第20話:勇者ギャレスと聖剣デュランダル①

 セインが倒れたことでアレスは張り詰めていた糸が切れたのかその場に座り込んでしまう。

 正直、倒せるとは我も思っておらなんだ。

 セインの実力は今までの勇者と比べても差が大きすぎる。手傷を負わされたハルトと比べてもじゃ。

 それをギリギリとはいえ倒しきれたのは奇跡に近いじゃろうな。


「お疲れ様、アレス」

「し、師匠、お疲れ様、です」

「あぁ、座っていろ」


 立ち上がろうとするアレスを制止してそのまま話を続ける。


「ニーナのところもそろそろ終わるはずだ」

「そういえば、ニーナとサラさんは何処へ?」


 アレスの戦闘中に姿を消した三人だが、転移魔法で移動していた。


「あれ? でも、セインさん達は魔法阻害の魔術具を持っていたんじゃ?」

「転移魔法と魔法阻害魔術具は対象との距離で精度が決まってくる。遠ければ遠いほど阻害されやすいが、近ければ近いほど転移させやすい。どちらも能力や性能にもよるがな」

「それって、魔術具の意味がないんじゃ……」

「まあ、サラだからっていうところもあるがな。セイン達が持っていた魔術具は高価なものだったから、他の魔術師では阻害されるだろう」


 サラの魔力は魔族の中でも一、二を争う程に高いのじゃからな。相当性能が高い魔術具でなければ防ぐことは叶わないだろう。

 あの魔術師も相当の実力者のようだったが、ニーナとどちらが勝利したか。

 ……おっ、ちょうど戻って来たようじゃな。


「――ただいま戻りました。あら、そちらは終わっていたのですね」

「いや、俺達もついさっき終わったところだ。どうだった?」

「ニーナはとても優秀ですから、私の手を借りずにエルフィを圧倒してくれましたよ」

「サラ様のご指導の賜物です」


 エルフィと言ったか、あの魔術師は。

 それにしても手傷も負わずに倒しきるとは、ニーナの実力はどこまで高くなるのか、気になるところじゃのう。


「それで、エルフィはどうしたんだ?」

「気絶させて結界の中に放り込んでいます。こちらの勇者となら中腹より少し先に置いていても問題ないかと」

「まあ、こいつが強くなるならそう言ったこともありか」


 現魔王の当て馬をアレス以外に作っておくのも悪くないか。


「なら、セインもそこに転移させてくれ」

「了解致しました」


 手際よく転移を完了させたサラだったが、それには理由があった。


「――あれ? セインの奴、負けたんだね」


 そう、勇者の一番手が自ら近づいて来たのだ。

 やはり上位の勇者となれば近くで戦闘が起こっていれば嗅ぎつけてくるようだが……強いのう。

 姿を見せてからも笑顔を絶やさない不気味さ、それでいて実力の片鱗すら見せない異様さ。

 セインが実力を見せつけて相手を威圧していたのに対し、彼奴は実力を隠して不意をつくことも厭わない狡猾さを持っているようじゃな。


「君が倒したのかい?」

「えっ、あっ、まあ」

「ふーん、そっか」


 刹那――煌めく剣閃と我のバジリスクが激突、甲高い金属音と共に聖剣と魔剣の相反するエネルギーが大爆発を引き起こす。

 吹き飛ぶアレス、ニーナを庇うサラ、そして大爆発の中心に立つ我と一番手の勇者。


「あれ、仕留めきれなかった」

「俺の目を誤魔化そうとは、舐められたものだな」

「下っ端から倒して数を減らすのはセオリーじゃないかな」

「下っ端か……貴様、気づいているな?」

「何のことかな」


 鍔迫り合いの中で言葉を交わしながら、その微笑みを崩さないとはのう。

 それに、この聖剣は!


「聖剣、デュランダル」

「そういう君の魔剣はバジリスクか」


 かつてはグレンが使っていた聖剣の中でも名剣に数えられる一本。ハルジオンやセキレイをも凌駕する聖剣を使いこなすか!


「貴様は面白そうだ、名前は?」

「名乗るなら、君から名乗ったらどうだい?」

「……グレン」

「へぇ、過去の勇者と同じ名前か」

「ほう、過去と言うか」

「過去だね。今は新たな勇者が多く存在する群雄割拠の時代だからね、過去に目を向けていたら置いていかれてしまうんだよ!」


 むっ、我の力を、押し返すか。

 仕方ない、一度距離でも取ろうかのう!


「ふんっ!」

「はあっ!」


 見えざる力同士が激突――聖剣と魔剣の衝突と同等の大爆発が目の前で巻き起こり、それと同時にお互いが飛び退き距離を取る。

 ほほう、彼奴も破気はきを使うか。


「最近の魔族は破気を使うんだね」

「昔から使っていたがな」

「それは上位魔族だけだよ。君、今の姿に気づいてるよね」

「それもそうか。それで、貴様の名前は?」

「あぁ、そうだったね。僕の名前はギャレス」


 ギャレスか、覚えておいて損はなさそうじゃ。


「それと、パーティを組んでいないのか?」

「僕の実力に見合う仲間を探す方が大変なんだよ。足手まといになるし、一人の方が気が楽なんだ」


 笑いながらも破気をぶつけ合っている我とギャレス。後ろではサラがアレスとニーナを結界魔法で守っているので思う存分破気を放っているが……さて、どうしたものか。


「わざわざ移動する気もないよ。本当の実力で来られたら苦戦しそうだからね」

「ほう、それでも勝てると思っているのか」

「そうじゃないと、勇者なんてやってられないよ」


 本当に飄々としながらも狡猾じゃ。

 我を狙っていると思いきや、後ろの三人を狙う破気が巧みに混ぜられておる。

 我が撃ち落としてるし、サラの結界もあるが、何が起こるか分からないのが勇者との戦いじゃからな。

 念には念を入れておくかのう。


「いいや、こちらに付き合ってもらうぞ」

「へえ、それはどうや――」


 転移魔法が使えるのはサラや教えてもらったニーナだけではない――我も使えるのじゃよ。


「――……やられた、君も使えたんだね」

「普段は使ってくれる奴がいるからな」


 我とギャレスが転移した場所は魔王城が遠目に見えるほどの奥地である。

 ここならば暴れても周囲への影響はほとんどない。

 ……我も楽しみたいからのう。


「それじゃあ、始めようか!」

「分かったよ、お手柔らかにね」


 くくくっ、ギャレスよ、目が笑っておるぞ!

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