第2章:弟子は女勇者
弟子入りアクシデント
第25話:二人の勇者の卵
気絶した二人を担いで我らは家に戻ってきた。
アレスとニーナの時を思い出して自然と頬が緩んでしまうが、どうして勇者達は魔族を目にして気絶してしまうのだろうか。
お主ら、魔族を倒すために来ているのだろう?
「グレン様、彼女達をいかがいたしましょうか?」
「いかがするって、ギャレスからはよろしく頼むと言われたし、アレスにもお願いされたわけだからな。話を聞いて、やる気があるなら弟子にしてやるか」
「かしこまりました。では、少し彼女達を視させていただきます」
「よろしく頼む」
アレス達の時にはやらなかったが、手っ取り早く相手の能力を確認する方法があるのじゃ。
「では――ステータスシーフ」
サラの瞳が金色に光り輝くと、その瞳で気絶している二人の勇者を見つめる。今、サラの脳内には二人の能力が数値化されて表示されているだろう。
それらを参考に、彼奴らをどのように育てるかを考えるのじゃ。
「まず、剣使いの黒髪の勇者ですが、俊敏性が特に高いですね。それに……おや?」
「むっ、どうした?」
「……剣を装備していますが、剣術はあまり得意ではないようですね」
「何だと? ギャレスの奴、間違えてこっちに転移させたんじゃないのか?」
「いえ、恐らく間違いではありません」
「どういうことだ?」
「黒髪の勇者は、体術に相当な資質を持っているようです」
「……体術?」
むむっ、普通なら自らの得意分野を伸ばすのが常套手段のはずじゃが、この勇者は何を考えているのじゃろう。
「続いて、双剣使いの銀髪の勇者ですが、こちらは得意分野をきっちりと伸ばしているようですね。双剣術もなかなかに高いと思います」
「そうか。他には何かあるか?」
「そうですね……あぁ、魔力量が双剣使いにしては高いですね、魔術剣士の資質がありそうです」
「ほほう、珍しいな。人間で魔術剣士の資質があるとは」
魔法は魔族から生まれたものと言われておる。それゆえに魔族の剣士には元々の資質として魔法を使える者も多いが、人間はそうではない。剣士なら剣士、魔術師なら魔術師と、それぞれの能力しか有していないのが普通なのだ。
ギャレスは魔法も使いこなしていたので、彼奴は魔法剣士といってもいいかもしれん。
黒髪はともかくとして、銀髪は面白い成長を遂げるかもしれんのう。
「そうなると、我が黒髪を教えて、サラが銀髪を――」
「いえ、それはいけません!」
「……サ、サラ、どうした?」
「今回は私が二人とも指導いたします!」
……な、何故こうも睨まれながら言われなければならないのか、理解に苦しむのだが?
「だが、銀髪は魔法を鍛えればよいと思うが、黒髪は体術だろう。ならば俺の方が適任じゃないか?」
「私だって体術くらいできます!」
「いや、それは分かるが適任かどうかでいえば、俺の方が適任だろうに」
「……から……」
「んっ? 何か言ったか?」
あまりにも小声で聞こえなかったので聞き返す。
「女だからです!」
「…………はあ?」
そ、そんな理由で我を師匠から外そうとしているのか?
「さすがにそれは酷くないか? 別に勇者に色目を使うわけではあるまいし」
「グレン様はそうでしょうとも。ですが、勇者達がそうならないとは限りませんもの!」
何の心配をしておるんじゃ!
そもそも我が色目を使われたとしても何も起こらないんだから気にする必要なんてないではないか!
「か、考え過ぎだと思うぞ?」
「いーえ、ダメです! もし黒髪の師匠が私ではダメだと言うのなら、グレン様以外を師匠に付けてください!」
「そんな無理なことを言うな!」
この場に我とサラしかいない状況で誰を師匠にするというのじゃ!
「……と、とにかく、まずは二人が目覚めてから話を聞くことにしよう」
「師匠の件は絶対にダメですからね」
「その話も後で――」
「絶対にダメです!」
「……はぁ」
本当に、この姿になったサラは変わってしまったかのようじゃ。
昔は我の言うこと全てに肯定を示してくれたのに、今ではこうやって否定的な発言をしてくるし、言葉もきつい。
我から提案した人間の姿だからもう止めたいと言っても、何故だか止めてくれないしのう。
「……そのことについても考えておくから、今はな? 目覚めた時のことを考えよう」
「……かしこまりました。では、アレスやニーナの時と同じでよろしいのではないでしょうか?」
「そうだな。ただ、二人とも女だから最初に顔を見せるのはサラがいいだろう」
「それもそうですね。グレン様を見ていきなり色目を使われでもしたら、私の魔力が暴走してこの一帯を吹き飛ばしてしまうかもしれませんから」
「いやいやいやいや、何を言っているんだ?」
「気になさらないでください。私が最初に顔を見せれば問題ないことですから」
……いや、満面の笑みでそう言われてもその笑顔が怖いんじゃが!
はぁ。ギャレスめ、厄介ごとを持ってきてくれたもんじゃわい。
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