第14話:勇者ライネル

 突如として四人もの魔族が目の前に現れた勇者パーティは、意外にもすぐに臨戦態勢に入った。

 周辺の勇者の中では一番弱そうな相手のはずだが、動きは熟練のパーティの様に見える。


「魔族め、意表を突いた思っただろうが甘かったな! 勇者ライネルのパーティが貴様を倒してやる!」


 勇者ライネルか……聞いたことがないのう。

 チラリとアレスを見ると、少し震えている様な気がする。


「……どうした?」

「彼は、以前僕を叩きのめした勇者です」

「何だ、勇者同士でも戦っているじゃないか」

「違います! 以前お話しした教官に剣術を教えられた時です」

「あぁ、一時間だけというあり得ない指導な」

「あの時は僕と一緒にライネルも指導を受けていたんですけど、模擬戦でボコボコにされたんです。そのせいで教官はライネルにだけ剣術を教え込んだんです」


 あの話の裏にはそんなことがあったんじゃな。

 ならば、このライネルとかいう勇者には剣術だけで勝ってもらわなければいけないのう。


「アレス、奴には剣術だけで勝て」

「えっ!」

破気はきもハルジオンの光刃も禁止だ」

「で、でも、剣術だけで勝てる相手じゃ――」

「誰がお前の師匠だ?」


 我の言葉にアレスは目を見開いて口をつぐんだ。


「グ、グレン様です!」

「よろしい、ならば奴くらいなら問題ないさ」

「勇者のパーティに関してはニーナに相手してもらいましょう」

「二人いるが大丈夫か?」

「大丈夫です。私はサラ様の弟子ですから」

「うふふ、私も見ていますからグレン様はアレスさんをお願いします」


 サラが見ているならば万が一もあり得ないであろう。


「お喋りはお終いか?」

「ふん、この隙に攻撃してこないなど、今の時代の勇者はバカしかいないらしいな」

「貴様らなんぞ、正面から叩きつぶしてくれる!」


 ライネルから見た我らは、現在中位魔族くらいに見えているはずじゃ。

 それにも関わらずあれだけの自信を持っているのであれば、中位魔族を既に討伐した経験があるのか。


「ミナ! シェーラ! 援護頼む!」

「任せ――」

「やらせないわよ」


 ミナと呼ばれた魔術師の返事を待たずにニーナが魔法を発動――おいおい、まさかの転移魔法ですかい!

 サラよ、ちょっと大盤振る舞いし過ぎではないか?


「んなあっ! 貴様ら、二人を何処へやった!」

「……すまん、俺にも分からん」

「はあっ! 分からんとは何だ、分からんとは!」


 いやだって、あの二人が勝手にやったことなんだもん。知るわけなかろう。


「とりあえずお前達を倒してから二人を探す、覚悟しろ!」

「……まあ、アレスの力を試すにはもってこいの状況だな。後は任せたぞ」

「は、はい!」


 ハルジオンを抜き放ったアレス――ライネルには普通の剣に見えてるだろうが――は、一歩前に出て剣先をライネルに向ける。


「ふん、まずは貴様か」

「よ、よろしくお願いします!」

「何を言っている? 貴様は俺の聖剣に斬り捨てられるんだよ!」


 そう言ってライネルも聖剣を抜き放つ。

 あれが、量産されている聖剣かぁ。うーん、何というか……しょぼい聖剣じゃのう。

 聖なる力も下位魔族には通じるじゃろうが、それ以外には通じないじゃろう。

 本当に中位魔族を倒した経験があるのだろうか。


「ゆくぞ!」

「は、はい!」


 それとアレス、お主は今魔族の姿をしているのだから話し方を考えんか!


 駆け出したライネルは最初の頃のアレスみたいに正面から突っ込む、ということはなかった。

 右回りに円を描きながら徐々に間合いを詰めており、自らのタイミングで飛び込んでいくのだろう。

 ……その戦法を実際の戦場で使っている奴を初めて見たわい。仲間の魔族がいる中でそんなことをしたら、背中から攻撃されても仕方ないぞ。


「はあっ!」

「ていっ!」


 アレスが隙を見せなかったのに焦れたのか、ライネルは突然飛び込み袈裟斬りを放った。

 剣先を常にライネルに向けていたアレスは難なく受け、鍔迫り合いとなるが我が見せた前蹴りをそのままライネルの溝打ちに叩き込む。


「ぐはあっ!」


 動きを重視したのだろうか、薄い皮鎧を身に付けていたライネルには結構なダメージになったようだ。


「き、貴様! 剣と剣の戦いの中で武術を織り交ぜるなど、卑怯ではないか!」

「……へっ?」

「……はあ?」


 こいつ、本気でそんなことを言っているのか?

 さっきの戦術といい、今の発言といい、まさか何かしらルールのある剣術大会と勘違いしておらんか?


「貴様がその気なら俺だってやってやる!」


 突然訳の分からんことを口走り始めたライネルの聖剣が光を放つ。

 ……うわー、とっても儚い光だのう。彼奴はもしかして――。


「行くぞおおおおぉぉっ!」


 聖なる力を宿した聖剣を頭上に掲げて一気に振り下ろす。


「セイントエッジ!」


 小さな光刃が振り下ろされた刀身から放たれると一直線にアレスへと迫る。

 今までのアレスであればすぐに悲鳴を上げて逃げ出していたであろう。だが、ハルジオンの光刃を五つも顕現させてみせたお主なら問題ない。


「てい」


 ハルジオンを軽く横薙いだだけ、たったそれだけの行為でライネルが放った光刃は消滅してしまった。


「えっと、これで終わり、ですか?」

「……こ、この野郎!」


 あー、ヤケになってしもうたな。最初に会った時のアレスよりも酷い構えじゃないか。


 ――その後、数分も保たずしてライネルはアレスに倒された。

 ……ほ、他の勇者はもう少し歯ごたえがあることを願うばかりじゃわい。

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