスが首を傾げ、ニーナがはっきりと口にする。
あの洞窟に施していた隠蔽魔術は、現魔王でも発見するのに三日三晩探し続けても見つからないような強力なものである。
それを特に労することもなく発見して、宝箱まで開けてしまったという。
……あの宝箱にもそれ相応の仕掛けをしていたんじゃがのう。
「あっ! でも宝箱を開けるときに、なんかこう、ぐにゃりとしたような気がします」
「ぐ、ぐにゃり?」
「はい! ぐにゃりです!」
……全然分からん! 最近の若いもんはよく分からん言葉を使うわい!
「えっと、空間が歪むというか、視界が歪んで見えたように感じました」
「……なるほど、分かった」
ニーナの説明は分かりやすいのう。どうやらアレスは直感派、ニーナは理論派のようじゃな。
そして我が宝箱に施した仕掛けもちゃんと作動していたようじゃ。
――空間阻害魔術。
対象物に我が接触を許した者以外が触れた場合に発動する魔術である。
空間を把握する能力を阻害し、宝箱から遠ざかるように意識を向けさせるのじゃが……この二人には効いておらなんだのう。
「……あの、一つ聞いてもいいですか?」
「何だ?」
アレスが恐る恐る口にしてきたので先を促すよう相槌を打つ。
……いや、何でそんなに青い顔をするんじゃ? 何か間違えたか?
「……グレン様、お顔が怖いですよ」
「む……すまん」
「いえ! そんなことありません!」
「それで、何が聞きたいんだ?」
「その……お二人はここで何をしているんですか?」
何をしていると言われてものう。チラリとサラを見るが首を傾げている。
「普通に暮らしているだけだが」
「……えっと、ここって魔境ですよね?」
「そうだな」
「……お二人は、その、人間、ですよね」
「……」
「……」
……わ、わわ、忘れていたわい!
そうか! さっきの質問もそういうことじゃったか!
人間が魔境の奥で暮らしているなんて、あまりにも意味が分からんではないか!
サ、サラもそんな顔をするでない、呆れないでくれ!
「……ここには結界を張っているからな」
「へっ?」
「結界を張っているから安全だ! たまに入ってくる魔族くらいなら追い払えるしな! それにこんな所でも暮らしてみたら楽しいもんだからな!」
「……はあ」
……分かっている、分かっているぞ、アレス。 今の我の言い訳が無理矢理であることくらい!
だが許せ! 今の我ではそれ以上の言い訳が思い浮かばないのだ!
「……そ、それじゃあ!」
む、何じゃ突然。何やら意を決したような言い方じゃのう。
「ぼ、僕を――弟子にしてください!」
「……へっ?」
何故そうなった? どこにそんな要素があった?
サラも呆気にとられているではないか!
「僕達を助けるために魔族を追い払ってくれたんですよね!」
「う、まあ、そうだな」
「僕にはそんな力はありません。だけど、グレン様に弟子入りしたら少しは強くなれると思うんです!」
「いやー、さすがに弟子はちょっとなぁ」
「ダ、ダメですか?」
だって、我は魔族だし、元魔王だし、元魔王が勇者を弟子にするなんて、あり得ないじゃろう。
……こりゃ、サラ。私は関係ありませんみたいな表情はやめんか!
「私からもお願いします! せめて、ここから人間界に戻れるくらいには強くなりたいんです!」
「「お願いします!」」
……これは困ったぞ。
ただ助けて情報を聞き出すだけのつもりが、まさか弟子入りを懇願されることになろうとは。
それに彼奴らの潜在能力は相当高い。我の魔術をものともしなかったのじゃから、もしかしたらグレンやサラに匹敵するやもしれん。
そんな奴を育てでもしたら、現魔王では太刀打ち出来ないじゃろう。
……いや、待てよ?
「……アレス、勇者は今現在で数十人はいるんだよな?」
「その通りです」
「そいつらの中に魔境でやっていける奴はいるのか?」
「ぼ、僕の聞いた限りでは五、六人位かと」
ほうほう、そしてそいつらも魔族には苦戦中で、魔王城までは辿り着けていないということか。
ならば――。
「――分かった、弟子にしよう」
「ほ、本当ですか!」
「グレン様?」
喜ぶアレスと困惑顔を浮かべるサラ。我はサラに手招きして壁際に移動する。
「……どういうことですか? 人間を弟子にするなんて」
「……我にも考えがあるんじゃよ」
「……考えですか?」
怪訝な目を向けるサラ。いくらサラでも人間の、ましてや勇者を弟子にするという行為は許容できないようじゃな。
「……現魔王について、どう思う?」
「……グレン様に比べれば大魔王とスライム、人間の言葉で言えば月とスッポンで御座います」
「……辛辣じゃのう。まあ、そうだとしてじゃ。今の勇者達が魔王城まで進行できると思うか?」
「……無理、で御座いましょう」
「……その通りじゃ」
益々の困惑顔に我は説明を続ける。
「……アレスとニーナを育て、現魔王の当て馬にする」
「……なるほど、理解しました」
うむ、理解が早くて助かるのう。
「アレスのことは俺が、ニーナのことはサラが鍛えてやろう」
「「はい!」」
「お二人を鍛えて――他の勇者を倒しましょうね」
「「「……えっ?」」」
いや、ちょっと、サラよ! 斜め上の理解でビックリなんじゃけど!
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