第21話:勇者ギャレスと聖剣デュランダル②

 まずは小手調べじゃ。

 バジリスクを片手で握り小さな振りの速度重視で攻め立てる。威力はないがバジリスクがつけた傷は毒を伴い体内を侵食する。

 この魔剣がバジリスクだと知っているならば全力で防ぎに来るじゃろう。


「そうだなぁ、こんな感じかな?」


 ほほう! 我の剣術を一目見て真似しよるか!

 威力、速度、手数まで同じで、一進一退の攻防じゃ。

 合間に破気はきを織り交ぜてみたが、それすらも相殺してきよる。


 ならば、これでどうじゃろうか。

 空いている左手で闇魔法を発動、視界を奪う暗闇魔法を仕掛けたが――おおっ! 完全に防がれたぞ!


「魔法阻害魔術具、それも超一級品か!」

「どうだろう、君の転移魔法は阻害できなかったからね。それに君の魔法阻害も相当なものだね」

「我に魔法で勝とうなど考えない方が良いぞ!」

「そうみたいだね。仕方ない、少し本気を出そうかな!」


 これで本気じゃないと申すか。

 なかなかどうして、隠居した身とはいえ血湧き肉躍るわい!

 ギャレスの剣速が上昇、それに合わせて我も徐々に速く、鋭く振り抜いていく。

 フェイントに引っかかることもなく打ち合うこと五分くらいじゃろうか、全く同じタイミングで強く振り抜き爆発、突風に合わせて後退し破気を放ち再び爆発が起こると、砂煙が巻き上がり視界が悪くなる。

 ここで仕掛けてくるのを待つか、あえてこちらから仕掛けるか、考えるだけでも楽しくなるのう。

 ウキウキしながら考えていると――砂煙を斬り裂きながら十以上の光刃が襲い掛かってきた。


「デュランダルを扱うだけのことはあるな!」

「まだまだ小手調べだよ!」

「ますます面白い!」


 両手に持ち替えてバジリスクで光刃を斬り裂いていくのと同時に我も攻撃の準備に移る。

 漆黒が刀身を包み込み異空間を出現、飼っている魔虫を放っていく。

 迫ってくる光刃に落とされる魔虫もいる中で、隙間を縫ってギャレスへと近づく魔虫も数多くいる。

 だが――魔虫はある一定の距離まで近づくと次々と地面に落ちてしまう。

 ……むむ、死んでいるようじゃな。


「デュランダルの聖域に、魔虫如きが入り込めるわけないじゃないか」

「ちっ、そうだったのう」


 デュランダルの能力は絶対聖域。一定空間内に魔の力が侵入するのを完全に防ぐ能力。

 人間界で行動するならそこまで強力な能力ではないが、魔境で行動するならデュランダル以上に強力な能力はないかもしれん。

 何しろ魔の力を完全に防ぐのだから、魔族特有の攻撃が効かないということじゃからな。

 魔族は通常の魔力も人間に比べれば高いが、いかんせん工夫することが苦手である。単なる力押しで勝てる相手であれば問題ないが、ギャレスのように頭が切れる相手であればそうもいかん。

 我でなければ最初の一撃でアレスは首を斬られ、今ここまでの斬り合いも存在しなかったであろう。

 ――しかし、攻略手段はある。


「この光刃、邪魔じゃなあっ!」

「うわぁ、デタラメな魔族だなぁ」


 漆黒を纏わせたバジリスクに魔力を注ぎ込み魔虫を生み出しながら横薙ぐと、魔虫が巨大な黒刃を形成し残る全ての光刃を吹き飛ばしていく。

 さらに黒刃に姿を隠しながら接近、絶対聖域の内側に入り接近戦へと持ち込む。

 魔虫であれば聖域に阻まれてもおかしくはないが、我とバジリスク本体は別格じゃからのう。問題ないわい!

 激しい剣閃。爆発する魔と聖のエネルギー。鳴り響く剣戟音が耳をつんざくのも気にならない。


 ――楽しい、楽しいぞ!


 そう思いながら我はバジリスクを振り続けた。

 しかし、ギャレスはこの楽しい戦いを終わらせるための策を講じていた。


「デュランダル、聖域解放」

「むっ、むむむっ? ぬおおおおぉぉっ!」


 戦闘の中盤で聖域解放とな! 流石に予想外であるぞ!

 我が戦況を見誤ったか? いや、それはないはずじゃ。

 ならば何故ギャレスは戦いを急いだのじゃ? それとも、ギャレスの中ではすでに終盤に差し掛かったとでもいうのか。

 それとも気をてらった策の一手なのかもしれんが……今は絶対聖域の外に出ることが先決じゃ!


「――逃すと思うかい?」

「ちいっ! 考えることは同じか!」


 聖域解放とはデュランダル使用者以外の完全排除である。これは魔の力を持つものに限らず、使する極めて強力な一撃じゃ。故に一度使うと次の使用までに時間を置く必要がある。

 聖なる力の凝縮を感知してカタカタと音を立てて震えているバジリスクに我の魔力を注ぎ込み、自爆よろしく我とギャレスを中心に大爆発を巻き起こす。

 その直後に聖域解放が発動。

 爆風に乗って一気に後方へ、紙一重で致命傷を避けることは出来たが――。


「……あれ、左腕一本だけか」

「ふん、これでも十分な成果だと思うがな」

「君っておかしいよね。自爆紛いの大爆発、左腕を失ったっていうのに――笑ってるんだから」


 ふふふ、これが楽しくなくてなんだというのだ! 我の左腕を落とすなど、グレン以来ではなかろうか。


「そういうお主はどうなんじゃ? 楽しそうに見えるがのう」

「楽しいわけないじゃないか。僕にもダメージは残ってるんだからね」


 先程の大爆発で衣服はボロボロ、肌も黒く焦げている部分が見られる。


「我にはそのように見えんがな」

「どう見えているのかな?」

「嬉々として剣を振るい楽しんでいるように見えるぞ!」

「はは、どうかしているよ。……まあ、今まで倒してきた魔族と比べれば多少は楽しいかもね」


 そうか、そうであろうな! やはり勇者とはそうでなければならん!

 アレスがギャレスの域にまで到達するのはいつになるか分からんが、このように戦いを楽しめるようになってくれれば良いのう。

 しかし、残念じゃ。この楽しい戦いももうすぐ終わりを迎えることになるからのう。

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