第18話:勇者セインと聖剣セキレイ①

 到着した場所は勇者との間に小高い丘を挟んだ反対側である。アレスの態勢を整えた上で迎え撃とうと考えたのじゃ。しかし――。


「――こんな所に中位魔獣だと?」


 どうやら我らの存在を察知して駆けつけたらしい。そして、明らかに今までの勇者とは迫力が違う勇者が現れたぞ。

 さすがは二番手の実力者ということか。


「私の索敵にも引っ掛かりませんでしたし、突如として現れたようにも感じましたので、おそらく転移かと」

「そうか。必要ないかとも思っていたが魔術具も役に立ちそうだな」


 パーティを組んでいる女性魔術師も実力者のようじゃな。周辺の索敵を行い、なおかつ我らの存在に気づいたのじゃからのう。

 そして腕にはめている魔術具、あれは魔法阻害の魔術具じゃな。

 ちゃんとしているパーティは、やはりちゃんとしているらしい。


「……二人か」

「それがどうした?」

「いや、何でもない」

「ふん、流暢に言葉を話す魔族だな。貴様、本当に中位魔族か?」


 睨みを効かせる勇者に、我は一定の驚きを覚えた。

 これだけの会話から中位魔獣なのかと疑える冷静さを持っており、更に会話しながらも周囲への警戒を怠っていない。右手は聖剣の柄をずっと握っておりいつでも抜ける準備ができている。

 そして、一番の驚きはその聖剣である。


「中位魔族だ。それよりも、その聖剣は厄介そうだな」

「これを知っているか。益々中位魔族なのかどうか怪しくなったものだな」


 量産された聖剣ではない、昔から存在している既存の聖剣――セキレイ。

 炎を自在に操ることが出来る聖剣で、過去の使用者の中には炎に命を吹き込んだなんて話も聞いたことがあるくらいの名剣じゃ。


「俺の相手はお前だな?」

「いや、こいつが相手をする」


 我だってやりたいのじゃが、ここはアレスに譲る場所なのじゃ。

 ……その後の一番手とやりたいからってわけじゃないぞ。


「よ、よろしくお願いします!」

「……貴様が持つのは魔剣か。仕方ない、貴様を倒してから親玉を斬ってやる」

「セイン、残りは私がいただくわね」

「好きにしろ」


 セインと呼ばれた勇者はセキレイを抜剣し前に進み出る。

 丘の上から悠々と歩いてくる姿には貫禄があり、アレスとは経験も場数も圧倒的に違うのだと態度から理解することが出来る。


「全能力を解放しろ。剣術も、破気はきも、光刃もだ」

「わ、分かりました!」


 おそらく温存なんて言っていては倒せない、むしろアレスが斬られてしまう恐れがある。

 強い勇者が現魔王と戦ってくれることは楽しそうだが、我が育てたアレスが倒されるのを見るのは面白くない。

 アレスもハルジオンを抜剣し前進、徐々にお互いの距離が詰まっていく。そして――。


「はあっ!」

「えいっ!」


 お互いに袈裟斬りを放ちハルジオンとセキレイが衝突、白と黒の光が絡み合い爆発を引き起こす。

 本当なら聖剣と聖剣の衝突で爆発など起こらないが、そこは我の魔術具のお陰である。

 ハルジオンは気に食わないじゃろうが、少しだけ魔剣の波動が発生するように工夫しているんじゃよ。


「中々上位の魔剣みたいだが、セキレイには遠く及ばんぞ!」

「ま、負けません!」


 後方に飛び退いたセインは着地と同時に前進、右肩を前面に出るくらい体を捻り高速の横薙ぎ。

 しゃがみ込み回避したアレスの頭上をセキレイが駆け抜けた直後、金の構えから斬り上げ。

 大きく右足を下げて半身の体勢から体を反らせたセインの目の前をハルジオンが通過、バク転で距離を作ったかと思えば大きく一歩を踏み出して心臓目掛けた刺突。

 刀身を盾にして剣先を受けたが、全体重を乗せた刺突に押し負けてアレスは後方へ押し返される。

 たたらを踏むアレスを見て更に前進、烈火の如き攻めで一気に仕留めに掛かった。


「ザコは邪魔だ!」

「ザ、ザコじゃありません!」


 地の構えから迫る刃を右へ左へ払い、受け流し、後退しながらも踏ん張り続けている。


「守りだけは固いようだが、これならどうだ!」


 光り出したセキレイは、その光を紅く染めて熱を帯び始めた。

 セキレイの特殊能力――発火現象。

 能力の中でも初級の能力だが、その威力は破格じゃ。触れたものに熱傷を負わせるだけでなく、触れずとも熱波を浴びせて同様の傷を負わせることができる。

 斬り合うにも、受けるにも、躱すにも必ずダメージが残ってしまうのじゃ。


「あっち、あっつい!」

「これで終わりだ!」


 熱波によるダメージがアレスの集中力を削っていく。

 そこに迫るセキレイの刃。

 ……まずいか。

 熱波を浴びながらセインと斬り結ぶには、アレスの実力では及ばない。

 我が一歩踏み出そうとした――その時である。


「――なにっ!」


 確実に捉えたと思った渾身の横薙ぎ。アレスの眼前まで迫ったセキレイの刃。

 しかし、セキレイは見えざる力に軌道を逸らされるどころか、押し返されてしまう。

 見えない力を警戒したセインは飛び退き手の平に視線を向けると、痺れを取るために軽く降る。

 そして睨みつけるようにアレスへと視線を向けた。


「……貴様、破気使いか」

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

「くそっ、こんな死に損ない相手にこれを使うことになるとはな」


 ほう、まだ何か奥の手を隠し持っているようじゃな。

 何が出てくるのか楽しみに見ていると、セキレイの紅い光が光量を増して真紅に染まり始めた。


「俺の力になれ――セキレイ!」


 真紅の光が炎と化し解き放たれたかと思えば、炎が何かを形作り空を飛び始めた。


「……ほ、炎の、鳥」

「炎の化身、セキレイよ。奴を消し炭にしろ!」


 まさか本当に炎に命を吹き込むとはのう。セインか、恐れ入ったわい。

 さて、アレスよ。この危機、どう乗り切るかのう?

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