第26話:弟子入りの確認
そうして準備を進めること数時間後――二人の女勇者が目を覚ました。
ベッドから起き上がり周囲を見渡している。
「……ここは、何処?」
「……シェ、シェイラ、私達って、魔族と会わなかったっすか?」
「確か、魔族と遭遇して……ダメ、その後の記憶がないわ。アヤは覚えてる?」
「わ、私も、覚えてないっす」
……出会い頭に気絶してしもうたからな。
「――あら、目を覚ましたのね」
そこに何食わぬ顔でサラが姿を見せて声をかける。
「だ、誰なの!」
「私はサラ、この家の主に仕えている者です。安心してください、貴方達が出会った魔族は追い払いましたからね」
「魔族を、追い払ったっすか?」
「うふふ、私の主には造作もないことですから」
おいおい、我のイメージが高くなり過ぎるのではないか? 変にハードルを上げて欲しくないのだが?
「せっかくですから主も紹介いたしましょう。連れてくるから休んでいてくださいね」
そう言って立ち上がったサラが部屋を出てこちらにやって来た。
「視覚転移でご確認されていたと思いますが、グレン様、参りましょう」
サラに促されて我も部屋に入った。
「目を覚ましてくれてよかった。俺はこの家の主でグレンという。よければ二人の名前を聞かせてくれないか?」
「あっ、はい! あたいはシェイラと言います!」
「私はアヤっす! こ、この度は助けていただきありがとうございますっす!」
な、なんかお礼を言われると心が痛む。なんせ我の姿を見て気絶してしまったわけだからのう。
……おいおい、サラ。笑顔ではあるが少し雰囲気が怖いぞ? 二人共普通の返しだったではないか!
「ところで、二人はこんなところで何をしていたんだ? 見たところ他に仲間もいなさそうだったが」
「そ、その、あたい達は勇者なんですけど、同じ勇者の卵だった奴がもの凄い成長を見せたと聞いて会いに行ったんです」
あー、それはアレスのことであろうな。うんうん、勇者界隈では有名になったのだなぁ。
「そしたら、そこには勇者ギャレスもいて、話を聞いたら辺境に面白い指導者がいる、って聞いたんです」
「……面白い指導者ね」
彼奴、変な伝え方をしておるな。
「それで、私達もその指導者に師事をお願いしたいと話したところで、その……」
「なんだ、どうした?」
アヤが言いづらそうにしているので、話を促してみる。
「……一緒にいた魔術師の方が、転移魔法を突然使われまして、気づいたら魔境にいたっす」
ニーナのバカモン! 何故いきなり転移魔法を使っておるのじゃ! そんな目の前で使っておったら悪目立ちするではないか!
……サラは何故に満足気に頷いているのかのう!
「そ、そういうことか」
「あの、恐れ入ります」
「なんだ?」
「その、もしかしてですが、お二人が勇者ギャレスが言っていた指導者なんですか?」
「……あー、まあ、そういうことになるな」
我が肯定を示すと、二人は表情を綻ばせて手を取り合った。
そんなに嬉しかったのかと思うと我も嬉しい――のだが、サラの視線がとても痛い。
わ、我が師匠になるのは本当にダメのようじゃのう。
「どうか、あたい達の師匠になってください!」
「お願いするっす!」
「まあ、なんだ。なってやってもいいんだが――」
「お二人の師匠には私がなりたいと思います」
満面の笑みの中に我にしか分からない殺気を纏わせながらそう答えたサラ。
顔を引きつらせている我を見て二人は首を傾げているが、気づいていないなら問題ないだろう。
「あの、それは嬉しいんですけど、サラ様は剣士なのですか?」
「私は魔術師ですが、問題ありませんよ」
「あ、あたい達は前衛職を得意とする勇者ですから、魔法の練習は……」
「もちろん理解しています。シェイラ様には体術を、アヤ様には魔法適正があるので魔法剣士を目指して指導していきますよ」
僅かに殺気が漏れ出て二人がぶるりと震えたのが見えた。
「お、おい、サラ? ちょっと落ち着け」
「グレン様、言いましたよね? 女性を指導するのはいけませんと」
「だからと言って無理強いは――」
「グ・レ・ン・さ・ま?」
……ま、まずはその殺気を抑えて欲しいんじゃがなあ! 漏れ出てるから二人の顔が青くなっておるぞ!
「あ、あの! あたい達がお邪魔なら今すぐにでも帰ります!」
「はいっす! お二人の世界をお邪魔するつもりはないっすから!」
ほれ! 怖がってしまったではないか!
「いや、そういうわけじゃないんだ、すまないな。しかし、サラに全てを任せるわけにもいかないし、どうしたものか。アヤに関しては魔法適正を伸ばしてもらいたいから問題ないが、シェイラがな……」
我は少しの時間だけ思考する。
確かにサラは体術もできる。というか、我と同じで全ての戦法においてマスターしている万能魔族じゃ。
しかし、やはり専門職には遅れを取ってしまう。せっかく指導するのであれば、満足いく指導をしてやるのが師匠を受ける者の務めであろう。
「あ、あのー」
「んっ、どうした?」
そこで声をかけてきたのはシェイラだった。
「わ、私は体術を習うん、ですか?」
「そちらに適正が高いようだからな。弟子にするならそのつもりだが?」
少し困ったような顔をするので、話を聞いてみることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます